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episode6
ドズルSide
「おはよーございます!!ドズルさん!」
「おはようございます!!」
「ふぁぁぁ。おはようございます。」
【三貴子】組のおはようの大合唱で僕らの朝は始まる。
ぼんさんは箒の上でやっぱり睡眠中。
愛用の箒、改造ファンカーゴに乗ったぼんさんが空に浮いている。
「ぼんさん、また寝てるんですか?」
「うん。昨日もポーション研究に熱中しちゃっててさ。」
「TNTで落としますか?」
おんりーがMENに合図を送る。MENも乗り気だけど止めないとやばい。
おんりーは容赦がないからね……。
「いいよいいよ。さ、遅れちゃダメだし急ごう。」
僕も愛用の箒ベリンゲイ555に乗って飛んだ。
おんりーたちも着いてくる。ぼんさんは寝ながらついてきた。
なんで寝ながら箒を操作できるのか、わからない。
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「今日は初授業だね。最初の授業、何だっけ?」
「確か自分の個人技を見るやつだった気が……?」
「げ……。俺できる?そんなの。」
すっかり目が覚めたぼんさんが文句を言い始める。
まぁ……実技だから、魔力のないぼんさんにはきついんだろうけど。
「大丈夫ですよ。ほら、魔力分けますから。じっとしてて。」
「自分も分けますよ。そのほうがドズさんにも負担少ないでしょうし。」
「僕もー!」
「んじゃ、俺も。」
ぼんさんはふえ?と間抜けな声を出し、僕らはぼんさんに手をかざした。
「わわっ!!待って待って!」
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「これより授業を始めます。気をつけ、礼!!」
「「「「「お願いします!!」」」」」
Aクラスは僕らしかいない、いわば特別クラス。
先生たちによればとんでもなく珍しい属性(つまりは【三貴子】組のこと)のため、普通のクラスではなく、特別クラスで授業をすることになったとか。
「君たちの担任になりました、ネコおじといいます。
今日から君たちの全教科を担当させてもらいます!よろしくね!」
ネコおじ先生。入学式で見た教頭先生に顔といい声といい似ている。
血縁関係でもあるんだろうか?
ネコおじ先生はチョークを持つと、何かの説明を書き始めた。
「この学校で学ぶのは、
【魔法実技】の基礎・基本・応用と【魔法学】。
【魔法学】には、占星学、魔法薬学、魔生物学、魔成語、魔法歴史、人間学などのことです。
【魔法実技】では基礎魔法から応用魔法はもちろん、魔術もやりますよ。
では、ドズルくん。」
ネコおじ先生はこちらを向くと、僕を指さした。
僕はすぐに立ち上がり、先生の言葉に耳を傾ける。
「【魔法】と【魔術】の違いは何ですか?」
予習してきたところだ。
僕は教科書に書いてあった内容を思い出す。
「はい!【魔法】は日常生活から戦いまで使える一般的な術のこと、
【魔術】は主に呪いの類の特別な術のことです!」
「大正解!」
ほっと一息ついて席に座る。
予習してきてよかった。一日目から答えられないなんて嫌だしね。
「ドズルくんが言ってくれたとおりです。
そして普通の魔法使いは魔術の基礎基本まで使えても、それ以上は使えない。
応用、そして実践魔術は魔力に左右されないがゆえに使える魔法使いも限られてくる。」
カンカンカンとチョークの音。
魔術はそこまで難しいものであると心に刻み込む。
「実践魔術までこなせる魔法使いを、この世界では【魔術使い】と呼びます。
まぁ、余談はこれくらいにして、授業を始めましょう。」
今までのは授業に関係なかったんかい、と突っ込みたいのを抑えて、僕は前を向いた。
次に先生はおんりーの方を指さしている。
「さぁ、本題に入りましょう。おんりーくん。
【個人技】について簡単に説明してください。」
「はい。【個人技】は自分の属性と性格その他諸々を組み合わせてできる、
高度な魔法のことです。」
大正解、と先生は言うと、個人技について書き始めた。
おんりーは見るからにホッとしている。……おんりーでも緊張するんだ。
先生は一通り書き終わると、どこからから杖を取り出した。
「じゃあ、ドズルくん、前へ。」
「あ、はい!」
呼ばれたので前へ行くと、先生は何やら魔法をかけてくれた。
入学式の日のようだった。
「お!すごいじゃん、君の個人技!!」
先生は驚いたようだが僕には何も理解しようがない。
けれど、僕の視界は明らかに変化していた。
先生の顔の横になにかの数値。強さ、魔力、血液型まで。
「君の個人技は、鑑定眼です。
いろんな人のステータスを見ることができる優れものですね。」
なるほど、これは便利。
データで表してくれてるからわかりやすいし、ありがたい!!
