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嫉妬
登場人物
福本千夏|《ふくもとちなつ》
佐野海斗|《さのかいと》
相川健二|《あいかわけんじ》
夕方の教室は、文化祭の準備で独特の熱気に包まれていた。
机を後ろに下げて作られた急ごしらえの舞台スペース。クラス対抗の演劇の練習は、台本の読み合わせから立ち稽古へと移り、いよいよ終盤のクライマックスに差し掛かっていた。
「じゃあ、ここで王子様が、眠れる森の美女の目を覚まさせるわけだけど……」
演出担当の女子が、顎にペンを当てながら唸る。
ヒロイン役の私と、王子様役の男友達――クラスのムードメーカーである健二は、気まずそうに顔を見合わせた。
「なあ、マジでキスすんの? 勘弁してよ、俺千夏の彼氏に放課後呼び出されたくないんだけど」
「フリに決まってるじゃん!」
私は笑いながら言った。
そうなのだ。クラスの誰もが周知の事実として、私には他クラスに「佐野海斗」という彼氏がいる。普段は明るくて優しくて、みんなの頼れるお兄ちゃん的な存在の海斗。だけど、妙なところで独占欲が強くてヤキモチ焼きな一面があることを、私はよく知っていた。
「オッケー、じゃあキスの『フリ』な! 観客席からそれっぽく見えるように、角度の練習しようぜ」
健二が「じゃ、失礼します」と冗談めかして私の肩に手を置いた。
「ほら、もっと顔近づけて! じゃないとフリってバレる!」
演出の指示に押され、健二の顔がぐっと近づいてくる。
数センチの距離。もちろん唇は触れていないが私の顔を隠すように絶妙な角度で首を傾けた、その瞬間だった。
ガラガラッ!!
静まり返った教室に、場違いなほど勢いよくドアが開く音が響き渡った。
「あ、佐野じゃん」
誰かが声を上げた。
振り返ると、そこには息を切らせた海斗が立っていた。部活のジャージ姿で、手には他クラスの手伝いで使っていたらしい段ボールを抱えている。いつもなら「お疲れー!」と人懐っこい笑顔でクラスに馴染むはずの彼が、今は完全に固まっていた。
海斗の視線が、私と、私の肩に置かれた健二の手、そして数センチ前まで近づいていた二人の顔に注がれる。
一瞬で、彼の大きな瞳から光が消えた。
怒りというより、あからさまな不機嫌と、言葉にできないショックが混ざり合ったような表情。
海斗はドン、と持っていた段ボールを近くの机に乱暴に置くと、迷いのない足取りで真っ直ぐ私に向かって歩いてきた。その場を支配するただならぬオーラに、クラスメイトたちがゴクリと息を呑む。
「……ちょっと、千夏借りるわ」
低い、いつもよりワントーン低い声。
海斗は健二を思いきり睨みつけると、私の返事も待たずに、右手で私の手首をがっちりと掴んだ。
「え、ちょっと、海斗――っ!?」
抵抗する隙も与えられない。勇斗は私の手首を掴んだまま、大股で教室を出て行った。クラスの後ろから「うわ、佐野マジギレじゃん……」「千夏、生きて帰れよ……」というヒソヒソ声が聞こえてくる。
海斗の歩くスピードは速くて、私はついていくのがやっとだった。
階段を駆け下り、放課後の生徒が滅多に通らない、旧校舎へと続く渡り廊下の隅。夕日がオレンジ色の長い影を落とすその場所にたどり着くと、海斗は不意に私の手首を離した。
パン、と小気味いい音を立てて、海斗はぷいっと横を向いて腕を組む。
「……何してんの」
低くて、冷たい声。だけど、どこか子供が拗ねたときのような尖った響きが混ざっている。
「海斗、怒らないで。今のね、文化祭の劇の練習をしてただけで……」
「見てた」
「え?」
「ドア開ける前から、窓越しに見てた。楽しそうに顔近づけてさ」
海斗は勢いよく振り返ると、私との距離を一歩詰めた。夕日に照らされた彼の顔は、眉間に思いきりシワが寄っていて、完全にヤキモチで怒っている。
「劇の練習とか、フリとか、そういうのは関係ないし! あいつ、めっちゃ顔近かったじゃん。俺っていう彼氏がいんのに、他の男とあんな距離になるなんて、バカじゃないの!?」
「だから、フリだってば! 本当に当たってないし、角度で見せてるだけで――」
「当たる当たらないの問題じゃないの!!」
海斗が声を張り上げた。廊下に響くその声に、私は思わず肩をすくめる。
海斗は自分の頭をガシガシと乱暴にかきむしると、今にも泣きそうな、悔しそうな目で私を見つめた。
「俺、マジで心臓止まるかと思ったんだからね!? ドア開けた瞬間、本当にキスしてるかと思って……頭真っ白になって、あいつのこと殴り飛ばしそうになったんだから……!」
普段は大人っぽくて、何でも笑って許してくれそうな海斗。だけど、こうして私のことになると、余裕なんて一切なくなって必死になってしまう。その姿が、不謹慎にも少しだけ愛おしく思えてしまった。
「……ごめんね、海斗。嫌な思いさせて」
私が素直に謝り、上目遣いで彼を見つめると、海斗は言葉を詰まらせた。怒り半分、照れ半分で、耳の先まで真っ赤になっている。
「……本当だよ。マジで大反省して」
海斗はふう、と大きなため息をつくと、組んでいた腕を解いた。そして、自分の来ているジャージのポケットに私の右手をぐいっと引き入れた。ポケットの中で、海斗の大きくて温かい手が、私の手を骨がきしむくらい強烈に握りしめる。
「今日の帰り道、ずーーっと手繋いで歩くこと。途中で離したら絶対許さないから」
「うん、離さないよ」
「あと、明日の練習からは、あいつの前に大きめの厚紙か何か挟んで。絶対に顔近づけさせないで。分かった?」
「それは劇としてどうなの……?」
私が苦笑すると、海斗はさらに口をへの字に曲げて、ポケットの中の手をぎゅっと握り直した。
「俺がダメって言ったらダメなの。……俺以外の男に、あんな距離許しちゃダメ」
夕日に染まる廊下で、海斗はまだ少し拗ねた顔のまま、だけど誰にも渡さないと言わんばかりの強い眼差しで、じっと私を見つめていた。
どーでしたかー?
自分が元々作ってた夢小説のコピペして名前変えたんですけど…名前違ったらすみません💦あと、消してて日本語おかしくなってたらすみません