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36.
「『上級植物魔法 はらりと散る葉と命』」
「『中級霊魔法 霊はあなたの足枷となる』『上級妖術 舞妖』」
葉が舞いあがり、八咫烏が飛びまわる。
多分、この戦いは『覇霊』を攻略できるかどうかで決まる。
「『上級妖術 貴方は生と死の間にいる』シャルムおねえちゃんにも勝ちたい!」
「私も負けられませんから。『上級植物魔法 守りの籠』」
朱里ちゃんは幽霊や小さな魔物などを使役することができる。
本来なら、天使には現れない能力なんだって。
それでも朱里ちゃんは戦えている。末恐ろしいよ。
「『魔剣』『切り刻め』」
シャルムは魔剣使い。植物も使役して、支援もできる。
――――そして、周りがよく見える。
「『魔剣術 剣と命の光』」
『覇霊』には2つの弱点がある。
一つは強大な力を止めきれないこと。
もう一つは――――
この技の影響を受けてしまうこと。
「『覇霊王』シャルムおねえちゃん、なんで・・・?」
間一髪で止めた朱里ちゃんがこぼしたのは疑問だった。
本来なら『覇霊』はある程度の攻撃なら逸らすことができる。
でも、シャルムのこの剣術は相手の技さえも斬ってしまう。
(シャルムが有利だな、覇霊が意味を成してない)
もちろん、朱里ちゃんの強みはそれだけじゃない。
でも強みを一つ潰されるのは、この戦いでは数字以上に大きな意味がある。
「負けたくないもん! まだ戦える!『究極妖術 死神の迎えは命との別れ』」
死神が現れ、鎌が鋭く振り抜かれた。
「『魔剣術 剣と命の光』私だって負けたくありませんよ」
鎌と剣が交錯する。シャルムの猛追を避けた鎌が首元を狙う。
「『上級植物魔法 はらりと散る葉と命』お嬢様の前で敗北するなんて、考えたくもないです」
「私もお兄ちゃんにいいとこ見せたいもん!『上級霊魔法 魂の叫び』」
鋭い咆哮が聞こえた。その瞬間に、シャルムは心臓を押さえる。
黒いもやもやが纏わりつき、顔をしかめる。
「なんですか、これはまるで―――」
シャルムはそこで言葉を切る。でも言いたいことはわかる。天使である朱里ちゃんがこんな黒いオーラを放っているという事実は実際に見ていても理解できない。だって魔族である私と遜色ないレベルの闇の濃さだよ?天使が出せるようなものではないはず。
なんとか挽回しようと考えたのか、メイド服のポケットから小瓶を取り出すシャルム。
「植物は、攻撃と防御のためだけにあるわけではないんですよ」
コルクが軽快な音をたてて外れる。シャルムはその中身をぐいっと飲み干した。すると、ほんの少しだけもやもやが離れて霧散した。
「やはりこれだけだと厳しいですね」
あの瓶は一本だけだったらしい、どういう代物かわからないけど根本的な解決にはなってない。
「あと1分だよ」
星奈さんがタイマーを持ってそう告げる。
「技のレパートリーが少ないのが課題ですかね、増やしていかないと」
シャルムは誰に言うでもなく、そっと呟く。
「『上級妖術 貴方は生と死の間にいる』」
小さい妖怪が現れる。犬、猫、ウサギといろんな見た目をしている。
それらを無言で斬り伏せるシャルム。
本当に負けたくないのが伝わってくる。
出しては斬り、出しては斬りを繰り返して時間になった。
「一撃必殺があればよかったですね⋯⋯⋯」
シャルムはこの模擬戦でそう結論づけたみたい。
時計を見るともう10時、みんなのご飯を作るために彼女は離脱した。
「次は俺か。美音の相手ができるかわかんないけど」
星奈さんからタイマーを手渡されながら、会話を聞く。
「謙遜しないで。星奈の強みは本物だからね」
二人はいつも通りに見えるけど、少し違う。
「『初級光魔法 閃光』」
2人の大きな違い、それは種族。
人間である星奈さんは、魔法の耐性なんて持っていない。
だから初級魔法でも有効に働くのかな。
「光らせたのはブラフ、美音は俺の疑似魔力の消費に来てる」
星奈さんの疑似魔法にもエネルギーが必要らしい。
まあ、当然といえば当然かな?
たしかに急に光ったら防御したくなる。
でも、そこを星奈さんは読んだんだ。
「その疑似魔法を潰しちゃえば、僕が圧倒的に有利だからさ」
「別にそれだけを研究してるわけじゃないけど」
そう言って小さな何かを放り投げた。
それが弾けると中から紫色の明らかに危険な液体が流れる。
その液体は少しずつ空気に溶けていく。
「最高傑作の毒だよ。しかもお前にしか作用しない優れもの」
「星奈もなかなか意地悪なことするね、よりにもよって闇だなんて」
天使である美音に闇は毒だ。
合理的で冷静な判断が星奈さんの強み。
美音のほうが有利だと思ってたけど、そんなことないみたい。
「それじゃ、一気にいくよ。『疑似魔法 |隕石衝突《プラネット フォール》』」
「『変化術 |幻影《ファントム》』」
「そんなんじゃ、何も守りきれない。『疑似魔法 |電気の拳《エレキ ハンド》』」
星奈さんの左手から、ビリビリと電気が発せられる。
一気に距離を詰めた彼は、その拳で相手を麻痺させる。
「『上級複合魔法 光速』」
自らが光となる技、『光速』で難を逃れた。
「それ、やっぱりずるい。『アイテムNo.3 追跡型星爆弾』」
星のような輝きを放つ小さな爆弾たちは、美音を追跡する。
もちろん美音のほうが速いけど、あの技を解除したら追いつかれる気がする。
「『解除』『上級聖魔法 八神結界』」
受けきった美音の顔は暗い。
ぎりぎり持ちこたえたけど、実は危なかったのかもしれない。
「お二方、昼食にいたしましょうか」
調理を終えたシャルムが顔を出す。
カレーのいい匂いが充満して、思わずお腹を鳴らしてしまう。
「たくさん動きましたもんね、健康な証拠ですよ」
そう言ってくれるのは嬉しいけど、やっぱり恥ずかしい。
ちらっと見るとシャルムがちょっとニヤついてる気がする。
ふと思った。
今日で楽しく会話ができるのが最後になるかもしれないと。
勝てるという確証がない、そんな中で挑む戦いであることを。
まだ少し時間がある、コンディションを整えないとね。
3/1に小説にコメントくれた方ありがとうございます!こちらでもお礼申し上げます!もうすぐ完結いたしますが、最後までよろしく!