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25.
「早速いくか!『上級雷魔法 風神雷神への雨乞い』」
ぽつぽつ、と雨が降り始めて黒い雲が空を覆い尽くす。
「私の前では無意味よ。優花、頼んだわ。『究極支援魔法 |他人《ひと》任せの攻撃』」
名を呼ばれた彼女はため息をついてこう言った。
「全部私に任せてるじゃないですか。『究極累魔法 乱舞 千花の想い』」
前と同じ攻撃、でも対処法は見つけてるんだよね!
「『上級闇魔法 |闇吸花華《ナイト フラワー》』『|連撃 花咲乱断《ナイト フラワー ダンス》』」
花を侵食させる、これであの技は機能停止も同然。
「『上級花魔法 花鳥風月、百戦錬磨』ただの花魔法ではないですよ。」
優花の手から魔法陣が出て、エネルギーが溜まっていく。
「我が思うに、あれはレーザーだな。」
美和さんがそうつぶやいた。私には彼女が言いたいことがわかった。
「目には目を、レーザーには?」
私はそう問いかける。
「我のレーザーの出番というわけだ!」
「『神降 月華神威』さぁ、火力勝負の始まりだ。」
ほぼ同時にレーザーが現れた。
相手を散らすため、自分たちの思いを守るため。
2人がレーザーを放っている間、私は加勢したり支援したりする。
シャルムや美音も、自分にできることを頑張っている。
でも―――
「なんで、あいつは動かないんだ?」
私の姉は微動だにしない。
ずっと支援魔法を使うよりも、私達の攻撃を相殺するほうが効果的なのに。
優花はレーザーの制御で精一杯、それなのに私達の攻撃にも気を配る必要がある。
そういえば、あいつの支援魔法の名前は、『|他人《ひと》任せの攻撃』だったはず。
・・・もしかして、今は攻撃できないとか?
「ごめん、ちょっと行ってくる!」
「お嬢様! どちらへ行くのですか!?」
「あのバカ姉のところ!」
レーザーに散らされた植物が、はらはらと舞っている。
―――見つけた!
「お前、攻撃できないんでしょ。」
「いいえ、そんなことないわ。」
そう言っているものの、目が泳いでいる。
「嘘だ、だったらなんで私達に攻撃しない?」
沈黙が続く。口を開いたのは私だった。
「来世はもうちょいマシな名前つけなよ。『妖刀 雷電』」
私の刀が体と魂を斬った。
あとは優花だけだね。
私が戻ると、すでに勝負は決まっていた。
支援魔法がなくなった今、優花は火力不足に陥っている。
「『上級花魔法 儚く虚しい花の命』」
レーザーが突破された優花、別の技を使ったけど・・・・。
「『魔剣術 剣と命の光』」
シャルムの魔剣が、技ごと斬り伏せる。
「・・・・・負け、ですね。」
「優花さん、今のあなたに勝ち目はない。」
美音がそう宣告する。
「そうみたいです。なので最後に一つ、昔話をさせてください。」
「昔話? ・・・・いいよ、言ってみな。」
私はなぜか許可を出していた。
出さないと、あとで後悔する気がしたから。
---
私に親はいなかった。
いや、いなくなったというのが正しいかもしれない。
物心つく前に私を捨ててどこかに消えた。
そこで私を見つけてくれたのが、ルアー様だったのだ。
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*12月の冬、薄暗い路地にて*
*「・・・・今日も、みんな見て見ぬふり。」*
*私が段ボールの中で縮こまっているのはわかるはずなのに。*
*誰も助けようとしない、気まずそうに横を通っていく。*
*たまに食べ物をくれる人がいるけど、そう多くはない。*
*__「なんで私だけこんなにつらい思いをしないといけないの・・・・?」__*
*「そこのかわいいお姫様、大丈夫かしら?」*
*正直、出会ったときは怖かった。*
*ガタイのいい男性が、ナンパみたいなことを言って近づいてきたから。*
*「うぇ、えっと。大丈夫、です。」*
*「嘘おっしゃい、寒いでしょう? うちに来なさいな。」*
*ずっと路地にいたけれど、こんな人は初めてだった。*
---
*言われた通り、椅子に座っていると私の前に料理が出された。*
*でも、何もわからない。*
*白いとろとろした液体に、オレンジとか緑のものが入っている。*
*皿の横には、キラキラ光る丸がついてる棒が置いてある。*
*これらは何?*
*「あら、食べないのかしら?」*
*「あの・・・、食べ方わかんないです。」*
