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3.推しの存在
『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』のネタバレを含みます。
特に黒幕(キャベツ)
罪木は攻略本を片手に『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』をプレイしていた。
分厚い攻略本には、あらゆる情報が網羅されている。
罪木は、ゲーム内の時間を無駄にしないよう、ゲームを進めていった。
「攻略本通りに進めれば、完璧な攻略、できますから…!」
それから、彼女の心をとらえて離さない、ある一人の推しがいた。
それは、いつも飄々としていて、頼りない雰囲気を持つ刑事、足立透。
彼は、他のキャラクターとは一線を画していた。
一ただのお調子者で、少しだけ空気が読めない、そんな普通の大人。
しかし、罪木はインターネットでネタバレを漁り、彼のもう一つの顔を知っていた。
表向きの仮面の下に隠された、邪悪で、狡猾で、全てを見下すような「ゲスさ」。
罪木は、そんな彼の二面性に、とてつもなく惹かれた。
「みんな、優しい人だと思ってますよね…全部、うそ…!」
普段、人から嫌われないように、顔色を窺いながら生きている罪木にとって、
足立透という存在は、ある種の憧れであり、心の拠り所だった。
誰にも理解されない、自分の内側に秘めた暗い感情。
それを彼だけは、堂々と、悪びれることもなく晒しているように見えた。
もちろん、彼が犯した罪は許されるものではない。
それでも、罪木の心は彼に強く惹かれた。
「ううっ、私が…!私が足立さんのことを、わ、分かってあげますから…!」
足立が発する一言を、まるで自分へのメッセージのように受け取った。
コミュニティ前には周りをぐるぐる回り、にやける。
足立のイベント、コミュニティを進めるたびに、心臓が大きく脈打った。
罪木は、彼の「人間らしい」ゲスさを、誰よりも理解しているつもりだった。
現実では誰も自分のことなど見てくれない、理解してくれないと思っていた罪木にとって、足立透というキャラクターは、ただのゲームの登場人物ではなく、自分と同じ孤独を抱えた、特別な存在だったのだ。
寮の自室で一人、罪木は『ペルソナ』の世界に浸りながら、
自分の心をかのような足立の姿を、ただひたすらに見つめ続けていた。