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英国出身の迷い犬×文豪ストレイドッグス!!3rd.ep_7
Tenniel side.
探偵社の建物から出て、少し歩く。
適当なビル群の間に入り、少し離れたところを別人のふりをして歩くルイス・キャロルを視認する。
泉は近くにはいない、か。
少し考えて、小さく手招きをする。
「…もういい」
よく見ないと分からないほどの大きさで、口を動かす。
すぐに気が付いたようで、周囲を気にしながらも小走りで駆け寄ってきた。
「…これ、大丈夫なの?」
「ああ、...一応俺にも打算はある、だが今はまず...泉を気絶した状態にすること、それを達成しないことには話が始まらない」
勿論気は進まない。
でも駄々を捏ねてはいられない。
「俺がやる」
「いや、僕が」
「俺がやる」
「ダメ、僕がやる」
...優しい此奴のことだから、人にその役目をさせようとしないことは判っていた。
それでも。
これは俺の所為で起こったこと。
自分の後始末を他の奴にさせる訳にはいかない。
それに、何となく。
向こうの人間関係をずっと見てきて、偶に穴を通って見てきて、何となく気が付いていた。
過去に何かあったこと。
だから、何と云おうとこの汚れ役だけは、喩えあの時の様に後から泉に罵られようが、何だろうが、
「…俺がやる」
もしそれでも引かないと云うなら、"こんないい役を人に譲れるか"とでも云ってやろうかと思っていた。
「…わかったよ」
だから、この男が案外あっさり引いた事に、正直驚いた。
「何を考えてるんだよ」
「別にー?君だって色々隠し事してたわけなんだから、それを暴こうとする権利は君にないんだけれど...わかってるよね?」
__やっぱり此奴の方が一枚上手だった。
「…にしても、桜月ちゃんのことだからきっと探偵社を飛び出した僕たちを追いかけて来るだろうと思っていたけれど…見当たらないね」
「意外とのんびり探偵社で待っていたりしないのか」
「だって桜月ちゃんだよ?」
...其処まで信頼されているのか、泉。
「あとこの際だから聞くけど、何でさっき僕のこと下の名前で呼んだの?」
「は、......は!?よ、呼び捨てにしてなんかなッ、無い!」
「…呼び捨てとは云ってない…それに、証言者なら探偵社に複数人いるよ」
__やっぱり此奴の方が一枚どころか数枚上手だった。
「だ、誰をどう呼べばいいのかわかんないんだよ!!」
「意外と理由が可愛かったね」
「うるさい!!」
わあぎゃあと二人で小声でやり取りしながら歩くも、互いに視線は自然と泉に近い身長の女性に向く。
...嫌な予感がどうしても拭い切れない。
探偵社から歩いて来て、また探偵社方向へとゆっくり歩く。
...探偵社の奴らに見つかったら色々面倒な事になりそうだとも思って。
「歩いてきた中ではここが最後のビルの列と路地裏、だ」
「…この世界も土地的には僕と同じ立地だし、此処は粗直線道路」
つまり、とその先の言葉は、俺と此奴の声が綺麗に被った。
--- 『|泉《桜月ちゃん》が消えた』 ---
---
Satsuki side.
あー、と声を出してみる。
誰も来ない。
うーん、と考え込む素振りをしてみる。
誰も来ない。
ガチャガチャ、と手錠を外そうと暴れるような動きをしてみる。
後ろ手に手錠で固定されていはするけど、ただ椅子に座っているだけ。
…足が椅子の脚に縛られているのも桜で簡単に抜けられそうだった。
ここまでバタバタと暴れてみる。
「誰も来ない…!?」
此処は何処なのか、何があったのか、何も分からない。
「…誰もいないなら、脱出していいよね…?」
態と声に出してみる。
運が良いことに、この手錠は異能迄防ぐことはできないようだった。
「あのー……覗き見なんて趣味が悪くないですか?」
「あれ、バレていたんだ…まぁ、気配を気取ることができるのは流石ポートマフィアの幹部、と云ったところかな」
「…ジョージ」
目の前で不敵に微笑んでいるその男。
初めて見たはずだけれど、ボスと矢張り血が繋がっているからなのか、変な見覚えだけがあった。
ボスと似た、橙に近い瞳の色。
けれど、その雰囲気はボスとは全く似通わない。
「…それで、如何云う心算ですか」
「おー怖い怖い、そんなに睨まないでおくれよ」
大げさなジェスチャーをして見せて、それから溜息を吐くジョージ。
…今此処にいるのは彼一人。
けれど下手に動いて刺激したくはないから、取り敢えず話せるだけ話してみることにした。
「…っとにかくチョーカー、返してください」
「あぁ、ごめん、あの路地裏に置いて来てしまったね…」
「…、え、っ…」
あれは中也がくれた、唯一無二のチョーカーなのに。
お揃いの、この世に二つだけの、しるし、
「何を、云って、っ」
「まぁ別に、彼ら二人が回収してくれているだろうから大丈夫さ」
「そういう問題じゃない...!」
