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第8話:咆哮:ドアを蹴破る光
「……離せ! このクソガキがぁ!!」
叔父の怒声が狭い部屋に反響する。
振り回される酒瓶。愛菜を庇うように立ちはだかった真蓮の背中に、鈍い衝撃音が何度も響いた。
「っ……、ぐぅ……!」
真蓮は顔を歪め、膝をつきそうになる。それでも、背後に震える愛菜の気配を感じるたびに、彼の瞳には消えることのない炎が宿った。
「秋葉くん! もういい、もういいから……! 私のせいで怪我しないで……!」
愛菜が泣きながら、真蓮のボロボロになった制服の裾を掴む。
けれど、真蓮は吐き捨てるように笑ってみせた。口の端から垂れる赤い血を、乱暴に腕で拭う。
「……バカ言うな。俺が、お前を、置いていくわけねーだろ!」
真蓮は叔父の突き出した腕を力任せに掴み、そのまま体当たりで押し返した。
大人を怯ませるほどの、命を削るような執念。
「お前の『家族』ごっこは、今ここで終わりだ。……愛菜の声を、一度でもちゃんと聞いたことがあんのかよ!!」
その時だった。
遠くから、夜の静寂を切り裂くような、高く鋭いサイレンの音が近づいてくる。
真蓮がここへ来る直前、公衆電話から震える手で通報していた「救いの音」だった。
「チッ……、ポリ公かよ……!」
顔を青くした叔父が、逃げようと窓へ向かう。
だが、真蓮はその足を死に物狂いで掴んで離さなかった。
「……行かせねえ。愛菜に謝るまで、一歩も……!」
バタン!! と玄関のドアが、駆けつけた警察官たちによって押し開けられる。
懐中電灯の光が部屋を白く染め、叔父が取り押さえられる怒号が響いた。
「……あ、あぁ……」
愛菜は、腰を抜かしたまま、ただ呆然とその光景を見ていた。
何年も、何年も自分を縛り付けていた地獄が、一人の少年の「お節介」によって、あまりにもあっけなく崩壊していく。
「……よぉ、愛菜」
隣で、真蓮が力なく座り込んだ。
全身アザだらけで、赤髪は汗と埃でぐちゃぐちゃだ。
それでも彼は、震える愛菜の肩を、大きな、温かい手で包み込んだ。
「……もう、大丈夫だ。……静かになったろ?」
その言葉を聞いた瞬間、愛菜の中で張り詰めていた糸が切れた。
「っ……う、あぁ……!!」
叔父の暴力に晒されても、一度も声を上げて泣かなかった愛菜が、真蓮の胸に顔を埋めて慟哭する。
それは、悲しみではなく、ようやく「生きていい」と許された喜びの|咆哮《ほうこう》だった。
パトカーの赤色灯が、雨上がりの窓を規則正しく照らす。
それは愛菜にとって、もう「怖い音」の予兆ではなく、真蓮が連れてきてくれた、新しい朝への合図だった。
🔚