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●第一奏 解放と自由の束縛⑵
母親とやるゲームは退屈だ。
なぜだか羞恥心を感じて、ゲームをしたいと言い出せなかったが、今日は母が久しぶりに休みだ。
そう思って声をかけたのに。
なんというか、強さ調節機能で調節したCPUと戦っているような感じで、自分と彼女は住む世界が違うんだと感じる。
強くと言えば強くなり、弱くと言えば弱くなる。
相変わらず無表情で画面を眺めている彼女を見ると、なぜか胃がキリキリと痛んだ。
ふと、自分のコントローラーに目線を落とす。
黄緑と灰色のストライプで飾られたコントローラーは、10歳の誕生日に買ってもらったものだった。
小さめのホールケーキの上に細かい装飾とイチゴが飾られていて、それを2人で食べた。
その時も、母親は笑わなかった。
テレビから派手な音がしたかと思うと、自分がゲームそっちのけで考え事をしていたのに気がついた。
「これで409連勝目です。もう一戦くらいなら時間ありますが、どうしましょう。」
「…じゃあ、もう一戦だけ。」
「わかりました。強さはどのくらいにしましょう。」
ゲームのアナウンスのような声色にチクリと胸が痛んだが、平然を装って「お任せ」といった。
試合開始のサインがなると同時に、テレビの画面がおかしくなる。
横向きの縞模様が入っていて、プツンプツンと不安になる音を立てていた。
「あれ…なんで…」
こういう時は叩いたら治る、って社会科見学で行った老人ホームのお爺さんが言っていた気がする。
叩いてみるが効果なし。さらに悪化した。デマじゃねぇか。
「ねぇ、テレビ壊れ───」
後ろを振り返ると、バグを起こして固まった母の姿があった。
体の周りにはバチバチと青い電気が散り、少し水色がかっていた黒い瞳は、正気のない真っ白に染まっている。
「律─ん、はや─逃げ───」
「大丈夫!?」
「逃げ──」
そう叫んだ瞬間、彼女の体がガクガクと痙攣し出し、変な方向に手足を動かし始めた。
恐怖を感じ、後退りする。
『自由ヲ我々ニ!』
ぶつぶつといつもより機械感の増した声で呟いている姿は、異常そのものだった。
『うわぁぁぁぁ!!!!!』
そこで恐怖が限界値まで達し、無我夢中でリビングから飛び出した。
リビングの扉の前に掃除機を置き、靴を持って外に転がり出ると、扉を必死で抑えている隣人と目が合った。