自主企画参加用　　春の訪れ

私の心は、春の訪れと共に奪われた。 「なんでまた転勤なの！？」 「すまんなぁ、」 そう頭を掻きながら謝るのはお父さんだ。 お父さんは転勤族で、しょっちゅう転勤をしている。 最近はしばらく転勤もなく、友達も増えてきたのに。 「柚子姫、お父さんに怒っても仕方ないでしょ」 お母さんがそう嗜める。 私はそれでも怒りを止められなかった。 「だって〜っ！修学旅行来年あったのに！」 「まぁまぁ、新学期なだけまだマシだろう」 「でも新しい学校クラス変わらずにそのまま上がるんだよ！転校と一緒だよ……」 私はそう肩を落とす。 今まで転勤が多かったせいで、修学旅行や宿泊学習には一度しか行ったことがない。 それも、転校してきたばかりで馴染めず、楽しくなかった。 「…はぁ…仕方ないし、お別れだけ言ってくるよ」 「すまんな、最終日に言わせちゃって」 「…別にぃ…終業式だしどうせ」 私はそう言い残すと、自分の部屋に上がって準備を始めた。 実は、もうすぐ転勤だと言うことはわかっていて、お別れは先に言ってある。 お父さんとお母さんにはそれは言っていないが。 --- 当日の朝。 「すまん、制服間に合わなかった…」 「っはぁ！？」 私はとうとうブチギレた。 「ひどい、転勤だって仕方ないって諦めたのに！制服違うとかありえない！」 そう言い残すと、朝ごはんを食べずに家を出た。 結局、馴染みのある制服を着て転校先に向かう。 私は足取り重く、ため息をついて学校に入った。 先生はとても気さくで、話しやすかった。 「そうか、どうりで青空さん制服違うのか…大変だなぁ、青空さんも」 「いえ…」 私はそれどころではなく、口も重い。 そしてあっというまに教室に着いてしまったので、またため息をつく。 「よし、転校生だ！入っていいぞ」 「…初めまして、青空柚子姫です…青い空に柚子に姫です…よろしくお願いします」 お決まりの挨拶をして頭を下げる。 自己紹介にはなかなか慣れず、いつも顔は赤い。 「じゃあ、…一ノ瀬の隣だな」 席順を頼りに一ノ瀬さん、の隣に座った。 とりあえず、と思って挨拶をすると、一ノ瀬さんは、少しも笑わずに、頷いただけだった。 たった、それだけ。 「それだけ」なはずだった。 私は恋に落ちた。 休み時間になると、いつも通り人がたくさん寄ってきた。 「出身どこ？」 「転勤なの？」 「誕生日は？」 「好きなものは？」 そんな質問に飽き飽きし、答えるのに困っていると、隣から二つ、声が聞こえた。 「辞めなよ、青空さん困ってるじゃん」 「そーそー、一ノ瀬の言うとおりだよ！一気に言っても聞き取れないよ？」 一人は、一ノ瀬くん。 一ノ瀬くんが助けてくれたと思うと、どきっとした。 まだ、これが恋だとは思っていなかった。 もう1人は、くりっとした目に、高めのポニーテールの女の子だった。 どう考えても美人としか言いようがなかった。 一ノ瀬くんとその女の子はとてもお似合いで、もやっとした心は晴れなかった。 そして放課後、その2人に呼び出された。 「ごめんね、あいつらが」 「いいえっ、大丈夫ですっ…」 「俺は一ノ瀬浩です、よろしくね」 「私、一ノ瀬ひなっ！」 「………一ノ瀬、？」 私が首を傾げると、ひなさんはニコッと笑った、 「そうそう、私たち双子なんだっ！」 「似てるだろ？」 「あぇっ、…そうなんですね、」 私は拍子抜けしてしまった。 「敬語じゃなくていーよっ？」 「あ、えと、…わ、わかった、！」 「あ、そういえば青空さんの名前って柚子姫ちゃんだっけ？」 「うんっ、！」 「んー…柚子ちゃんて呼ぼ！」 「え、じゃ、じゃぁ、…ひなちゃんと、一ノ瀬くん、？」 私は恐る恐る聞く。 「ん、いいじゃん！」 「よかった、」 そして、一ノ瀬くんは部活があるということで、ひなちゃんと2人で帰った。 ひなちゃんは、こそっと耳打ちしてきた。 「…浩のこと、好きでしょ？」 「…！？！？！？なんで…っ！？」 「同性の勘ってやつ？w」 「大丈夫、浩もきっと柚子ちゃんのこと好きだよ」 そして2ヶ月がたった。 だいぶ2人とも仲良くなってきて、打ち解けてきた。 私は、告白すると決めた。 ちょうど、終業式。 私は、裏庭に君を呼び出す。 「…一ノ瀬くん、」 「…柚子ちゃん」 「…ぁっ、」 「ん、先いいよ」 「…私、一ノ瀬くんが好き、！」 「…俺から言おうと思ってたのに…w」 「え、」 「…俺も、柚子姫のこと好き」 「っ…！！」 「…浩って呼んでよ？」 「…ぅ~っ、…ひ、浩くん…」 「…上出来」 そして、私たちは幸せに暮らしている。