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第2話:衝撃の出会い
「……おい、ミコト! 踊りが止まってるよ! 客に失礼だろう!」
背後からリンの怒鳴り声が飛んできたけれど、今の私には蚊の鳴くような羽音にしか聞こえなかった。
私の橙色の瞳は、宴会場の入り口に立つ「そのお方」に釘付けになっていた。
「……なんや、あの人。……いや、あのお方」
暖簾をくぐって現れたのは、油屋の天井を突き破りそうなほど巨大な体躯の男神だった。
岩のように逞しい胸板。旅の埃を纏った無骨な装束。そして、何よりも目を引くのは、すべてを見透かしそうなほど鋭く、けれど深い黄金色の瞳。
他の神々とは明らかに違う。
圧倒的な「本物の神気」が、宴会場の喧騒を凪のように静めていく。
「……い、いらっしゃい……ませぇ……」
いつもなら「さあさあ、オールしまっか!」と威勢よく飛び出すはずの私の声が、情けないほど震えた。
喉の奥がカラカラに乾き、心臓が油屋のボイラー室みたいにドクドクと熱を帯びる。
「……ふむ。賑やかな宿だな」
地響きのような、重低音。
その声が鼓膜を震わせた瞬間、私の頭の中は真っ白になった。
「あかん。……これ、あかんやつや」
「何があかんだよ!」
痺れを切らしたリンが、私の脇腹を強烈に小突いた。
「ほら、お出迎えだ! 看板娘だろう! あのデカい旦那を、一番良いお座敷へご案内しな!」
「ひぇっ、……う、うちが!? 無理無理無理、死んでまう! あ、神様やから死なへんけど、心臓が爆発してまうわ!」
「何言ってんだよ、さっさと行きな!」
リンに背中をド突き回され、私は千鳥足でそのお方の前へと進み出た。
見上げれば見上げるほど、その存在感に圧倒される。
近くに寄ると、微かに雨上がりの土のような、生命力に満ちた香りがした。
「……あ、あの……。……お、お一人様、……ですか?」
蚊の鳴くような声。
看板娘失格。プロ失格。
でも、彼がゆっくりと視線を私に落とした瞬間、私の世界から音が消えた。
黄金色の瞳が、真っ直ぐに私を射抜く。
「……ああ。……一番良い湯を頼む」
「……は、はいぃっ!!」
私は裏返った声で叫び、そのまま脱兎のごとくボイラー室の方へ駆け出した。
背後でリンが「そっちはお風呂じゃないよ!」と叫んでいるのが聞こえたけれど、もう止まれない。
「……な、なんだよ、あの男前……。……反則やろ、あんな声……」
ボイラー室の隅に蹲り、私は真っ赤になった顔を両手で覆った。
ススワタリたちが「キィ?」と不思議そうに寄ってくる。
「……みんな、見てた? ……うち、もしかしたら、えらいもん見つけてしもたかもしれへん……」
恋の導火線に火がついた。
ターゲットは、あの巨大な「導きの神」。
ミコトの平穏な湯女生活が、今、ガラガラと音を立てて崩れ去った瞬間だった。
🔚