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名無しに命が宿った日
イクス@エモエモいっくす
名無しに命が宿った日
戦争は痛いモノ、うるさいモノ、大きいモノ、怖いモノ
生まれた所も親も知らない、いつの間にか木と石と薄い鉄板の家で眠っていた
いつからそうしてたのか記憶はないし、自分の年齢もよく分かっていなかった
ゴミを漁り、度々通る人に物を乞い、何もない日は草や砂を食べた
ある年齢から自分の体に価値があると言う、妙な男に拾われた
そこで私は衣食住がある生活を送る事となったが、そこに世間一般で言う常識や、倫理などは無かった
性的行為は当たり前、家事や雑務、あらゆる仕事をやらされた。しかし自分は出来る人間だったようで、その事自体に苦労はしなかった
それでも生きている実感が無い、やらなければいけない事をただやるだけの一日。昔の底辺だった頃の生活と何も変わらない
拾ってくれた男は、私を呼ぶ時に同じ言葉をあまり使わない
なぜなら私には『名前』というものが無かったから
問われても答えられない。だから男は私を好きに呼んだ
『ブサイク』『家畜』『役立たず』『奴隷』『玩具』『使い捨て』
どの言葉もあまり理解はできなかった
つまり自分はそういうモノなのだと疑う事も無く時間が過ぎていった
けどそんな時間も長くは続かなかった
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また戦争が来たのだ
色々な大きい音が辺りを埋め尽くす。人の声と何かが割れたり壊れたり潰れたりする音
茶色の服を着た男達が家に押し寄せて来た、飼い主は私を盾に命乞いをした。こいつを自由にして良いから助けてくれと
私と数人のモノは男達に連れられ外へ。その後家からパパパパパンと何かが破裂するような音が聞こえた。この音は知っている。戦争で一番多く聞こえる音だった
しばらくすると家は焼け、崩れていった。
ニヤニヤと笑う男達と一緒にテントのような場所に入れられた。鼻にくる臭い、だがこれも知っている。私の自室だった場所の臭い。飼い主の遊び部屋の臭いだ
やはり何も変わらない。終わってしまえこんなモノ
男とモノ。私はモノで、男に使われる存在
いそいそと服を脱ぎだす男達
何も感情は湧かない。今からもこれからもこんな時間が続くんだろう
そう思い目を瞑った瞬間
自分のお腹を細い何かが通った、そこから赤い血が流れてきて、私は倒れた
前が見えるようになった時、目の前は緑だった。寝ている姿勢で上を見ていた
微かな人の話し声と、鼻に残る知らない匂い
自分はどうなったのか。全く分からない
『お目覚めかしら?お嬢さん』
私に話しかけてきたのはモノ。白い服で黒いマスクをつけたモノ
口は動かない。顔が熱い。目もしっかり開かない
手を伸ばすと、モノは手を取り静かに話しだした
『選びなさい。このまま死ぬか、誰かに殺されるか、私に助けてほしいか』
『……ァ…ァァ…』
声が出ない、何を言えば良いのか分からない
生まれてから一度も何かを選んだことは無かった
私は何をしたいんだろう?何が欲しいんだろう?
私はただそのモノの目を見た。他の人が私を見る目は大体同じだ。侮蔑、差別、無関心
その人の目にはそれらを超えた、私の見たことの無い感情があった
『どうなの?私はアナタに選択させたげるって言ってるのよ?死にたいの?殺されたいの?生きたいの?どうなの?』
その目は純粋だった。私にまっすぐ向けられた大きな瞳。マスクを下げると見えた、細い三日月のように釣り上がる口角。その口は左耳に向かって大きく裂けていた
釘付けになってしまった。息を飲み、どこまでも深い欲望を感じた
今までの人とは比較にならない欲望。不意に体が熱くなるのを感じた
そして私は思った事をそのまま口に出した
掠れてしまって、自分で聞き取るのも難しい声で
『アナタハ、ワアシォ、ドウ、シマスカ…?』
その人は目を丸くしていた。少し間があった後、また口を開く
『…何?怖くないの?私は今からアナタを殺すって言ってるのよ?』
今考えると思わず出たんだろう『殺す』という言葉。しかし私には日常的に言われた言葉で、その言葉に意味はなかった
『コワク、ナイ…ソレハ、ワアシニハ。オシエテ、アナタハ…ドウシタイデスカ』
また驚く。信じられないと呟き。何かに気づいたように私を勢い良く覗き込む。その人は鼻が触れそうな距離まで近づいて来て、その目は大きく見開かれていた
『…気持ち悪いわねお前。理解できないわ。…けど不快な発言のお陰で分かった事もあるわ』
『お前さては“死んでる”わね?生きてるって感じた事の無い、その辺のネズミにも劣る存在』
『相手に全部委ねて何も考えてない。人としてするべき思考を放棄してる。つまらないわねお前。本当に不快だわ。殺す価値も調べる価値もないわね』
その人は声を荒げて早口で捲し立てる
話してる内容が殆ど理解出来なかった。けどこの人の言葉は、胸の真ん中からざわつく感覚がある。
なぜだろうか。こんな事は初めてで分からない
『気が変わった、そうね、いいわ。お前を全力で生かしてやる。そうした後にお前を殺す。皮の裏の肉まで削ぎ落として殺す。私が許可しない限り、お前が簡単に死ぬ事は許さないわ』
