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コールボーイ
使わせてもらった楽曲 コールボーイ
syudou様
晴瀬です。
悪い人の話です。
辛くなると、いつも足が向く。
そこは繁華街の場末のバー。
お洒落でもなんでもない、料理が特別旨いわけでもない。
でもそこはいつも賑わっている。
一夜で使い捨てたいクズと、使い捨てされたい輩が集まって大繁盛だ。
―――――――――――――――――――――
目が覚めて、酷い頭痛に気付く。
また昨日呑みすぎたな、と今のうちは思うものの酒を前にすればそんな思いも酒と一緒に流れていく。
小さく息を吐いた。
朝が始まる。
---
そして夜になる。
細かくは夕方の4時30分。
無意識に歩いていた。
気付けば目の前にあのバーの入口が。
引き返さず、そのまま歩みを進めバーの扉を開けた。
この扉から外に出る俺の横には知らない女。
「別にどこだっていいだろ」
ぶっきらぼうに言う。
ホテルにいちゃもんつけてくる奴は本当に面倒臭い奴だ。
どこだっていい、と小さく女は言った。
混ぜ物多めの安価なバーボンを煽って煽って煽る。
「半端なアンタがよく似合う」
昔、これを呑んでいると名前も知らない女がそう言っていた。
安いバーボンに似合う奴って何なんだと今では思う。
酒臭い息を吐きながら俺は笑う。
下で仰向きに寝転んでいる女も笑った。
「なあに」
笑顔を崩さず女は言った。また妖艶に微笑む。
「いや、なんでもない」
酔ったら全部同じこと。
皆同じ女で、朝起きれば気味が悪くなる。
髪の長さ?声?顔?体格?容姿?
どれも同じだ。
やることも、その後の後悔も、全部同じ。
寝落ちた隣の女を見ながら考える。
人は孤独を殺すため、"虚しい"を呑みすぎた酒と一緒にもどすために酒を呑むんだ。
金も時間も肝臓も。
「なぁ」
そう言う声はガサガサで俺の声ではないみたいで。
何でもやるからさ。
「二人でいよう?」
目は女を見ていたはずなのにいつの間にか酒に入れ替わっている。
酒は裏切らない。
そして俺は寝落ちる。
---
目が覚める。
隣に寝ているのは裸の女。
「誰」
俺が呟くと、その声が予想以上に大きかったのか女がむくりと起き上がる。
口角が上がっていく。
「何?」
笑顔のまま寝起きの声で女は聞き返す。
「誰」
俺がもう一度言うと女の笑みはゆっくりと崩れていく。
はあ、とあからさまに不機嫌な顔をして大きく溜息を吐いた。
「またそれぇ?」
わざとかというほど甘ったるい声で女は言う。
また、とはなんだ。
だんだん記憶が戻ってきてあのバーに行ったことを思い出す。
でもあそこは使い捨ての、
「ねえ、いつもそうやって記憶なくして、なくすまで呑んで、私を困らせて。
いつも第一声は『誰?』って。
いつも私心折れるんだからね?
ねえそういうの悪いって思わないの?」
苛ついたように黒目を回し、下着を履きながら女は言う。
「良いとか悪いとか言うそれ以前に俺には一切記憶がねえんだよ」
「はあ?」
ああ、もう、猛弁解。
きっと明日も弁解して誤解されて、知らない女に怒鳴られ続けるんだろう。
「ねえ分かってる?呑んだら明日に響くって何度も言ってるじゃん。
なんで学ばないの?
