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クリスマスケーキは世界を二分する
クリスマス祝いの小説。カオス。
……|何処《どこ》かの時間、|何《いず》れかの場所、|何故《なぜ》存在するのかすら誰にもわからないナニカの上に、暗い部屋が浮かんでいた。
部屋の外から見るにただ一つだけ付いている陰気な扉を開くと、大きな企業の会議室に似た空間が広がっていた。
大きな長机に整然と並んだパイプ椅子。その一つ一つには、誰かが間違いなく座っている。
「ではこれより、世界行事連盟担当会議を始めます。理知的に、倫理的に、穏便にお願いします」
ーーーここに、奇妙な話し合いが開かれた。
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「あのさぁ…今日、クリスマスだぜ?今日の担当本人が忙しくしてる中で、何話し合うってんだよ」
大あくびしながら主催者を睨むのは“こどもの日”担当のタンゴ。喧嘩っ早いのはいつも通りだが、今日はいつにも増してイラついているようだ。
「知らないわよ。脳筋がギャーピー騒いでる間に、パーティーの時間がどんどん削られてるわけなんだけど。アタシの時間を盗るなんて、いい度胸じゃないの」
ない胸を逸らして冷めた目を向けるのは、“ハロウィーン”担当のウィッチ。オレンジ色のふわふわした手袋に露出が多い服。派手なメイクを施した顔からは幼さが隠しきれていない。
「ぁあーん!?ガキが知ったような口聞くんじゃねぇよゴラァ!」
「これだから大人は頭硬いって言われるのよ。ああごめんなさい、あんたそもそも頭空っぽだったわね」
「テッメェ…!!」
爆発寸前の空気があたりを漂う。この二人、仲悪いんだよなぁ…
「まーまー、ガキでも頭空っぽでもどうしようもないんじゃなーい?とりあえず、煽るのは一旦やめよーな?」
「「お前が一番煽ってるだろ!」のよ!」
間伸びした独特な喋り方で火にガソリンをぶちまけたのは“十五夜”担当のカグヤだ。傍観していたが、そろそろと機会を見て止めに入る。
「はいストップ。話し合うのはそこじゃありませんよ〜」
「「「チッ……」」」
「二人はともかく、カグヤさん素が隠し切れてませんよ?」
思わず突っ込んでしまったが、こんなことでは流されない。平常心、平常心。
「さて、今回の議題は一つ。単純かつ複雑な問題です」
その言葉に全員の表情が引き締まる。それに満足しながら、大事な大事な言葉の先を続ける。
「議題はズバリ、“今年のクリスマスケーキ”です!」
……しばし、とは言い難い重めの沈黙が流れた。
あれ?
「……おいおい、そんなもんのために呼んだのか?最初っから決まってるだろうが」
「同意見ね。全員満場一致で決まるでしょうよ」
「絶対に「チョコレートケーキ「ショートケーキよね」だよな」
「だから言ったでしょう」
タンゴとウィッチは対立すると思ったよ。なんか疲れてきた。
「じゃあ、その二つのどっちかでーーー」
「いや、三つだンね」
口を挟んできたのは“ひな祭り”担当のボンボリだ。これ以上選択肢を増やして欲しくないなぁ……
「こんなものは自明の理ーーーフルーツたっぷりのタルトだ」
「「むむむ………!?」」
揺れてる。
「ぐぅ…負けるものか!俺様はチョコレートで祝うんだ!」
「そ、そうよ!アタシは意見を曲げる気はないんだからね!」
突っぱねないでよ、できれば納得して欲しかったよ。
バチバチ火花を散らし合って牽制し合う3人。他の担当たちも言い分はあるようだが、あそこの戦いに飛び込みたくはないようで沈黙を貫いている。
助けてよ、カグヤ……!と一縷の望みを胸にチラリとそちらに目を向けると。
「愉快な3人だねー」
全然愉快じゃないよ?
そんなカグヤのつぶやきも聞こえないようで、3人はお互いを睨み合っている。譲る気は一切なさそうだ。
ここまでくると僕にもどうにもできないのに……!た、たすけてぇ!
「やっほぅみんなぁ!どうもぅ、今日は大忙しなサンタくんだよぅ」
ーーーー救いは、最後にやってきた。
急に扉が開いて、部屋の中に光が溢れた。照らされた部屋が一瞬で明るく楽しい雰囲気に染まる。
彼の真っ赤な衣装と帽子、あるはずが生えてない髭、のんびりした口調。
それは間違いなく、彼だった。
「ちょっとぅ、みんなどこにいるかと思ったらぁ、こんなとこにいたんだねぇ!探したんだよぉ?」
そののんびりした口調のまま、彼ーーー“クリスマス”担当、サンタクロースは背負った大きな袋を下ろした。色はもちろん真っ白だ。
袋からこれまた大きな箱を慎重に取り出す。みんなが見ている前で、彼は言った。
「メリークリスマス!今年も、クリスマスプレゼントを持ってきたよぉ!」
勢いよく、箱の蓋を開けた。
中にあったのはーーーー
「こ、これは!」
ミックスケーキ!
「クリスマスケーキはいろんな人が食べるんだぁ。色んな好みがあるのは、当たり前だよぅ?
ならさぁ……別に、好きなものを食べたらいいんじゃないのぉ?」
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そこからはもう会議なんて忘れて、みんなが大騒ぎした。タンゴが酔っ払ってウィッチとダンスを始めたり、そこにカグヤが対抗して和風の舞を始めたりして喝采が湧き上がる。みんな、とても楽しそうだ。
「どぉ?ちゃぁんと、まとまったでしょぅ?」
「ああ……完璧だよ」
それを側から見ていた僕に、サンタが話しかけてきた。自慢げな声に思わず苦笑が漏れる。
「今日は忙しかったんじゃないの?」
「そうだけどぉ…七面鳥フレンズの危機ならぁ、仕事なんてちょちょいのちょい、だよぉ」
「七面鳥フレンズって」
確かにそうだけど、響きが良くないな。そうぼやいた僕ーーー“感謝祭”担当のサンクスの口元には、笑顔が溢れていて。
そんな僕を、サンタは心底嬉しそうに眺めていた。
「……なにさ」
「ううん、なんでもないよぉ?それよりも」
彼は、褒められた子供のような誇らしげな顔で言った。
「メリークリスマス!」
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クリスマスイブのよる、サンタさんはとってもいそがしそうです。
かれは、だいすきなこどもたちのえがおのためにがんばります。
かれは、ひとりのしんゆうのえがおのためにがんばります。
かれは、じぶんがまんぞくするためにがんばります。
そうしてかれは、きょうもがんばります。
くろうばかりしているしんゆうをえがおにするために、かれはサンタクロースでいつづけるのです。
めっちゃ遅くなってすみません。
感謝祭ってなんだこれしらんって方はWikipediaで検索。オールスター感謝祭ではありません。