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あたしの修学旅行計画
佐橋に万博研修にさそわれて、正直すごく嬉しかった。
佐橋は、あたしが唯一ではないから。佐橋は、あたしのことを未だに「華さん」と呼んだ。
仲良くなったのが小6。小学生のときは、人のことをさん付けで呼びましょう、というルールがあって、仲のそんなに良くない人には、自然と下の名前にさんを付けていた。あたしと佐橋は、小6までいちども同じクラスになってなかったから、さん付けからの始まりだった。
あたしは「まことさん」から「佐橋」に呼び方を変えた。
佐橋は3年間とすこし、ずっと「華さん」のままだ。
それとなく聞いたら、「人のことをあだ名で呼んだことがないから」と苦笑された。言われて、ひやりとした感覚があたしを襲った。
あたしは、佐橋がまともじゃない、と思う。人と仲良くしたいなら、そんなこと言うだろうか?
佐橋は、あたしとの間に壁をつくろうとしている。距離を一定に保とうとしている。それ以上、近づかれないように。あくまで相手を尊重するようで、それはあたしにとって少しくるしい。
だからあたしは、佐橋がいれば佐橋のほうにいくし、出来るだけ一緒にいなきゃと思う。じゃないと、距離は長くなっていくばかりなんじゃないかと感じてしまうから。
そしてさっき。佐橋から万博研修の誘いがあって、すごく驚いた。カラオケも勉強会も誕プレ交換も、あたしから誘うことはあったけど、佐橋から提案されたことはなかったのに。
うれしい。まわりの女子の誘い、さっきのうちに断っといてよかった。
○●○
『万博なんやけど』
『行く人いないから一緒に回ってもいい?』
濡れた髪を拭きつつ、スマホをいじっていた。LINEの通知が、立て続けに二件。「カケル」という名前が表示されている。
カケル。芦屋かける。同じスクールで、選手コースで水泳をしている。あたしは三歳から、芦屋は十歳から。無論、あたしの方が三秒くらい速く泳げる。
芦屋とはふつうに喋れる。いつも佐橋と別れたあとは二人で帰ってる。いちばん近しい男子だ。
すこし思案。すぐに既読をつけるのは癪で、ちょっと放って通知の表示が消えるのを待った。
どうしよーかな。
佐橋と行きたい。まあ、べつに芦屋が増えて困ることはない。断る道理はない。
芦屋と佐橋も別にいつも喋ってるし、まあ大丈夫だろうな。決めてからは早い。
『あたしは佐橋と行くけど』
『一緒にいく???』
二通立て続けに送信した。
女子二人と男子一人。なんだかんだ面白いメンツになるな、とつくづく思った。