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〖鏡逢わせて瞼を開く〗
......夢、だったのか。それとも、現実だったのか。いくら考えても答えはでない。
ただ、何故かある言葉が脳裏に焼きついている。
--- 鏡は真実だけを対比して映す。夢か否かは逢わせれば自ずと答えは出るだろうね。 ---
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顔立ちがかなり整った男女が二人して倒れこんでいる。
その横を白兎が急いで通り過ぎるが、これはまぁ、良いだろう。
女性はこれといって平凡な黒髪に短い一結び、濁った黒い瞳、女性らしい体格をしている。
男性は黒髪のポニーテールに右は青、左は緑のオッドアイの瞳、身体つきにはやや幼さが残る。
「これまた美男美女が二人も揃って......憎たらしいねぇ」
男女の近くから伸びをするような低い声。それは、やけに曲がりくねった木の上にいた。
痩せこけた身体に毛並みの悪い薄汚れた猫。顔も決して可愛いとは言い切れない。
「しかし、まぁ......そろそろ起きてもらおうかな」
例の猫はぴょんと木から降りると、ひとまず男性に雑にダイブし、女性には上に乗った。
それで起きるのが生きている証である。
「うっ...え、重......?」 (結衣)
「なん、痛...は?」 (リリ)
口々に述べた言葉は気にせず、
「やぁ、おはよう...〖アリス〗とその友人君」
何も知らなかったかのように挨拶した。
女性は|足立結衣《あだちゆい》、男性は|空才《そらたか》リリである。
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ぴょんぴょんと踊り舞うキノコの跳び跳ねる小道を二人の男女が進んでいる。
赤いカチューシャを着けた黒髪の長髪に黒い瞳、黒スーツを着た華奢な身体つきの女性。
|寒色《アッシュグレイ》の爽やかなショート、|鈍色《にびいろ》...濃い灰色の真顔に死んだような瞳を貼りつけたすらりとした体格の男性。
|神来社凪《からいとなぎ》、|濱田光流《はまだみつる》である。
「おっと、その先はまだ行っちゃダメだよ」
不意に二人の後ろから大きくよく通る声が響く。
振り返れば、艶やかで美しい毛並みにふっくらとした身体つきの小綺麗な猫。顔はまぁ、中くらいの可愛さ。
「どうして、行ってはいけないの?」 (凪)
ふと、神来社凪、女性が訊く。それに勿論応えるのは猫。
「その先はまだダメと俺が今、決めたからさ」
「理由になってないわ」 (凪)
「じゃあ、そこの男が行きたくなさそうだったから」
「何も言ってないし、行きたくないと思ってない」 (光流)
三人、二人と一匹の会話が続く。
「そもそも、貴方は誰なの?」 (凪)
「〖アリス〗、君はもう知ってるはずだ」
「知らないわよ」 (凪)
堂々とした猫の言葉に凪が問うても意味がないと気づいたのか、光流が訊いた。
「じゃあ、僕は知らないから、教えられるよね?」 (光流)
「ふぅむ...確かに。俺はチャシャ猫だよ、あんたら白兎を見なかったかい?」
「いいや?気づいたらここにいて、この子と歩いてたんだよ」 (光流)
「へぇ、じゃあ白兎はあちら側に行ってしまったのか。困ったねぇ」
チャシャ猫は尻尾をぴんと立てて、くるくると回った後止まった。
「そうだな、じゃあこうしよう。あんたらはあの跳び跳ねキノコの生えた小道に行くんだ」
「その先に、何があるの?」 (凪)
「変な蛙たちが合唱してる、うるさ~い合唱隊の練習場さ」