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19.法令発布7
思い出したわ。神殿で、わたくしが忘れたいと願った出来事を。
それは、トラウマだった。それは、心との思い出だった。それは、懐かしい友達だった孤児たちだった。
思い出せて良かったわ。
心にも感謝ね。あの子のお陰で今までわたくしは過去にとらわれずに生きていけた。
そして、腑に落ちた。だから、わたくしは剣も魔術も磨いたのね。
忘れたいと思った気持ちは分かる。だけど、もうこれは二度と忘れさせない。これが、忘れてはいてもわたくしを作ってくれていた。ならば、生かさないと。
今は、きっと人も殺せる。その覚悟は付いた。
剣も魔術も磨いた。あの頃のような過ちはもうしないわ。
けれど…あの子は、ノアという子はどこにもいない。
もう、あの子のことは考えるのをやめましょう。
「あのー、クラン様?」
ノアがいた。
「何でしょう?」
「私のせいですよね?気分が悪くなったのは…すみませんでした!」
「いえ、そこはいいのよ。それよりも、あなた、なぜわたくしの神殿のときを知っているの?」
「私は、孤児だったんです。」
「わたくしが知っている孤児にあなたはいなかった。」
「私は、孤児でしたが、孤児院にいくのは怖かった。だから、孤児院の様子をずっと見ていたんです。バレないように。だから、クラン様を知っています。あの頃の明るかったクラン様を。」
まあ、あの頃が明るいだなんて。確かに今と比べたらはるかに楽しい毎日を送っていたかもしれないけれど…そこまで言われるほどではないと思うわ。
「つまり、わたくしたちに面識はなかったのね?」
「そうです。ただ!クラン様はもっと明るかった。それだけを伝えたかったんです。」
良かった。さっき思い出したものの中にさらに思い出せていないものがあるなどと思って、さらに混乱してしまうところだったわ。
「今は…まだ朝?」
あれからまだそんなに時間が経っていないのね。
さっきの記憶。あれは1年分だったというのに。結局、あれの鍵は…孤児だったのかしら。
「そうですよ。もうすぐで授業が始まります。今からだったらそこまで話しかけられはさないと思いますが…体調は大丈夫ですか?」
「えぇ。もう元気よ。」
「(元気になってくれて)良かった…」
安心されてしまった。別にわたくしの気分が悪くなったのはあなたのせいではないのだから、心配しなくともよいというのに。
「わたくしは実験室に行きます。あなたも早く行きなさい。」
「あ、はい。ちゃんと行きます。」
「では、今日は簡単な治療薬を作ります。明日は課外授業なので、必要ならば、持っていっても構いません。」
なるほど…よく考えられているわね。これは暗に明日持っていけ、と言っているわ。そういうふうに実際に使わせようとするところが学園のいいところね。
「材料は…」
あぁ、かなり簡単なやつだわ。これなら作ったことがある。余裕ね。
「クラン・ヒマリア」
あぁ…また…。呼び捨ての件はもう諦めました…。
一応学園は身分関係なしを謳っているので、そういうことにしておきましょう。
「何でしょうか?お父様のアレなら明日には消えていますが…」
「__それは残念だけど…__それはどうでもいいの。お手本を見せてくれない?」
「なぜわたくしに?」
「クランさんがこの前活躍したとお聞きし、今までの魔法薬のやつを見たらどれも本当に平均値でしたの。」
それをここで言わないでくださらないかしら?
わざと手を抜いていたのがバレたのね。
「分かりました。普通に作ればいいのですね?」
「理解してくれて嬉しいわぁ。」
これは脅しに入るわよね?
「しかし、今度からはそれは脅しとみなしてもよろしいでしょうか?」
親切にも皆には聞こえないようにしてあげた。
「もちろん違うわよ?」
「どこがですか?生徒の個人情報をバラすなど、先生としても問題がありますよね?」
「聡い子はこれだから嫌いよ。分かった。これから、あなたが手を抜かないのなら、当てないわ。」
それはそれであてられそうで怖いわね。
「はぁ…そもそも手を抜いているのはわたくしの勝手。それを…」
「公爵令嬢なのだからしっかりしなさい。いいじゃない、普通に過ごすだけで、一回もこれから当てられずに済むのよ?」
面倒くさいわ、この先生。一旦ここで引いておきましょう。
「分かりました。」
「あらぁ、ありがとう。さて、材料をクランさんのように…」
「うん、いい治療薬が作れたわね。これからもその調子でよろしくね?」
はぁ…最悪だわ。
朝は、過去を思い出し疲れ、授業では、当てられて疲れる。
もうずっとも疲れっぱなしということになるじゃないの!
いったん落ち着いた…と見せかけて、次は校外学習について書きます。
お読みいただきありがとうございました!