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【オールシリーズマルチバース】
8月5日が私の誕生日なので、暇だから書いてみたオリキャラ作品内のクロスオーバー的なものです。
本編のキャラクター達とは何も関連性がなく、あくまで〖もしもの話〗から派生した別世界です。
そして、世界は創られた。
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聞き覚えのある声で、瞼を開けた。
見たこともないサイバーパンクな世界のカフェらしきところで笑う|和戸《相棒》くんがすぐに目に入った。
「...君は......和戸涼か...?...ここは...どこだ...?」
「なに寝惚けてるんですか、日村さん。
〖CP047 -NEO USA of LEGENDS-〗のセカンドワシントンに行きたいって言い出したのは貴方じゃないですか」
「CP...なんだって?...セカンドワシントン?......アメリカの首都は確かにワシントンだが...」
「ええ、でもここはそこから10年以上も_」
「10年?今は何年だ?」
「俺達の世界なら、202×年ですけど...」
「今、君...10年以上って...」
「だから、それは〖CP047 -NEO USA of LEGENDS-〗の年代ですって」
「はぁ?」
「どうしたんですか、日村さん。まるで、初めて《《ここ》》に来たみたいな話をして...」
当たり前のようにそう語る和戸の方が頭でも打ったのではないかと探ってしまう。
しばらく話を聞けば、ここは様々な世界の中の一つの中にある世界だという。
所謂ところのマルチバースとかそういう別世界的なものなのだろうと、結論づけても納得がいかないのは珍しく現実味を帯びない話だからだろうか。
しかし、この目の前にいる和戸涼が本物であるのは変わらないようだ。
「...ええと、それで...その〖ABC探偵〗とやらの作品内の全シリーズのキャラクターの世界が繋がって、共存しているのが現状だと?」
「ですね。でも、その様子だと...今の日村さんって、“本編軸の日村さん”ですよね?」
「本編軸の私?」
「はい。こっちの...えっと...“ユニバースの日村”が本編軸の日村さんで、“マルチバースの日村”がここの時間軸の日村さんです。
僕の“ユニバースの僕”もいますよ。本編軸の世界に戻る時に全部忘れてしまうだけで、皆が皆、それぞれにいるんです」
「それは、つまり...私の世界の方の、ユニバースの和戸涼もここへ来たことがあると?」
「そうなりますね。俺...僕のユニバースの方も、わりと驚いていたと僕の方の日村さんから聞きました」
「聞いていた?...君らの方でマルチバースの私が戻っても記憶は消えないのか?」
「ええ、消えませんよ。本編と番外編は違いますから...。
そのおかげで、本編の結末とは打って変わって幸せになっていたり、性格は変わらないものの、外見や関係が変わっている方も中にはいらっしゃいますよ」
「ふむ...では、ユニバースの私がここにいる理由と、その時の本編はどうなってるんだ?」
「その間の本編は確か、時間が止まっていたような気がします。ユニバースの人がこのマルチバース世界に呼ばれる原因はちょっと分からないんです。
でも、〖新シリーズ〗とやらが始まるとマルチバースの人が何人か増えるんですよ。
この〖CP047 -NEO USA of LEGENDS-〗も最近できたんです、Vさんとかサイバーヒューマンが凄くカッコいいんですよ」
「...なるほど。ところで、その〖ABC探偵〗というのはいないのか?」
「残念ながら、僕も見たことないんです。
単に姿を見せないだけなのか、そもそも存在しないのか...。
前に〖代理の🍤ちゃん〗という話を風の噂で聞いたんですけど、すぐにその噂も消えたので“いない”と断定していいかと」
「いない?仮にそうだとして、その〖ABC探偵〗というのはどこが初出なんだ?」
「僕が生まれた時に、〖ネカフェのシャーロック・ネトゲ廃人〗の作者欄に〖ABC探偵〗とあって、
〖鏡逢わせの不思議の国〗や〖異譚集楽〗、〖地獄労働ショッピング〗、さっき話した〖CP047 -NEO USA of LEGENDS-〗も同様だったのでこれが所謂、親なんだと思っています。
でも、〖地獄労働ショッピング〗は親ってより、地の文だ!...とボロクソ言ってましたね」
「その、地獄労働ショッピング?の人々は何か知ってそうだな」
「ああ、いや、そうでもないんです。
どうやらその地の文が〖ABC探偵〗であるのは確定だそうなんですが、
それぞれが短気だとか、愛がないとか、女の子が好き過ぎるとか...