*そういうと、このおじさんは微笑んだ。*
*「教えてあげるわ、これはスプーンっていってね―――」*
*言われたとおりに、シチューとやらを食べてみる。*
*「・・・・・・・おいしい。」*
*自然と笑顔になれるような、そんな料理だった。*
*「やっと笑ったわ、やっぱりあたしは料理上手ね。」*
*そういった|彼《ルアー》も、心からの笑顔を浮かべていた。*
---
*「やっぱり筋がいいわね。そのうち、魔王様に呼ばれるんじゃない?」*
*戦う練習をしていると、ルアー様はそうおっしゃった。*
*「魔王に、ですか?」*
*「そうよ、最近第3王女が抜け出したっていう話もあるし。」*
*そこで、第3王女のことを詳しく聞いた。*
*正直、可哀想で仕方がなかった。どうして疎まれてしまうのだろう。*
*「ルアー様、なんで王女を捕まえないといけないの?」*
*「・・・・理由はね、ないのよ。あたしだって本当はいやだもの。」*
*「でも、魔王様の命令に背いたらだめなことはみんな知ってるから。」*
*ルアー様は優しかった、私の疑問を受け止めてくれた。*
*・・・そのことが、魔王に伝わってしまった。*
*魔王に呼び出され、ルアー様は少し変わった。*
*「ルアー様、なんで王女を捕まえないといけないの?」*
*「当然でしょう? 第3王女が魔王様にとって目障りだからよ。」*
*私は泣きそうになった、本物のルアー様を返してほしかった。*
*ルアー様の直属の部下になっても、私は1つの考えを忘れなかった。*
*『魔王を許してはいけない』*
*第3王女には興味がなかった、ただ魔王討伐を目指していると聞いて羨ましかった。*
*私だって魔王を倒したい、絶対に許したくない。*
*それが行動に移せていることが、本当に羨ましかった。*
*第3王女たちが魔王討伐の準備をしている間、私は―――*
*「優花様! おはようございます、とうとうこの日が来ましたね。」*
*「・・・・そうですね。」*
*私にも忠実な部下ができて、毎朝あいさつをしてくれる。*
*その部下にも部下がいて、私の地位があがったことがわかるでしょう。*
*__「今日も優花様はきれいだな。」__*
*__「さっき私のほうを向いてくれたわ!」__*
*(そっけなく接しているつもりなんですけど・・・。)*
*ちょっと笑顔をふりまくだけで虜になる。*
*(本当に、一般魔族というのは―――)*
*「優花様!」*
*「優花様はやはり美しい。」*
*(愚かだ。)*
私が信じるのは、ルアー様だけ。そして、あの魔王は滅びるべきだ。
だから―――
「第3王女。」
彼女はもう気づいているのだろう、私が敵意を抱いていないことに。
「どうしたの、優花。」
花が咲き乱れる中、たった一言つぶやいた。
「|私たちの敵《魔王》、討ってくださいね。」
「もちろん。天国で見ててよ、私の活躍。」
「えぇ、天国にいけたらずっと見てますよ。」
あと、と私は続ける。
「ルアー様がいたら、|こっち《天国》につれてきてください。頼みましたよ。」
「「それじゃあ、またどこかで。」」
花びらで視界がふさがり、私は静かに命を落とす。
__「やっと、楽になれますね。」__
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「・・・・・あいつも魔王がにくかったんだね。」
「そうですね、魔界にもそういう方がいるんでしょうか。」
お嬢様は返事をしない、ずっと俯いている。
「お嬢様、どうかなさいました・・・・か。」
瞳から涙がこぼれていた。
「私が気づいていれば、優花はまだ生きていたのに・・・・!」
私は、お嬢様が次に言うことがわかった。
「「もっと楽しい人生を一緒に歩めたかもしれないのに。」」
お嬢様が目を見開く、驚いた様子でこちらを見る。
「何年一緒にいると思ってるんです? 考えてることくらいわかりますよ。」
あなたは優しいから、すぐ抱え込んでしまうんですよね。
「お嬢様、魔力を瓶に詰めてみては? 彼女が生きていた証になります。」
私が提案すると、涙を拭って頷くお嬢様。
「うん、そうする。」
散っている魔力を丁寧に集めているあなたの背中を見ると、昔の自分を思い出す。
「なんだか、あの頃みたいですね。」
でも、自分と同じように立ち直ることができるだろう。
そう思い、お嬢様を手伝いにいく。
敵を倒したはずなのに、胸が締め付けられるような思い。
「きっと成長した証ですよ。」