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Episode.3
永遠とも思える時間を、エリカはただ洞窟を彷徨うことに使った。実際にはたった数十分間だったのかもしれないが、彼女にとっては何時間も時が過ぎ去ったかのように感じられた。
その、短く長い時の流れを経て。
「……ぁ」
────彼女は、かすかな光を見つけた。
▷▶▷
ようやく洞窟を抜け出したエリカは、青々とした空気を胸いっぱいに吸い込んだ。終始混乱していた頭が少しすっきりとする。ため息とも吸い過ぎた息を吐きだしただけともとれるような吐息を漏らし、彼女は周囲を見渡した。
(……草原しか見えないな)
街の明かりどころか、人影らしきものも見当たらずエリカは肩を落とす。不安と焦りが膨れ上がりそうになり、彼女はぶんぶんと頭を振った。
「少し歩こう……」
自分に言い聞かせるように呟き、足を動かす。
そうしないと、孤独と寂しさに押し潰されてしまいそうだったから。
▷▶▷
変わり映えのない景色を突き進み、肉体的にも精神的にも疲労が見え始めた頃、ようやくエリカは街らしきものを見つけた。明らかに日本のものでは無さそうな建築物や人々の服装、そして見たことのない文字列に、やはり転生したのだと実感させられてしまう。
道行く人は皆、色とりどりの髪色をしていた。しかし、その中にエリカと同じ黒髪は見受けられなかった。
ただ、一人ぼっちだった世界でようやく他人を見つけた彼女にはそんなことを気にする余裕などなかった。速足で駆け寄り、一瞬言葉が通じるのか不安になりつつも一人の通行人に話しかける。
「あのっ……!」
聞きたいことが瞬時に頭の中を駆け巡り、あまりの多さでその先の言葉に詰まる。
ここはどこなのか。
貴方達は誰なのか。
『転生』について知っているか。
何でも良い。
何か、知ってることを教えて欲しい。
焦燥感溢れる表情で話しかけてきたエリカに、通行人はぽかんと口を開いていた。しかし、その顔はだんだんと違う感情を帯びる。
(……ぇ…?)
ようやく、興奮で頬を紅潮させていたエリカもそのことに気が付いた。
────恐怖。
通行人の顔からは、そんな感情が見て取れた。
「……えっと、あの……?」
徐々に青ざめていく彼に、エリカは弱弱しい声音で尋ねる。彼女の心臓は激しく波打ち、のどがごくりと音を立てた。
一方で、通行人はわなわなと震え、何かに慄き、目を見開いたままエリカを凝視する。そして、突然はじかれたかのように叫んだ。
「────【|悪魔の血を引く者《インフェルノ・ブラッド》】だ!!」
その、次の瞬間。
「……ひっ……!」
エリカは、戦慄した。
その声を聞いた全員の視線が。
敵意に満ちた無数の瞳が。
たった一人の少女を、一斉に貫いていた。
「おい、あいつこっち見てるぞ!!」
「で、出ていけ悪魔!!」
「ひぃっ?!こっち見たぞ!!」
「やめて、来ないで……!!」
「いやぁぁぁ!!」
まるで醜悪な化け物が現れたかのような、阿鼻叫喚とした空気が瞬く間に広まる。その元凶であるエリカは、ただ呆然と人々を見つめていた。
そのうち誰かが、彼女に石を投げつけた。それを皮切りに、一斉に人々が罵声と共に物を投げだす。
ようやく我に返ったエリカは、慌てて駆け出した。
「っ……!!」
頬を掠った石が切り傷を作り、ずきりとした痛みが走る。ただ、それよりもズキズキとした痛みがエリカの胸を抉っていた。
じわりと浮かぶ涙を拭い、艶やかな唇をきつく噛みしめ、彼女は必死に進み続ける。
無意識のうちに、奥底に閉じ込めようとしていた心の声が囁いた。
転生したのに。
生まれ変われたのに。
(────また私は、一人ぼっちなのかな……)
エリカの瞳に、再び涙が滲んだ。
もう、彼女がそれを拭うことは無かった。