そういった部分的な印象しか持ち合わせていないんです」
「...とりあえず、存在そのものが不確定な、そこそこ知能を有した生物ってのは分かるな...」
「まぁ...そうなりますね。それで、日村さん。どこか行きたいところはありますか?」
「あ~...欲を言うなら_」
パッと浮かんだ欲を言おうと声に出そうとしたところで、不意に後ろから声をかけられる。
振り向くと、黒髪に黒い瞳をして、近未来的な格好をした若く元気そうな男性だが、足辺りなど所々が
角ばっているような気がする。しかし、何か人のようで、人ではないような中間がある。
その近くに脚へすり寄るようにして小汚ない痩せっぽっちの猫が座るようにして隣に立っていた。
「オサム!リョウと一緒か、久々に見るな」
急に男性に英語で捲し立てられたような気がしたが、すぐにそれが日本語で聞こえてくる。
言語の壁は薄くなっているようで、まるで話せと言われているような気分だった。
「えっと...君は......その、誰だ?」
「君、忘れん坊過ぎやしないかい?猫と人は違うはずだよ?」
猫が喋った。いや、それよりも知らない男性に話しかけられていることに注目すべきなのだろうか。
こちらが少し考え込んでいることに気づいたのか、代わりに和戸くんが口を開いた。
「...どうも、ダイナさんと...Vさん、ですよね。相方の方はどちらに?」
「レイズか?ああ...|ラム《カクテル》と朝っぱらからいないよ。どこか...そうだな、喫茶店にでもいるんだろ。
こっちじゃ、古い喫茶店なんて見ないからな」
「はぁ、なるほど...今の日村さんはあっちの日村さんでして、それで事情が分からないんです」
「ああ...ユニバースのオサムか...じゃあ、今度こっちのオサムと話をしとくよ」
そう笑って足元の嫌がる猫を抱え、こちらへ手を振り去っていく。
辺りを見回すとVのような格好した若者がいる。あの男性はここが元の人物なんだろうか。
「それで、日村さん。行きたいところはありますか?」
再び聞き返した和戸くんに応答するべく、ゆっくりと口を開いた。
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「日村さんって、どこの日村さんもここに行きたがるんですよね」
「私は何人もいるのか?」
「派生の方のマルチバースな日村さんなら、何人か。
刑事さんをやってたり、誰かの恋人だったりする日村さんを既に見てきましたよ。
流石に増殖とかはなかったですけれど」
「それは...凄いな」
他人事のような感想を言って、目の前に広がるネットカフェの221B室を見た。
薄暗い証明に使い慣れたパソコン。自分の実家より遥かに安心できる場所だった。
その場所の隅に座ろうとして、不意に扉を叩かれる。
後ろの和戸くんも振り返ったのを見る辺り、彼ではないようだ。
目を細めて見る先に白髪に水色の瞳をして白い紐束のピアスをした一見、ガラの悪そうな端正な男が現れる。
「あ、いた。日村さん...でしたよね?青っぽい紺色の髪の人が呼んでましたよ」
「え?あぁ...有り難う」
青っぽい紺色の髪の人。梶谷湊だろうか。和戸くん以外に分かる人間がいたことに嬉しがるべきだが、そうでもない。
白髪の男性がぶかぶかとした黄色いコートに似た服を少し揺らして言伝が以上なのかすぐに目の前から姿を消した。
「...今のは?」
「翔君です。空知、翔...僕の従弟の同僚です」
「君の繋がりは広いな...?」
「日村さんの妹さんだって、そこの■■じゃないですか」
「は?」
「あれ...規制が......あの、日村さん、今何の事件を追ってますか?」
「...赤毛連盟だか連合だか...そんな感じだが...」
「なるほど。そこまでですか」
「何がなるほど...なんだ」