言葉の端々から意味を探りとる。恐らく私の次の所有者はこの人なんだろう。今まで無かった感情が、身体の内から沸々と湧いてくる。体が熱い。傷のせいじゃない。体の奥から、底の方から、熱が上がってくる
『そうだわ。お前、名前は?カルテにも書いてないけど、無いの?』
名前と言われて、素直に頷いた
『そう、つまりGan ainm(名無し)って訳ね』
『いつか面白い女になる事を期待してるわよ』
『…何?この呼び方気に入ったの?まあ呼び方も無いし、そう呼ぼうかしら』
『精々殺し甲斐のある身体に成長する事ね』
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私はその日からガン アイナムとして生まれ。この人の為に生きていくんだと『確信』した
すぐに多くの傷は治り、病気も無くなった。動けるようになったし、私は体がとても強い方だったようだ
完治する頃、あの人は私の前から消えた。軍医として勤めていたらしいが、突然消えるように居なくなったらしい
私は探した。軍の人に縋って頼み込んだ、聞いてくれない人は身体を使い、それでも効かない相手は過去にされた暴力を使った
気付けば私の体はその辺りの軍人と変わらなくなり、腕力でも負けないぐらいだった
その暴力行為を上官らしい人に見られ、銃殺だと言われた。死ぬ訳にはいかない私は、その人をどう殺してどう利用するか頭をフル回転させて考えた
挑み、掴みがかり、殴りかかった
けど技術の差は圧倒的。組み伏せられ、何度も殴られた
何としても生きて、あの方に会わないといけなかった私は、彼を睨みつけ、何度も挑んだ
そうしている内に気絶し、気づけば綺麗な天井を見ていた。傍には先程まで私を痛めつけていた男がいた
『また』かと心が冷えていく感覚があった
しかし言われた言葉は初めてのものだった
その人に幸か不幸か気に入られてしまったのだ
表向きは養子として迎えられ、その人の右腕として動くべく、様々な技術を教えられた
そうしてその男と私は形だけの『家族』となった
あの方の事も教えてもらい、生まれて初めて目標の為に努力する日々が始まった
数年後、私は父である上官を完全に超え、やる事が無くなってしまった
そもそも高齢の彼には、若い自分の相手など長く保つはずも無かったのだ
使い切った。そう思った時、感じたのは感謝だった
あの方に教えてもらった事。皮の裏まで自分の為に使い切る。私の信じる唯一の方の言葉
だから上官には感謝の証として、貰った技術を全て使って全力で殺す事にした
親のような人に、持っている技術を全力で使った
不意打ちして、武器を使い、拳を振るい、トドメを刺した
やがて何も言わなくなって、赤く黒く染まるその人に、生まれて初めてお礼を言った
『ありがとうございました。お父さんの命は私の為に使います』
私の顔は、血と、血じゃない水で濡れきっていた
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その後、私はとあるギャングファミリーに行き着いた
そこにあの方がいると聞いたからだ
私は使える手を全て使って組織に入った
役割は最下層の構成員。危険な任務に率先して参加し、負傷した
そして望んであの方の元に向かった。再開した時の事は忘れない。泣き崩れ、言った
『お久しぶりです…貴女に殺される為に強くなりました…私を、殺して下さい』
その人は私を見て黙った。そしてゆっくり近づいて来て、あの時のように鼻の触れる距離で言った
『…誰アンタ?』
まさかこの方は私を誰だと言ったのだ。なんて事だろう、私をまだ熱くさせてくれるのか
なんて素晴らしい方なんだろう、私を見るその目はあの日と変わらない。さらに輝きを増したように見える
全身を包む衣服は美しく、白衣もとびきり似合っている
やはりこの方は私の神であり主人だ
足繁く通う内に、私はあの方の助手のような立場に選ばれた。構成員の立場のままで幹部の御付きとはよく分からなかったが、まあそばに居られるならヨシとした
けど傷がないとあの方の側にいられる理由が無くなってしまう
よりあの方の隣にいる為には強くなって、たくさん傷ついて、また治してもらわないと…
あぁ…私は生きている…もっと傷ついて、貴女に治してほしい…何度でも何度でも何度でも何度でも…
全ては貴女の為に、最高の私を殺してもらう為に…
愛しております…カイクス様…
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『ちょっとガン、食事持ってこいって言わなかったかしら?言ってなくても持ってきなさいよ。必要無い時に持って来たら殺すけど』
『あぁ、けどアンタ殺すって言ったら喜ぶわね。殺さないし優しくしてあげるから来ないでね』
愛しの方に呼ばれている行かなければ。持ってきて欲しいとは言われていなかったが、そう言われるのは分かっていたのでワザと待っていた
『あああああカイクス様ぁ!!!只今お側に参りますぅ!!!!』
『ホントきっしょいわねアンタ。8回捩じ切れて死んで5回串刺しで死になさいよ』
『貴女様がぁ…の、のぞ、望むのならァ…フフッ…この命幾らでもぉぉぉ…!!!』
『キモい死ね』
~Fin~