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14.法令発布6
次の日の朝、お父様を見かけて声をかけた。
それにしても、わたくしは学校に行くため休みの時より早く起きているのですけど…それでもお父様の方が起きるのが早いのね。
「お父様。おはようございます。」
「あぁ、クランか。おはよう。」
「ところで、一つ質問があるのですが…」
「なんだ?」
「その前に、嘘をつかないと宣言してください。」
「…それは、約束に入るのか?」
多分、入ってしまうでしょうね。
「分かりませんわ。なんなら『約束』してもらってもいいんですよ?」
「いや、やめておく。」
「でしたら、宣言してください。」
「そうじゃない、クランの質問に答えるのをやめておくんだ。」
「何故ですか?…時間がありません。早く宣言してください。でないと、本当にお父様を信用できないのです。」
早くやってくれないかしら?お父様にはこれが効果的だと思うし、これで大丈夫だと思うけれど…
「__くぅ…そう来たか…__分かった。その質問に対して嘘はつかない。」
あ…助かったわ。さっき言った時に「その質問に対して」と言っていなかったわね。お父様が言ってくれて助かったわ。同時に、いかにお父様が嘘をつこうとしているかも分かったわ…。
思わず呆れてしまう。
「ありがとうございます。では、質問してもよろしいでしょうか?お父様は、法令を廃止…は実際にしたのでしょうが、それはいつ伝わるのでしょうか?」
「…明日だ。」
「遅いですね。公爵なのだからもっと早く伝えることもできるでしょうに。」
絶対お父様は少しでも伝わるのが遅くなるように計らった。でないと、土日から月曜日で一気に広まっていたわけがないでしょう?
「それはすまなかった。ただ、一つ言っておくが、これの元凶は、クランが公爵令嬢に関わらず、人と交流を持っていないのが悪い。そのことは覚えておいてほしい。」
「では、わたくしからも一つ。先ほどは宣言も約束に入りました。会話することでそのようなことが増えるのはわたくしも望んでおりません。」
「ぁ…今度からはそれも考慮する。ただ、昨日みたいに有意義にもっと使ってくれるといいと思う。」
「まぁ!わたくしはお父様を脅したのよ?それを有意義だと言ってしまっていいのかしら?」
「クランの正義感を信用しているからな。」
なるほど。お父様はわたくしが必要ないときにこれを使うとは思っていないのね。逆に、わたくしが必要だと思えば、これを使ってもいい。なんと…素晴らしい保証でしょう!
「ありがとうございます。」
「なぜ、そうなるのかは教えてくれないのだな…」
「もちろんです。すべてを知ることが良いこととは限りませんし、深入りは身を滅ぼしますもの。なにより、そうされるのはわたくしが望んでいません。」
まぁ、そもそもそれも「約束」しているのだけれど。だから、わたくしもそれは破れない。
学校についた。
「「「おはようございます!」」」
「__おはようございます。__」
あぁ…そうでした。今日はまだ取り消しの旨が伝わっていないのでしたね。
「クラン様!」
「何でしょうか?あの法令なら明日にはなくなっていますわよ?」
教室に緊張が走った…ような気がしたわ。
「あんな法令関係ないです!私はクラン様とただ喋りたいだけ…」
「ノア、クラン様が困っているよ。すみません、クラン様。昨日も止められればよかったんですけど。結局は私も話してしまいました。」
「クリーナ、邪魔しないでよ!」
クリーナと言うのね。昨日もわたくしに話しかけているそうですが…一言二言だった気がするわ。マシな部類ね。そして今の態度。今のところ嫌う要素がないわ。
「ノア、あんたがクラン様と無理に話すことでクラン様が困っているのよ。」
「だって…クラン様は昔は私にもよく喋ってくれていたんだもん。」
…え?
「あなた、今、何とおっしゃいました?」
「昔は私ともよく喋っていてくれた…でいいんですか?」
「いつの話かしら?」
「神殿です。」
確か、この子の名前はノアと言った。
…まだ思い出せないわ。しかも、なんだか気分も悪くなってきた。
本で読んだことがある。こういうふうに何かを思い出そうとして、気分が悪くなったのなら、そこにはトラウマか何かがある。それを思い出すと、更に成長できる、と。
「少し救護室に行ってくるわ。先生が来たらそう伝えといてくださる?」
「分かりました!」
良かった。だれもついてこない。
神殿でノアという女の子と喋っていた?わたくしが?神殿では1年過ごした。そういうこともあってもおかしくないかもしれない。けれど、わたくしの記憶は「神々にいたずら」以降が主で、それ以外はぼんやりとしている。確かに、それまでは、ふつうに喋っていたと思うのだけれど…その中に、あんな女の子、いたかしら?あんなふうにわたくしをキラキラ見てくる女の子なんて、いた気がしないわ
気づけば、救護室についていた。
「すみません。気分が悪くて…ベットをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「いいわよ。クラン・ヒマリアね。1年生よね?」
「はい。」
私は、ベットに横になり、あの暮らしを思い出していた。