「いえ、その...本編軸は本編軸でも、ストーリー?の進み具合によってキャラクターの認識が違うみたいで...それをぼかす為に先程のような変な規制が入るんです」
「...それは...変わった規制だな」
「ええ、そうなんです。...日村さん、後ろ_」
和戸くんの言葉が途切れ、視点が私の後ろへ行く。
釣られて視線を動かそうと身体を後ろに回そうとした瞬間にゴツゴツとした手に首を掴まれる。
そのまま耳元で低く野太い声で「お前は誰だ」と囁かれた。
聞き覚えのある声である。
「...湊?」
「なんだ、いつもの修じゃん。何か変な気がしたんだけどなぁ」
いつもの声色で強く掴んでしまったのか、首を撫でられる。
その行為がいやに奇妙に思えた。
「梶谷さん...その日村さんは、ユニバースの日村さんですよ」
「ああ、そうなの?...へぇ、これ...まだ、なんだ」
「まだ?何がだ?」
「ん~...まぁ、その■■してないってこと」
「え?」
「わ...ダメだったか。まぁ頑張って、応援してるからさ」
「...悪意にしか感じられないんだが」
「えー...22歳の方の修は凄い嬉しそうだったよ?」
「そりゃ...■■■■■■からな...これ、私でもなるのか...」
「あはは、何故か知らないけどそうみたいだね。まるで誰かが操ってるみたいだよね」
そう笑う湊の瞳はあの時と同じ陰りを帯びた瞳をしていた。
心底、逃げ出したい気持ちに刈られた。
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安心できた場所を離れて様々な場所を巡った。
飛び跳ねるキノコの小道、オリオンと名の大きく高いビル、馴染みのある喫茶店、よく分からない山中にある大きなスーパー...そして、当時のままの実家。
何もかもが違和感がなく存在していた。
「なぁ、和戸くん...」
「?...どうしたんですか、日村さん」
「これは、どうやったら帰れるんだ?」
「え...いや...知りませんよ」
「知らないって君...」
「知らないですよ」
当たり前のように言い放つ和戸くんを目の前に皺を寄せる。
ここまで付き添った人物が知らないとは何事だろうか。
額に手を当てて、手の甲をつねってみる。
痛みはない。そういえば、湊に首を掴まれた時も痛みはなかった。
もしかしたら、そう、もしかしたら...。
「死んでみる手も、有りか」
「え...急に自傷でもするんですか?」
「いや、そういうわけでは...痛みを感じないなら、そうする手もよくある話かと。
というか、今までのはどうやって戻ったんだ?」
「勝手にどこか行って、気づいたら戻ってましたよ?」
「相変わらず勝手だな」
「まぁ、試すだけ試してみたら、どうですか?」
「...そうだな」
波の音が聞こえる。近くに海があるようだ。
ふと、後ろを振り返って道の先がぷっつりと途切れていることが分かる。
先程までは気づかなかった。誘われているようだ。
「...和戸くん」
「どうぞ。...これも、夢の一つですから」
「............」
「日村さん、楽しかったですか?」
「...ああ」
他愛もない会話をしながら道の先へ着く。
和戸くんが崖の先に腰を下ろしたのを確認して、降りるようにそこから落ちた。
いやな浮遊感を感じたが、どこか嬉しいような幸せを噛みしめた。
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--- good for you :) ---
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見慣れた部屋で目が覚めた。
汗だくで、目から滝のような涙が溢れている。
嫌な思いは何もなく、何故か幸せな気持ちが広がっている。
しかし、
「...そんなに、良い夢なら......覚えていればいいのに...」
口から悲しいような嗚咽が溢れるばかりだった。