公開中
消えた星、救う星
私には、7人の仲間がいる。
そいつらと一緒に暮らして、なんだかんだ幸せだ。
ただ、私達は過去の決断を悔やむことになる。
―――ここは、世界のどこかに佇む小さく立派な館。
私達にはかつて「星々の神格」と呼ばれていた祖先がいる。
その祖先から受け継いだ不思議な力で、世界を救ったこともある。
少しトラブルもあったけれど、幸せだ。
「スイ、そろそろ起きて。朝だよ。」
「んぁ・・・・? もう少し・・・・、寝る。」
「普段は|忙《せわ》しないのに、朝はのんびりよね。」
キンが呆れたように言う。
「私がスイの朝食を食べてしまおうか?」
テンが冗談交じりに告げた。
「起きる、起きるから・・・・! ご飯は食べたい!」
そういって目をこすりながら起き上がるスイ。
「キンが作るご飯は絶品だもんね。」
ここまでが毎日の日課みたいなもの。
本当に楽しくて、幸せ。
「ドー、また夜ふかししたのか?」
「また本を買ってきたからね、読み終わるまで寝れないさ。」
「ったく、しっかりしてくれ。最年長さん。」
ドーは29歳、この中では一番上だ。
ただ、本人はリーダータイプではない。
私達のリーダーは―――
「ドー、いい加減しまってこい。朝飯だぞ。」
モクだ。声と態度のでかさは一番。
「オレたちはお前らをずっと待ってるんだぞ!」
カーも声をあげる。
動きやすそうな服だけど、ナイフが隠してあるのは内緒。
「我も待ちくたびれた、すぐ食事にしよう。」
楽しい会話だけど、私の心には決して埋まらない隙間があった。
いつもの日常にもかかわらず、みんなも表情は暗い。
あの子がいなくなってから今日で一年になるから。
忘れたくても忘れられない、大事な仲間。
「もう一度、捜索してみないか? 希望がないわけでは・・・・」
モクは私達と目を合わせない。
視線の先には棚に残されたメイが使っていた小さいコップ。
「俺達は消える星も救わないとだろ? メイはきっと元気だよ。」
冷たいようだけど、彼はいつもこう。
「星座も被害を受けてるもの、私達も動かないと。」
私の祖先は、だいたい太陽系に対応する神だという。
だから、星と会話もできるし救うことも簡単なんだ。
そのとき、ポーンとこの場に合わない無機質な音がした。
「誰だ、こんなときに。」
それは来客時になるチャイムだった。
「私が出よう、君たちは待っていたまえ。」
カイが私達に言って、玄関へ向かう。
誰かの泣き叫ぶ声が聞こえ、カイの足音は戻ってきた。
「オリオンくんだ、オリオン座の星が消えかかっているらしい。」
・・・あの、オリオン座が?
オリオン君は私達と同じく星と繋がりをもつ人。
彼が知らせてくれた事実に、私達はすぐに動くことができない。
「急ごう、今なら助かるかもしれない。」
早く助けに行かないと、星々の秩序が乱れる前に。
---
急いで装備を整え、宇宙へ飛び出す。
「あぁ・・・、モクさんたち。俺はもうダメみたいです、ね。」
オリオン座の姿を見て、私達は絶句した。
光が少しずつ弱まっているのが明らかだから。
星の輪郭がうすれ、霧のようにぼんやりしている。
急いで太陽の光を渡すが、効果はないのがわかる。
「黒いドレスの女の子が、俺に近づいてきて・・・。そのときは特に何もなかったんすけど。今じゃこの有り様だ。」
キンが心当たりを聞くと、オリオン座は乾いた笑いを浮かべて答えた。
その唇は震えていて、焦りが滲み出るようだった。
「黒いドレス・・・、それは本当か?」
カイが拳を握りしめながら、小さく呟く。
「はい、間違いありません。」
その口調とは裏腹に、彼の姿は消えてしまいそうなほど弱々しい。
そして、私達にはオリオン座の言葉を聞いて思い当たる節があった。
「メイ・・・・・?」
キンがぼそっと呟いた。
黒いドレス、いつも身にまとっていたあの子の象徴。
「そいつは、何か言っていたか?」
「いえ、何も。ただ少し―――空気が重くて。」
彼の星が一つ、また一つと輝きを失っている。
もう、数分も持たないだろう。
「僕が時間を巻き戻して延命してみせる。チーの守護と余りの太陽光で復活できるか試してほしい。」
ドーは時間と土を司る、オリオン座の状態だけ巻き戻すこともきっとできるはず。
「『|逆再生《リワインド》』どうかな、オリオン座。」
空気が揺れた。でも、時間が動いた感じはない。
「・・・申し訳ないっす、効いてる感じがしない。」
「チー、お前も試せ。ここからは一刻を争うぞ。」
「わかった。『奇跡の星』『大地の恵み』」
守護技に集中して、ありったけの力を込める。
きらきらと星屑が舞い、技は成功していることがわかる。
ただ、オリオン座の消失は止まらない。
「このままじゃ、本当に・・・・・!」
誰もその先は言わない、とにかく星の光を繋ぎ止めないと。
技が効いている感触はないけれど、ひたすら打ち続ける。
最後の光が消える瞬間、ピタリと消失が止まった。
「俺、助かりました・・・・よね! やった・・・、よかった。」
オリオン座が人間なら膝から崩れ落ちているだろう。
その情景がありありと浮かんだ。
彼の安堵とは対照的に、私達には疑念が浮かんでいた。
誰の技も効いていなかったのに、どうして止まった?
