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終わりと始まり
「先生さよーなら!」
「おう、気を付けて帰れよー」
クラスの一軍女子たちの声を聞き、エリカは顔を上げた。
(…もう、こんな時間か)
冬の今は日没が早い。4時過ぎにはすでに、空は茜色に染まっていた。読みかけのファンタジー小説を鞄にしまい、エリカは席を立つ。
そして、無言で教室を出た。
彼女の姿を気に留めるものは、誰もいなかった。
エリカは、孤独だった。
人づきあいが苦手で、友達と呼べる人間など一人もいなかった。帰っても、両親は共働きで大体家にいない。夜は一人寂しく冷食を食べるのが日課だった。
「……寒い」
学校を出ると、容赦なく刺すような冷気がエリカを襲う。吐息が白く染まり、ほかの誰にも見られることなく消えてゆく。エリカはマフラーをしっかりと巻き、それに顔をうずめ、一人で帰宅路を歩き始めた。
温かみのない、いつも通りの帰り道だった。
「ねぇ聞いて、このまえさー」
「えーまじ?ウケるー!」
信号待ちをしていると、隣に女子高生二人組が並んだ。羨ましさがこみあげてきて、エリカは慌てて目を反らす。
——孤独なんて、慣れているはずだ。そう心に言い聞かせて、だけどチクチクとした痛みは消えなくて。エリカは信号が青に変わった途端、わき目も降らず歩き出した。
その直後、
ステージに上がったかのように眩い光がエリカを包んだ。
「……え?」
迫ってくる”それ”を認識した時には、もう運命を変えられないほどの距離まで来ていて。
思考が止まって、頭が真っ白になって。
すべてがスローモーションに見えた。
だけど、時はちゃんと動いてて。
——エリカの身体は、トラックに跳ね飛ばされた。
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眠い。
寒い。
…冷たい。
私は……どうなっちゃったの?
---
——エリカは、洞窟のような場所で目を覚ました。
「………え…?どこ、ここ……?」
混乱しながらも、エリカは立ち上がった。冷たい岩の上で寝ていたようだ。手のひらがひんやりとする。
「私……トラックに撥ねられて…それで……ここ、病院じゃ…ない…、?」
とてつもない不安を覚え、エリカは胸元の前でぎゅっと手を握る。洞窟内はとても広く、震えるエリカの声はすべて反響して聞こえてきた。
「……あれ…?」
ふと、違和感を覚えて足元を見る。
エリカの足には——身に覚えのない、こげ茶の厚底ブーツが収まっていた。慌てて腕を見ると、袖に金色の装飾が付いた黒いローブが身を包んでいる。
「え、…え?」
静かにエリカは困惑する。
誰でも良いから、状況を説明してほしい。
ただ、周りを見渡しても無機質な岩と水しかない。
……水?
(水なら、鏡の代わりになるかな……)
好奇心に突き動かされ、エリカはこわごわと水たまりに近づく。
映し出された己の姿を見て、エリカは言葉を失った。
映ったのは、墨から生まれてきたような少女だった。
闇を吸い込んだみたいに真っ黒なウルフカットの髪は、寝起きのように跳ねている。無造作に伸びた前髪に隠されている紫色の瞳は、まるでアメジストみたいだ。どこかあどけなさの残る顔は、絶世の美女までとはいかなくとも、まぁまぁ整った顔立ちをしている。
その姿は、いつものエリカではなかった。
——見知らぬ、”誰か”だった。
「どういう…こと…?夢…?」
頬をつねる。
頭を軽く小突いてみる。
だけど、目が覚める気配はなかった。
そもそも、意識自体はかなりはっきりしているように思える。
その事実が、エリカの馬鹿げた妄想に拍車をかける。
「もしかして、私…」
「——転生、した?」