キメラ①

--- キメラサイド --- ｜土呂市 観座州《どろし かんざす》の とある小学校の屋上……。満月が煌々と輝く中、2人の若者が月夜を楽しみながら話していた。 女:「はぁ〜〜～ 月が綺麗だなぁ♡♡♡　季節も過ごしやすいし♪」 男:「__ｽﾝｽﾝ。__ ？　妙な気配を感じるな……。なんだ？　この嗅いだことのない匂いは」 女:「ま～～～た｜インフェルシア《あの連中》(※１)が｜冥獣人《めいじゅうじん》(※1)を送り込んだんじゃないの？　懲りない奴らだよねぇ」 ｜塔屋《ペントハウス》で寝転がっていた男は跳ね起きると給水タンクに左腕を添え目を緑色に発光させると 気配の正体を探している。ロングマントのスリットから出た その腕は肘上までが灰色の毛で覆われ、紅く鋭い爪が伸びていた。女も寝転がっていたが上半身を起こし 腕を後ろに伸ばして支えている。女の右腕も同じように紅く鋭い爪が伸びていたが ヘイルのと違い、その毛は白銀の色合いだった。 男:「うーん、この感じ…… インフェルシアの奴らじゃない。もちろん｜魁《かい》達(※2)でもない、最近原初の魔法を授かったと聞いたが、そういう感じではないんだよな。だが確実なのは 人間でもないってことなんだよなぁ〜〜～。あ゛あ゛あ゛ーーー なんかモヤモヤするーーー!!!」 妙な気配だが その正体が分からず、顎に指を当て首をかしげたり 髪をワシャワシャとかいている。 女:「へっ？ ナイとメア(※3)みたいに人間態を持ってる奴らってこと？ あ、インフェルシアの奴らじゃないってことは違うのか……。ごめん、【ヘイル】。聞き逃してて」 ヘイル:「気にするな 【メイア】。 だがこの感じ…… かなり強いぞ」 メイアと呼ばれた女はタンっ！と軽く地面を蹴ると、ヘイルと呼ぶ男の元に軽々とジャンプする。数メートルは離れていたであろう距離を一瞬で跳び超えたのだった。 メイア:「場所はわかりそう？」 ヘイル:「えーーっと……。 ここから数キロ離れた場所：｜逢間市《おうまし》って書いてあるな。俺たちの脚力なら《《数分》》で着く距離だ」 ヘイルの瞳は｜琥珀色《アンバー》に戻った。 メイア:「逢間市か……。 ねぇヘイル、ソイツらに 軽く《《ちょっかい》》でもかけてみる？　実力を試すのも兼ねて」 ヘイル:「フッ…… 悪くない作戦だと思うぜ？」 メイア:「なら戦いは私がやるよ。《《解析》》は得意分野でしょ？」 　メイアもロングマントのスリットから獣の右腕を出している。その鋭い爪は月に照らされ紅い宝石のように輝いている。 ヘイル:「ハハハっ！ 俺の事よーーく分かってるじゃねぇか！ さすが俺のご主人様だな」 メイア:「もうっ!! そんな硬っ苦しい言い方しないでよ！相棒 でいいでしょ!!」 　ツッコミを入れるなど 和気あいあいと話していると メイアの右腕についていたバングルがズレる。するとメイアの瞳孔は針のように細くなり 鋭い犬歯も伸び 爪をペロッと舐めた。その姿は正に【獲物を狙う狼】だった。……尻尾や耳こそ生えないが。 ヘイル:「……__ﾌｩ__闘いが楽しみだって気持ちはわかるが、｜獣化《じゅうか》してるぞ？　メイア」 メイア:「えっ…… あ ホントだ、ちょっと興奮しちゃったかな。 最強のキメラである私と 最強の人工知能であるヘイル。2人が合わされば勝てない敵はいない……よね!!」 　メイアはバングルを元に戻し、くるっと振り返ると 満月に向かって右腕を伸ばしている。その様子を見てフッと笑みを浮かべ、メイアの右腕に自身の左腕を重ねる。 ヘイル:「明日は楽しい闘いになればいいな。メイア」 　4つの｜琥珀色《アンバー》の瞳が土呂市を見つめていた……。 --- 燐サイド --- トランサー｜幻現《ディヴィジョン》そして ｜悠河《ゆうが》/トランサー｜狙撃《スナイプ》との戦いから数日が経ったある日……。｜幻現《ディヴィジョン》の攻撃により負った背中の傷も ようやく癒えた｜燐《りん》は食材の買い出しに、｜晴翔《はると》は事件捜査を行っていた。 ｜凍矢《とうや》:「さて、トランサーの目撃情報も一通り集まってきたな。あとはここから潜伏してる箇所を特定すれば……っと♫」 　精神世界では凍矢がトランサーの情報整理を日々行っている。脚を組んで座り 肘掛けに左腕を置き人差し指をトントンと頬に当てている。巨大な空中モニターには逢間市の地図が表示され、いつ事件が起きたか・どこで目撃されたか が《《全て》》表示されている。 凍矢:「・・・・・・？ これは一体……」 　凍矢の指が止まった。 __ストっ。__ 燐も こちらにやってきた。燐が現実世界で眠ると 精神世界にやってくる。そこで凍矢と次の日の行動を話し合ったりしているのである。尚この間 現実の肉体に疲れは溜まらない仕組みとなっている。 燐:「凍矢おまたせっ!! ……って何見てるの？」 凍矢:「いや……。なんか妙～～～な気配がしてな」 燐:「妙な気配？　もしかして この赤丸がそう？」 　地図上では赤い二重丸が2つ点滅しており、少しずつ動いていた。 凍矢:「通常、トランサーの場合は 赤丸印だ。だが そうじゃない……。かなり強いぞ、俺達と同等か それ以上に」 燐:「__ｯｯ!!__ これまでとは違う敵ってことか。なら先に私が行くよ、｜鎖《チェイン》なら牽制にもなるし」 凍矢:「そうだな……。 まずは様子見になるか」 燐:「あ、そうだ。さっき寝る前に｜浪野《なみの》さんから連絡があって、明日の午後、来て欲しいところがあるんだって」 凍矢:「浪野警部が？ 何も無ければいいんだがな。燐…… これまで生きてきた中でってのもあるが あまり人を信用しすぎるなよ？　燐を家に軟禁するように提言したのは《《他でもない浪野警部》》なんだからな」 燐:「う、うん……」 凍矢:「浪野警部とは俺が会うよ。嫌な予感もするしな」 燐:「……分かった、私はこっちから見とくね」 凍矢:「すまないな、俺の性格上 疑い深くて」 燐:「ううん、もう慣れた(・∀・)b」 凍矢:「慣れたってwww お前なぁwww」 こちらも和気あいあいと話していた。この数時間後、激しい戦いを繰り広げることになるとも知らず、2組とも話に花を咲かせていたのであった。