みんなそう思っている、だから緊張を崩さない。
そのとき、声がした。
私達が全員知っている、でも知らない。そんな声が。
「ただいま、みんな。僕、メイだよ。」
黒いドレスの少女、メイ。
大事な仲間の帰還。もちろん、喜ぶべきなんだけど・・・。
空気が格段と重くなる。
息をするのもためらうような、そんな雰囲気を放っている。
返事をしようとしても、言葉が出ない。
「君は、本当に・・・・メイなのかい?」
「もちろん僕だよ。なんで、なんでそんなに疑っているの?」
目に光がない、それに私達とまったく目が合わない。
私達の不安を無視して、メイは続ける。
「僕ね、こんなに強くなったんだよ。みんなもわかったでしょ?」
「メイ、星を消して強くなった?本当に嬉しいのか?」
普段はおちゃらけているスイの瞳は真剣だ。
「だって僕、弱かったでしょ。だから足を引っ張ってたんだよね。」
理解しきれていない私達をよそに、メイは言葉を紡ぐ。
「だからこんなに強くなったのに、なんでそんな顔するの?」
その声と顔に憂いが帯びる。
「やっと役に立てるんだよ・・・、だから邪魔しないで。」
最後の一言には明らかに闇が潜んでいた。
「メイが強くなったのは喜ばしいことだ、だが他の星を巻き込むな。」
「星の光を吸って吸って吸い尽くすのに、苦労してきたんだよ。」
「君のエゴで、星が傷ついているんだぞ。」
メイの顔には、少しの敵意が滲む。
「僕が強くなっても、それでも必要とされないんだ。」
「オレ、お前が強くなったのは見ただけでわかるぜ。」
カーは普段通りの口調で呟く。
「ただ、お前は変わっちまった。周りを犠牲にするやつじゃなかった!」
メイは何も言わない、ただたくさんの感情が渦巻いているのはたしか。
そして大きく息を吸って、この言葉を吐いた。
「僕がどんな思いでここまで来たか知らないくせに!勝手なこと言わないでよ!」
「私達は、メイのこと役立たずなんて思ってなかった。」
少なくとも私は、メイのことを大事な仲間だと―――
「みんなが思ってなくても、それが事実なの!」
メイが怒鳴った瞬間、空気がびりっと震えた。
その背中で、何か黒いものがゆらりと揺れる。
最初は影かと思った。
でも違う。影じゃない。
生きている闇みたいに、メイの輪郭に絡みついていた。
カイが、震えた声で呟く。
「……メイの後ろのそれ、見えてるか?」
私たち全員、息を呑んだ。
闇の中から、細い何かが伸びて、メイの耳元に触れる。
まるで――囁きかけているみたいに。
メイの表情が一瞬だけ苦しそうに揺れた。
でも次の瞬間には、また冷たい瞳に戻る。
「僕がどれだけ必死だったかなんて――誰にも分かるわけないんだ!」
叫ぶメイの声に重なるように、
もう一つの声が確かに聞こえた。
メイの声と重なっている、宇宙よりも暗い声が。
――消してしまえ。
――お前は一人だ。
――誰も、お前を必要としていない。
ぞわっと背筋に寒気が走る。
「メイが言ってるんじゃない!」
スイが震える声で叫んだ。
「後ろの闇が、メイを縛ってるんだ!」
「なら・・・助けないと。」
テンが拳を握る。
「メイはこんなの望んでない。」
「そうだ。メイは仲間だ。」
カーも声を張る。
「闇なんかに、食わせてたまるかよ!」
闇の囁きに染まりかけているメイを前にして、
私たちの視線がひとつに重なる。
——助けるんだ。
どんなに歪んで見えても、あれは確かにメイだから。
「よし・・・全員で行くぞ。」
モクが静かに言い、それだけで空気が引き締まった。
私たちは一斉に構える。
闇に飲まれた仲間を、取り戻すために。
