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#2
九郎くん九郎くん、九郎くん!」
「……うるさい。一回呼べば聞こえる」
放課後の廊下、はじめが九郎の周りをぴょんぴょんと跳ねながらついて回る。
「えへへ、だって呼ぶだけで幸せなんだもん! 九郎くん、大好きだよ!」
「はいはい。さっきも聞いた」
九郎は前を向いたまま、素っ気なく答える。でも、はじめはめげない。
「じゃあ、九郎くんは? 私のこと、どう思ってる?」
「……うるさい小型犬。アイスがあれば懐くやつ」
「ひどい! 私はこんなに愛を叫んでるのに!」
はじめが九郎の前に回り込んで、通せんぼをした。
両手を広げて、真剣な顔で九郎を見上げる。
「ねえ、九郎くん。一回でいいから。……私に『大好き』って言って?」
「……断る。恥ずか死ぬわ」
「えー! ケチ! 意地悪! ドS! ほら、言ってくれたら、一週間静かにするから!」
九郎の眉がピクリと動いた。「一週間静かにする」というのは、
彼にとってかなり魅力的な提案だったらしい。
九郎は少し考えたあと、ふっと不敵な笑みを浮かべた。
「……わかった。じゃあ、耳貸せ」
「えっ、ほんと!? やったぁ!」
はじめが期待に胸を膨らませて耳を寄せると、九郎の低い声が鼓膜を震わせる。
「……お前、そんなに言わせたいなら、一生逃さねーけど。いいんだな?」
「……ひゃっ!?」
はじめの顔が、一瞬で真っ赤に染まる。思わぬドSな攻めに、心臓が爆発しそう。
「……あ、あの、九郎くん、今のはズルいよ……。」
「ズルいのはお前だろ。……ほら、言えばいいんだろ」
九郎は顔を背け、片手で自分の口元を隠しながら、消え入りそうな声で呟いた。
「……だい、すき。……だよ。バーカ」
最後は照れ隠しで口が悪くなったけど、その横顔は耳まで真っ赤。
はじめは一瞬呆然としたあと、これまでにない最高の笑顔で叫んだ。
「きゃあぁぁ! 九郎くん、今言った! 言ったよね!? もう一回! !」
「……っ! 二度と言わねーよ! 一週間静かにする約束だろ、バカはじめ!」
逃げるように歩き出す九郎と、それを全力で追いかけるはじめ。
九郎の足取りがいつもより少しだけ早いのは、
ニヤけそうな顔を隠すためだって、はじめにはお見通しだった。