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真夜中のコインランドリー
いちごりら
午前二時。住宅街の片隅にあるコインランドリーは、蛍光灯の青白い光で浮き島のように白んでいた。 タケルは、くたびれたスウェット姿で、大型乾燥機が回るのをぼんやりと眺めていた。
そこに、カランとドアが開く音がして、毛皮のコートを着た派手な女性、ルミが現れた。
ルミ「……あー、寒い。ねえお兄さん、ここ、暖房入ってないの?」
タケル「……あ、はい。乾燥機の排熱でなんとなく暖かいだけですよ」
ルミ「最悪。人生、乾燥機の熱頼みなんて」
ルミはドサリと、タケルの隣の椅子に座り、小さな紙袋からハイボールの缶を取り出した。
ルミ「(プシュッ)……飲む?」
タケル「いえ、僕は明日、朝一で面接なんで」
ルミ「面接! 若いねえ。何次面接?」
タケル「五次です。もう、何を話せばいいのか分からなくて。自分の人生、全部洗濯機で回して、真っ白にリセットできればいいのにって思ってるところです」
タケルが自嘲気味に笑うと、ルミは缶を口に運び、目を細めた。
ルミ「リセットなんて、しなくていいわよ。あんたのその、必死に悩んでる汚れこそが、味なんだから。私なんて、汚れすぎてて、もうどのコースでも落ちないわよ」
ルミはそう言って、高いヒールを脱ぎ捨て、乾燥機の中で踊るタケルのワイシャツを指差した。
タケル「……ルミさんは、何をしにここへ?」
ルミ「私はね、寂しさを乾かしに来たの。家の中が、あんまりにも湿っぽくて。ここに来れば、誰かの洗濯物が回ってる音がして、なんとなく生きてる感じがするじゃない?」
乾燥機が「ピーッ」と終了を告げた。 タケルが立ち上がり、ホカホカになったワイシャツを取り出す。
タケル「……これ、あったかいですよ。触ります?」
ルミ「あら、役得。……本当だ、生きてる匂いがする。洗剤の安っぽい匂いと、少しの焦げた感じ」
ルミはタケルのワイシャツを両手で挟み、一瞬だけ目を閉じた。
タケルがワイシャツを丁寧に畳み始めると、ルミはバッグからくしゃくしゃになった千円札を取り出した。
ルミ「ほら、これ。お守り。面接の帰りに、一番高い肉でも食べなさい」
タケル「え、そんなの受け取れませんよ!」
ルミ「いいのよ。これは『先行投資』。あんたが立派な社会人になったら、どっかのスナックで私を見つけて、倍にして返して」
ルミはそう言って、再びヒールを履き、窓の外の雪を眺めた。
タケル「……ありがとうございます。あの、頑張ってきます」
ルミ「ええ。行ってらっしゃい。ワイシャツ、シワにならないように持ち帰るのよ」
タケルがランドリーを出て、冷たい夜風に当たると、さっきまでの絶望が少しだけ軽くなっていた。 背後で、再び乾燥機が回り始める音が聞こえる。
雪の降る夜。 孤独を乾かし合うだけの関係が、明日を生きるための小さな熱を産んでいた。