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ナイトメア
らむね
クラスカースト最下位の俺は、今日も惨めに教室の端で横に広い体を縮こませている。
担任の声は、まるで古いラジオのノイズのように遠い。教室の隅は埃っぽい生ぬるい空気が澱んでいて、横に広い体を鉄の塊のように感じながら、俺は「教室の壁紙になりたい」と願いながら縮こませていた。
HRホームルームが始まった。いつもと同じ、単調な内容。寝不足が原因のあくびを固い塊のように喉の奥で噛み殺す。今日の時間割が読み上げられている中、突然床が光り輝き始めた。それはただ明るいだけでなく、甘い香りを放つような、黄金色の光だった。
クラス中の混乱する声が聞こえるが、俺はこの状況を知っていた。何度も何度も、ラノベで読んだことがあるぞ‼︎
床からの光が止んだ後には、豪華絢爛な中世ヨーロッパの王宮と、絶世の美少女。その声はまるで溶けた蜂蜜のように耳に流れ込む。
「ようこそいらっしゃいました‼︎勇者様!私はこの国の王女:メアと申します!そのお力を王国に貸していただけませんか?この国は滅びの危機に瀕しているのです!」
メア王女がこちらに駆け寄ってくる。やっぱり俺は勇者だったのか。俺がただの陰キャだなんておかしいと思っていたんだ‼︎ 運命は、この瞬間から書き換えられる!
豊満な胸が、俺の醜い現実を全て許してくれるかのように体に押し付けられる。さらに王女は言い募ってくる。
「どうかお願いします、勇者様!私はどうなっても構いませんので、、!」
なんでも…?ははっ、これが俺の運命だったんだ!
「もちろんだ!俺が王国を助けてやろう。その代わり、王女には俺の嫁になってもらうぞ」
王女の瞳が嬉しげに揺れる。潤んだ瞳でこちらに上目遣いしている。感動するぐらいに俺の嫁になるのが嬉しかったのか。
王女を抱き寄せ、「君と結婚するのが楽しみだよ」と耳打ちする。
王女もこちらをみて口を開いた。その瞳の奥に、一瞬、冷たい、機械のような光が宿った気がした。そして口から出たのは──
「縺雁燕縺ェ繧薙°縺ィ邨仙ゥ壹@縺溘¥縺ェ縺??シ?」
ドンッ、と強い衝撃が俺の右頬を襲った。
「おい、またデブが気持ち悪い笑みを浮かべながら居眠りしてるぞ!」
視界が一気に白く霞み、次の瞬間、天井の蛍光灯が白々しい現実の光として目に焼き付いた。どうやら俺は居眠りをしていて、教科書を投げ付けられたらしい。さっきのは夢か。反応しない俺に向けて、まるでゴミを嘲笑うような、冷たい波のような嘲笑が教室中に巻き起こる。
やっぱり、都合の良いことなんて起きないのか。
クラスカースト最下位の俺は、今日も惨めに教室の端で横に広い体を縮こませている。
初めての短編。感想お待ちしてます。
現実で簡単に都合のいいことなんて起きないよね。