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神の血が流れる少女の苦悩
私は人間と神様の混血だ。
神様も、ただの神様ではなく、恋愛の神様として知られているフレイヤが私の父である。
……うん? フレイヤは女神だって?
まあ、細かいことは気にしてはいけない。
そんな人間と神様の混血である私は、一つの障害というか使命というか、そんなものを背負っている。
それは。
毎日恋愛要素のあるものを摂取しないと、眠ることができないのである!
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摂取の仕方は、結構なんでもいい。
恋愛漫画や恋愛小説を読むなり、恋愛アニメや恋愛ドラマを見るなり、また二次元に頼らなくてもリアルでイチャイチャしているカップルならぬリア充を傍目で見て堪能するなりすればよい。
ちなみに、恋愛恋愛と連呼しているが、別にBLでもGLでも構わない。
とりあえず、少しでも恋愛要素のあるものを摂取しないと、私は夜に眠ることができなくなってしまう。
どうしてこんな鬼畜としか言いようのないネックを生まれ持ってしまったのだろう。
と、先日、父女神に聞いたところ。
「あなたを私たちがいる世界に連れ戻したいからよ。」
という答えが返ってきた。
ちょっと待て。
それはつまり、私を死なせたいということか?
いや確かに、眠らないと人は死んでしまうけど!
「というわけで、あなたが十五歳になったら迎えに行くわね。」
どういうわけなのかさっぱり分からないが、いやほんとにちょっと待って。
……私、来月に十五歳の誕生日を迎えるんですが!?
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父女神フレイヤから一方的にそんなことを言われてから、三年が経った。
私は無事成人し、そして今日は大学の入学式の日である。
この三年間、実に様々なことがあった。
チラリと見かけたカップルが、私の視界に入るなり喧嘩を始めてそのまま別れたり、恋愛物の作品を見ればなぜか主人公カップルが破局エンドを迎えたり、挙句の果てにはそれを書いている作者が発狂し、作品が打ち切りになったりさえした。
恋愛要素のれの字もない。とんだ安眠妨害である。
呪いと祝いは紙一重とはよく言ったものだ。巻き込まれた方々が不憫でならない。
そんなこんなで父女神からの嫌がらせ……もといお迎えに耐えつつ入学式を迎えた。いやぁ、長かった。
意気揚々と大学の構内に入って顔を上げると、謎に黒ずくめの男が目に入った。
「……ん?」
髪は黒、服のスーツも黒、立派な革靴も黒色、しかも黒いサングラスもしている、そしておまけには黒いマスクもしていていかにも怪しい。
なるべく視線を合わせないようにしてそそくさと行こうとすると。
「もし、お嬢さん。」
声をかけられた。びくっと肩が震える。
知らない知らないと心の中で呟きながら足早に———。
「お嬢さんですよ、お嬢さん。破局の名人、お嬢さん。」
……ん?
今なんて言った?
破局の、名人?
ぴたっと足を止めた私に、この怪しすぎる男はとんでもないことを抜かしやがった。
「ほら、お嬢さんが見るもの読むもの、ぜーんぶ何故か破局エンドになるじゃないですか」
……なんて?
てか誰だこいつ。
恐る恐る顔を上げると、男は黒いマスクを外してニッコリと微笑んだ。
「私は怪しい者ではありません。———ひとつ提案があるのです。」
いまだに状況の理解が追いついていない私を置き去りにして、男もとい不審者Xは話し続ける。
「どうか、『別れさせ屋』を引き受けてくださいませんか?」
〈後記〉
日替わりお題から作りました。(単語:恋愛要素、安眠妨害、混血)
リクエストがあるか、作者の気まぐれによってはシリーズ化するかもしれません。