「じゃあ次、おんりーくん。」
先生に呼ばれ、おんりーはこっちに来る。
僕は席に帰る気にもならず、その場で待っていた。先生は何も言わなかったし。
魔法をかけられたおんりーは、キラキラと体が輝き出す。
「おー。これは俺も見たことないな……。
君だけのオンリーワンの個人技だね!」
「Only One……。じゃあ、個人技の名前それで。」
僕が見てみた限りではおんりーのスピードや力の部分が上がっている。
前から高い魔力や魔法の威力も上がって、もう最強すぎる。
「いや、おんりー強すぎ。」
「自分まだ何もやってないですけど。」
「僕にはわかっちゃうの!!」
自分の能力の使い方はこんなところにも、と新たな視点を持ちつつ、次は誰だ、と3人の方を向く。
「次はおらふくん!」
「はーいっ!」
元気に手を上げ、とててててとこちらに向かってくる姿がなんとも彼らしい。
おんりーも席には帰らず、先生の後ろでおらふくんの姿をじっと見ていた。
魔法をかけられたおらふくんは、何も起きてないようだった。
まるで僕のように。けれど、そうではないようである。
「君の個人技は、射撃関連かな?多分だけど魔法弓………。」
先生はやってみたほうが早いとおらふくんに弓を引く姿勢を取るように言う。
その姿勢を取ったおらふくんの手に、薄い水色の弓が握られた。
「ほぇ!?」
おらふくんは驚いたように声を上げる。
彼の気持ちはわからなくもない。いきなり弓が現れたら誰でもそりゃ驚く。
「お、上手!」
「こ、これどうやったら解除できるんですか!?」
「あ、大丈夫。ゆっくり手を離せば戻るよ。」
恐る恐るおらふくんが手を離すと弓は消えた。
僕が先程見たステータスでは視力や下半身での支え、腕力等々が上がっている。
この能力、弓使い特化型か。
「次はおおはらMENくん。」
「ほーい。」
ぼんさんが治癒のポーションを用意しだした。
まぁ……しょうがない?MENだし。TNT大好き人だし。
おらふくんも先生の後ろに残るらしい。なんでだろう。みんな気になるのかな。
魔法をかけられたMENの体は予想通りパチパチ言い始めた。
「君の個人技は、【爆発】だね。
いろんな爆発物を作れるよ。……扱いには注意してね?」
僕の鑑定眼に映ったMENは、耐性と回復量が上がっていた。
金リンゴ食べた時的な感じなのかな?
というか先生が念を押すくらいだから相当危ないやつなんだろうな……。
「とりあえずこの教室をやりま「MEN、だめ。」
おんりー、本当にありがとう。
ここまで暴走したMENを、僕は止められる気がしません。
いや、止められるの僕らの中ではおんりーくらいでは??
「さ、気を取り直して最後、ぼんじゅうるくん!」
「……えっと。」
なんともまぁ微妙な顔をして立ち上がるぼんさん。
相当不安なのだろうか。額からは汗が吹き出している。
「ぼんさーん、大丈夫ですよ〜。」
「あ、えーっと。」
ぼんさんはゆっくりゆっくり足を進める。
先生に魔法をかけられた彼の体は紫色に輝きはじめる。
あれ。おかしい。僕の鑑定眼が働かない。
視界に入っている先生のデータは出ているし、おんりーたちのデータも出ている。
ぼんさんだけだ。……なんで。
そう言ってると、先生の眉がピクリと動いた。
「ねぇ君………。」
先生は何も言わずに顔を背けた。
ぼんさんはやっぱり、と苦笑いをしている。
でも、先生はぼんさんに何かを渡した。
「ねぇ。一回だけ、やってほしいことがあるんです。
ぼんじゅうるくん。」
「なんですか?」
ぼんさんは寂しげに笑っていた。
普段のように、でも無理しているように。
昨日の、属性判断の日のように。
「ドズルくん、毒のポーション持ってる?」
「え、あ、はい!」
先生に言われ、僕は(完璧にドズった)リュックの中から毒のスプラッシュポーションを取り出す。
昨日ぼんさんと改良した、少し強めのポーションだ。
「うん、ありがとう。よし。いくよ、ぼんじゅうるくん?」
「え、あ。」
ぼんさんが返事をする前に、カシャンとガラスの割れる音がする。
あ。と思ったが遅い。ぼんさんは改良版毒を思いっきり浴びてしまった。
「ぼんさんっ!?」
けれど、ぼんさんが苦しむ様子はない。むしろケロッとしている。
逆に先生がちょっと苦しそうになっていたので、
とりあえず治癒のポーションをかけ、ミルクを渡す。
「あ、ありがとう。ドズルくん。」
「え、お、俺?」
ぼんさんは何が起きたのかわかっていない様子だった。
僕は見た。ぼんさんが毒にあたった途端、ネコおじ先生が毒状態になったこと。
何が起きたのか、わかっていないのは僕も一緒。
「君の個人技は、毒反転と傷移し。
毒を反転させて薬にしたり、自分の受けたダメージを相手に移せるやつだね。」
先生はミルクを一息に飲み干すと、ぼんさんの頭に手を置いた。
ぼんさんはまだ、わけがわかっていないらしい。
「え。」
「君の個人技は2つ。うまく使えば無敵になれるよ。
これは魔力も消費しないしね。」
無敵、という言葉にぼんさんの目が輝き出す。
魔力を消費しないというのも嬉しい点。
治癒のポーションの材料がいつでも手に入るわけじゃないし、毒反転はありがたい。
「無敵かぁ……。無敵のぼんじゅうるもいいかもなぁ。」
「良かったですね、ぼんさん。」
ぼんさんは笑った。本当に嬉しそうに。
おんりーやおらふくん、MENも笑っていた。
僕らは幸せだった。こんな笑いが、ずっと続けばよかったのに。