ちゃんと控えてよ。
明日のことを考えて。私のことを考えて」
「呑んだら明日に響くと言うけど飲まなきゃその明日すらもねえんだよ」
そう言ってから小さく「クソが」と呟いた。
もう嫌になる。
また大きく息を吐いてもう空になりかけた酒の瓶を煽る。
「ほらまた呑んで!」
女の声が頭に響く。
そろそろ服を着てほしい。
下着姿のままうろうろするな。
「もうやめなよ!」
俺に水を差し出す女。
それに構わずまた煽った。
---
明日の行方も今夜の宛も全部無くしてあのバーに行ってみれば尚も大繁盛。
バーを出る俺の横には知らない女。
また俺は問う。
「どこでもいいだろ」
俺よりも少し小さな背丈の女は言う。
「どこでもいい」
プライドと理性捨てりゃ愛を偽るのは簡単だ。
「好きだ」
「愛してる」
そんな言葉を馬鹿みたいに繰り返して何かを言おうとする女に笑い掛ける。
「しー」
と人差し指で黙らせて。
以下省略。
午前2時。
結局いつものこと、って言ったらお終いなんだけど。
隣で寝落ちた女を見ながら考える。
人は誰もが偽善者だ。優しい嘘を餌に狩りをする。
それを誘拐だとか暴行だとか、都合がいいにも程がある。
血酒火の酒苦い酒。
色んな酒を呑んできた。
「ねぇ」
そう言う声は子どものようで。
優しくするからさ。
「一人は嫌だ」
目は女を見ていたはずなのにいつの間にか酒に成り代わっている。
酒は裏切らない。
そして俺は寝落ちる。
---
目が覚める。
隣に寝ているのは裸の女。
「誰」
俺が呟くと、その声が予想以上に大きかったのか女がむくりと起き上がる。
口角が上がる。
「何?」
笑顔のまま寝起きの女は聞き返す。
「誰」
俺がもう一度言うと女の笑みはゆっくりと崩れていく。
はあ、とあからさまに不機嫌な顔をして大きな溜息を吐いた。
「またそれなのぉ?」
わざとかというほど甘ったるい声で女は言う。
また、とはなんだ。
だんだん記憶が戻ってきてあのバーに行ったことを思い出す。
でもあそこは使い捨てのバーじゃないか。
使い捨てて、一晩で、
「ねえ、いつもそうやって記憶消して、消えるまで呑んで、私を困らせて。
いつも第一声は『誰?』って。
いつも私心折れるんだからね?
ねえそういうの悪いって思わない?」
苛ついたように、髪を括りながら女は言う。
「良いとか悪いとか言うそれ以前に俺には一切記憶がねえんだよ」
「えぇ?」
ああ、もう、また猛弁解。
きっと明日も弁解して誤解されて、知らない女に怒鳴られ続けるんだろう。
「ねえ分かってる?呑んだら明日に響くって何度も言ってるじゃん。
なんで学ばないの?
お酒控えてよ。
明日のことを考えて。私のことを考えて」
「呑んだら明日に響くと言うけど飲まなきゃその明日すらもねえんだよ」
そう言ってから小さく「クソがよ」と呟いた。
もう嫌になる。
また大きく息を吐いてもう空になりかけた酒の瓶を煽る。
「ほらまた呑んで!」
女の声が頭に響く。
そろそろ服を着てほしい。
ほぼ裸のままうろうろするな。
「もうやめなよ!」
俺に水を差し出そうとする女。
それに構わずまた煽った。
「ねえ、私は恋なの。ずっとアンタが好きなの。
なのに何?いつもいつも朝起きたら私のこと忘れてる。
夜あんなに優しくしてくれたのに、朝になったらこれ。
恋なのよ。愛なんだよ」
唾を飛ばしてそんな幻を語る女に俺は言う。
「愛だの恋だのやんやと騒ぐけどな、酔ったら結局誰でもいいんだよ」
暴言を吐き散らす。
女も負けずと口を出し、荒ぶりて暴言タイム。
「誰でもいいって!?その誰かに私を選んで私もアンタを選んだんでしょう!?
ねえ馬鹿なの?阿呆なの!?
なんで酒なんか呑むの!?
アンタが酒を呑まなきゃ私は認知されていつも幸せでいられるのに!」
その「誰でも」すら俺は選ばれず泣くのもダセェし酒を浴びんだよ。
そう言い返そうと思ったがまた面倒になるだけだ。
本当に嫌になる。
俺は勢いよくまた酒を煽る。
酒を煽る手を俺は止めない。
喚く女には構わずもう一杯。
意味もなくもう一杯。
---
俺みたいな馬鹿と煙草の煙で酒が進む。
色んな店を|梯子《はしご》して、色んな酒を梯子した。
危なっかしげに、浴びるように酒を呑む俺はさながら蜘蛛の糸。
地獄から天国へ登れるかもしれないと淡い期待を胸にまた酒を呑む。
『どこもかしこもクソだらけだよ。
…っておい。
一番クソなのはオマエだ馬鹿』
---
「なんで覚えてないの!?」
「だから…」
「それくらい悪いって分かるでしょ!?」
「良いとか悪いとか言うそれ以前に俺には一切記憶がねえんだよ」
「またそれ。それで私がどれだけ傷付くと思ってるの!?」
「…………」
「黙ってないでなんか言ったらどうなの!?」
ヒステリックに叫ぶ知らない女。
何度説明しても理解できないこれは猿か。
嫌になるぜ、もう限界。
「呑んでもないのに難なく生きてるアンタの方こそ世界に呑まれてるんだよ!」
そしてまた小さく「クソ野郎が」と呟く。
なぜ話が通じない。
もう嫌になって昨日と今日とで4本目の酒の瓶を煽る。
酒を煽る手は止まらない。
まだ喚き叫ぶ女には小さく舌打ちをして酒を煽った。
太陽はもう頭上に上がっている。