「そうかっかしない!冷静に考えてもご覧よ、別に木っ端みじんになった訳じゃあないんだから」
「っ…き、らい…」
「そっかー、うんうん、そうだよね__そうだ、余興にクイズでもしよう!僕達はどうやって君を此処に連れて来たと思う?」
知人に似たようなノリに既視感を覚えるも、怒りを抑えて乗ってみる。
…許されるなら、今すぐにでも此奴を切り刻んでやりたい。
「私を此処に拉致した手口は何となく予想できます。ジョージ…貴方の異能と、四方の内の何方かの異能である、仲間内の異能を発動させることができると云う物を応用した、ですよね?」
「うん、大方そんな感じかな…僕の異能、【|不幸な選択遊び《Unhappy Choice Game》】で、君と僕に条件を課したんだ。前提条件は、僕達には未だ面識がないこと」
「初めて会った瞬間である、先程の路地裏のところで異能を発動したんですね、?」
「その通りさ、選択は…僕が君に気配を勘付かれずに近づくことができる…つまり君が僕に手刀を叩きこまれて失神するか、君が先に僕に気がつくか、その二択。あとはハリエットの異能で転移の異能を借り、君を連れてくる」
「…そんなの殆どジョージに傾いた条件じゃないですか」
「君に先に気付かれる可能性だってあったんだ、そこは僕も賭けだったけれど…」
--- 「その心配も無用だったみたいだね」 ---
…腹が立つ。
神経を逆撫でするようなその声が、口調が。
物云いが。
「…慥かに私の力不足もあるかもしれない、それでもっ」
「端的に云うよ、僕達は君を殺す心算だ」
突然の死刑宣告。
うん…別に、驚かない。
「…その位、私達も予測してた...ボスが遂げられなかった計画を、今度こそ成し遂げるために貴方達はこの横浜に来た」
「そうだよ、にしても…殺すと云われて怖くはない?」
「その手の死刑宣告は幾度も受け取ってるから」
「うーん、この国、思ったより物騒だったんだね」
「なら帰って出直してきたほうがいい、軟弱」
「毒舌?」
「それ弟に云ったら?」
あはははは、と双方から思ってもいないような乾いた笑いが漏れ出ている。
普通の人が見れば、顔が引き攣ると思う。
「…勘違いしている様だけど、ボスはもう毒には染まらない」
「毒?僕達は正当な兄弟さ、それを云うなら偽の光を見せる君たちが毒じゃないか」
「違う!本当に弟のことを想っているなら、ボスが計画を失敗した時に貴方達は助けに来た筈!それをしなかった貴方達が、ボスの思いを語らないでっ!」
ガタン、と目の前でジョージが傾く。
遅れてやって来た鈍い痛みに、椅子ごと倒れたのは私だったのかと認識した。
「…何も知らないのは君さ、花姫。__もういい。君は思ったよりも莫迦だったみたいだ…興冷めだよ」
「っまずは…私を…起こしてから…話しかけなさいよ…!!」
椅子ごと倒れた所為で、椅子の下敷きになっている右腕が痛い。
上から目線に拍車がかかったジョージの態度も腹が立つ。
「…フランシス」
「なんだ?」
部屋にある唯一の扉を開いて、さらっと入ってきたフランシス。
いや、ずっといたなら入ってきたらよかったよね。
そんなフランシスの姿はボスと似ている。けれど、髪の色は似ていても瞳の色は少し違っていた。
ジョージは瞳の色が同じで髪の色は少し違う。
「錯乱させておいて貰ってもいい?」
「ああ、わかった」
異能力_|小瓶の中の真実《Turtle soup》
…やっぱり、迷惑をかけてしまう。
心の中でルイスさんとボスに謝っていると、眩しい光で視界がいっぱいになった。
__そういえば、ハリエットとメアリーには会ってないな、ぁ…___。
---
Tenniel side.
嫌な予感も伊達では無かったな、何て考える間もない。
「…テニエル、これ」
しゃがみ込んでいたルイス・キャロルに何かを差し出されて反射で受け取った。
「…この、チョーカー、」
「…不自然な所で切られているから、争ってはいないだろうけれど...態とだろうね、此処にこれを残したのも」
何時も身に着けていた黒いチョーカー。
いつか、"中也に貰ったのーっ!"と嬉しそうに俺に話して聞かせたその顔が浮かんだ。
そんな大切なものを取られて壊されて、気が付かない程泉は莫迦じゃない。
「…既に、彼奴らに...捕まっている、ってことか?」
「…そう考えるのが、一番妥当だね」
全部読まれていた。
ただその一言だった。
...泉の生死が、不明。
目の前のルイス・キャロルの顔色も、何所と無く悪いように見える。
如何したらいいのか、考えるのは正直俺の頭脳だけじゃ既に限界だった。
「…どうす、る_____は、?」
「っテニエル、君まさか__!!」
"一筋の光"。
最後に見たのは、混乱と怒りの入り混じった視線が俺を貫いて。
その視線諸共、姿が穴に吸い込まれて行ったところだった。
「…っは、あ...!?」
数秒、ぽつんと一人、路地裏で呆然と立っていた。
「はああああ!!?」
数秒後、どうしたらいいのか分からずに、もう一度叫んだ。
何が起こったんだ、
今の異能、俺のだよな?