---
黒い闇が波のように動く。
それは瞬く間に私達を囲うように広がっていく。
「・・・・来るよ。」
私達は逃げない、立ち向かってみせる。
「『選ばれなかった惑星』 このまま消えてよ、みんな。」
これはメイの本心じゃない、そうわかっていてもやっぱりきつい。
「『燃えたぎる血』守ってちゃ勝てねぇ、火力全振りでいく!」
轟々と音を立てて、黒と赤のエネルギーがぶつかる。
「カー、我が援護するぞ!『海武』」
カイのトライデントが、メイの技を貫く。
「『存在しない星』」
たくさんの星が散りばめられる。
メイの糧となった星なのだろう。
光は発しているが、中から闇が溢れそうだ。
「奪われてしまったのかい、皆・・・・。」
「テン、そんなこと言ってる暇ないよ!『奇跡の星』」
「そう来ると思ったよ。『輝かない恒星』」
私の星は撃ち落とされてしまう。
「僕、強くなったでしょ。ほら、もっともっと!」
「『|逆再生《リワインド》』『加速』行っておいで、哀れな光。」
メイの技はメイのもとへ戻る。これもドーの力だ。
「俺達は、お前を救うと誓ったんだ!『木雷』」
雷が落ち、できたヒビから芽が生まれる。
それらは急速に成長し、木々が生い茂る。
「『伐採』メイでもこれは厳しいだろ!」
「『選ばれなかった惑星』僕のこと、舐めてるの?」
闇に木が呑まれていく。そこには何もなかったかのように闇が広がる。
「舐めてなどいないぞ、いつだって全力だ。」
モクは囮、私達の本命は―――
「『空と大地と春風と』 頼んだよ、カー。」
「『海の揺らぎ』お前に託す。」
『奇跡の星』、『愛の力』、『加速』。他にもたくさんの支援が、彼に。
「メイ、闇に囚われてねぇで戻ってこいよ。」
呼ばれた彼女は、今やっと気がついたかのように目を向ける。
「メイの後ろの闇。お前はあと30秒で消える。」
カーから考えられないような冷淡な声で告げられる。
「『血塗れた炎』」
宇宙に存在しないレベルの炎。
真紅に染まり、熱風が押し寄せる。
「そっか。やっぱり僕はこうなる運命なんだね。」
私達の全力を見ても、その目は至って冷静で。
私達はこの後起こる出来事を予感していた。
「『黒い闇』」
私達はここで吹くはずのない風に吸い寄せられる。
「僕、ブラックホールも作れるようになったんだよ?」
だからなんだ、と目で問いかける。
「僕と一緒に、逝こう?」
・・・・もう耐えられないかも。
引力がさらに強まった。急激に引き寄せられる。
「運命なんて、決めんなよ!」
カーが一歩踏み出す。
「お前が勝手に諦めても、俺たちは諦めねぇ!」
「『海鳴りの息吹』!」
光が一気に弾け、真紅の炎とぶつかり合った。
メイの後ろの闇がざわりと震えた。
『やめろ、見なくていい。君が誰かに必要とされるなんて——』
「黙れよ。」
カーの声は、氷みたいに鋭かった。
「メイが必要かどうかなんて、お前に決めさせねぇ。」
彼の言葉に応えるように、背後の支援がさらに輝く。
風が吹き、海が揺れ、星がきらめき、時間すら加速してカーへ集まる。
その光景に、メイの目がゆっくりと揺れた。
「・・・・僕なんかを、まだ?」
「まだ、じゃねぇよ。」
カーは炎を押し返しながら叫ぶ。
「最初っから俺らは、お前を仲間だと思ってんだ!」
その瞬間——
メイの周りの闇がビキッと音を立ててひび割れた。
---
このあと、彼女たちがどのような結末を辿ったのか。
それは君たちの考え次第。
ただ一つわかること。
彼女たちの絆はそう簡単に壊れるものではない。
リクエストの小説。
めっちゃ遅れて申し訳ない!