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コバルトメモリーズ
初流
海岸線から眺める海は、どこまでも透き通るような半透明だった。遠くからカモメの鳴き声が、潮風に乗って近づいてくる。
隣に座るおばあちゃんが、ふと海を見つめたまま口を開いた。 「そうだ、昔話をしようかね。結構前の話なんだけど、聴いてくれるかい?」 僕が頷くと、彼女は静かに語り出した。
世界が喧嘩を始めた。誰もかもを巻き込んで、私の友達もみんな、その喧嘩の渦中へ消えていったわ。
私はね、数年前のヒットソングが無限に流れ続けるラジオを、ただじっと聴いていたの。好きな曲が流れるかもって思ってね。しばらくは平和な時間が流れていた。きっと、世界中の人たちが同じように、最後に聴いたあの一曲を胸に抱いていたはずよ。
けれど、ノイズはだんだん激しくなっていった。混ざり合う曲を聴きながら、私は呟いたの。「次の曲はどうしよう」って。 でもね、本当は分かっていた。あなたの耳に届くような新しい歌は、もうこの世界には残っていないんだって。だって、あなたは……。
誰もいない街、空っぽの空。そんな景色を眺めながら、私は独り言を漏らした。 「世界には、私たち二人しかいないのかもね」 もちろん、返事は返ってこない。それが悲しいからか、それとも虚しいからか、自分でも分からないまま涙が溢れて止まらなかった。
その日の夜、空が不気味なほど紅色に染まった。 頭に響く耳障りな音で目が覚めて、真っ先にあなたのことが頭をよぎったの。 「あなたともう一度、あの海岸線に行きたい」 それだけを考えて、私は遠くへ、遠くへと走り続けた。
しばらくして、私はまた歩き出した。そして、強がってこう呟いたの。 「夕日が落ちる前に、どこへ行こうか。君とサイダーを持って、大冒険だ!」 ……本当はね、もう終わりが来ていることに気づいていたけれど。私はそれを、自分だけの秘密にしたの。
あなたの銀色の髪は、月明かりに透けて、とても綺麗だった。 その髪が見えなくなるのが、怖くてたまらなかった。「行かないで」という言葉を飲み込んで、私は笑顔のあなたに語りかけた。 「あなたがそんなに笑っているなら、明日も晴れる気がする。歌が続いて、愛が続くなら……世界の果てまで、あなたを連れて行こうかな」
放っておいたら、あなたも私も、この世界から消えてしまう。 だから私は、あなたに一つだけ隠し事をしていたの。 それは――「この夏が、もうすぐ終わってしまうこと」。
私はね、怖いんだよ。あなたが好きな歌も、お気に入りの場所も、その笑い声も、香りさえも、いつか忘れてしまうことが。 もし全てを巻き戻せるなら、あなたと何をしようか。私は、どうしてもあなたを忘れたくない。
そんな話をしていたおばあちゃんの話を聞いてから、もうすぐ十年が経つ。
今、僕の目の前には、あの日と同じ半透明の海が広がっている。 おばあちゃんが守りたかった「君」との記憶は、今もこの潮風の中に溶けているような気がした。
休憩で書いてたのを完成させたやつなので変な感じかもしれません
今後も頑張るのでぜひ呼んでください