いやでも俺何もやってないんだが、
絶対最後のあの視線俺を疑っただろ、
ルイス・キャロルだけは敵に回したくない、
絶対無理...
---
Satsuki side.
「…ったぁ…」
揺さぶられるような感覚に、目を開いた。
と、視界にルイスさんが映る。
部屋は先程と変わっていないようで、すでにあの二人はいなかった。
「…えっ、ルイスさん?」
「うん、僕だよ」
「……えっ、ルイスさん!?」
「うん、僕だよ?」
「なんでですか!?」
「何が!?」
いや、だって...と首を傾げる。
私はさっき、慥かに錯乱の異能を掛けられた。
なのに、違和感はないしルイスさんも至って普通…ルイスさんが私を見ておかしいと感じるところもなさそうだし。
「…その、ルイスさん、何が…あったんですか?」
「…彼が、…うぅん、でも__」
何かに悩んでいる様で、幾度も首を傾げては頷いてを繰り返している。
「…うん、取り敢えず落ち着いて最後まで聞いてほしい__テニエルの異能で、多分桜月ちゃんが最後にいた場所、らしきところから此処に連れてこられたんだ」
「…えへへ、大丈夫ですよ、今回は仲間内で異能を発動させることができるハリエットがいるんですから」
「あ、その異能はハリエットだったんだね」
そうみたいです、と頷く。
「…桜月ちゃん、その姿勢しんどくない?」
「…右腕が痺れてます」
「うん、直ぐ解くから一寸待ってね」
数刻前だろうか、縛られた椅子ごと横倒しにされた状態から動いていなかった上についさっき目覚めたところで縄たちの存在すら忘れていた。
「……お手数をお掛けしてごめんなさい…」
「いやいや、大丈夫だよ…よし、これで動けるかな」
「はいっ…!それじゃあ、この部屋から早く出て…」
「いや、もう少し状況を見てからの方がいいと思う、外がどういう状況なのか、此処が何所なのかもわかっていないから」
「そ、れもそうですね…わかりましたっ」
---
Tenniel side.
何を考えていようが、周囲にその内容は予想できない。
路地裏を少し抜けたところでは、不審そうに此方を見る幾つかの人影があった。
...やっベ。
咄嗟に転移した先は武装探偵社の屋上。
運が良いことに其処には誰も__
「居なくはないよ」
「うわあああ!?ってお前か!!驚かせるなよ!?」
さっきから叫んでばかりの為か、そろそろ喉が死んできた。
「…その様子じゃ、乱歩さんの仰ったとおりになったみたいだね」
飄々とそう云ってのけるその人影__太宰を、俺は睨みつける。
その言葉。つまり。
「…何が起こるか、予測できていたのか」
「まあ、ね。此方には宇宙一の名探偵がいるから」
「それなのに忠告一つ寄越さなかったのか、不親切なものだな」
「そうかっかしないでくれ給えよ、テニエル君」
その様子に、態度に、何かが切れた。
「泉が消えた!生死すら不明!おまけに今度は目の前で…目の前で、!目の前でルイス・キャロルが...俺には、っ何もできずに...」
「でも君はわかっているだろう?」
「…何が、だ」
「自分が何をすべきか。何処に行くべきか…さ」
休憩しながら。
ポートマフィア本部の医務室で横になりながら。
探偵社で目を閉じながら。
「…その間もずっと、考えていた。今、その時どう動けばいいのか」
「なら其れに従う迄だ。それが君に出来る事なのだから」
じっ、と太宰を見つめて。
「…何故助言しに来た?」
「別に、ただの気まぐれだよ」
それが本心か、虚心か。それは、本人にしか分からない。
「…助かった」
もう一度太宰をチラリと見て、小さく呟いた。
そのまま、何も云わずにとある場所へ自らを転移した。
__横浜の、あの場所に。
うわぁぁめちゃくちゃ私情で遅くなってごめんなさい天泣さん!!
しかもコラボ、楽しすぎて調子に乗って約6000字書いてしまいました…
それでも楽しみと言ってくださるのはやっぱり神様ですよね(
というわけで。次回分を書いてきます。
いや早すぎだろと思ったそこのあなた。
楽しすぎて筆が乗るんです。
…うん。
誰得の話だこれ。
ここまで読んでくださってありがとうございました!