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騒動の後、食事会
それからしばらく歩いていたアリフェ、ネリネ、トリカの3人とルーフはようやくハレストに戻ってくることができた。なんだか様子がおかしい。一度解散してからアリフェとネリネは宿に戻り着替え、トリカは騎士団の本部に戻った。3人はまた集まってから町の中心部に向かうとそこにはガヤガヤと人だかりができていた。
「何かあったんですか?」
と近くにいた人にアリフェは尋ねた。
「あぁ、なんだかさっきハレスト騎士団からこんな通達があってな」
と指を指す方向には掲示板があった。そこには一枚の貼り紙が。そこには
『ハレスト騎士団副団長 バラーニ解任
先程、国立騎士団委員会によりハレスト騎士団副団長 バラーニを解任する事が決定した。理由は以下の通りである。
・高等複合魔術による国内における謀反
・虚偽申告 以下余罪多数。
本日バラーニ本人が消息を絶ったため本日付けで解任及び追放とする。後任は来週の審議会にて決定する』
先程まで戦っていたバラーニに関する貼り紙だった。どうやら副団長を解任させられたらしい。消息を絶った事は事実とはいえいくらなんでも早すぎる。
「なにこれ、初めて見た。そんなことある?」
「わかりません。それにしても仕事速いですね。トリカさんの差し金ですか?」
「いや、なにもしていない。ホントに。怪しいからってそんな顔で見るな」
2人からの疑いの眼差しを向けられるトリカは気まずそうにしている。そこに助け船を出すかのように数メートル先から声がした。
「よぉトリカっち。丁度いいところに。探してたぜーってなんか疲れてね? 連れの2人も……ってネリネっちじゃん」
「おひさ~だね、ヘリク」
トリカの仲間らしき陽気な青年が話しかけてきた。トリカの姿に驚いている。ネリネとも面識があるようで、いるとは思わなかった人物に驚いていた。
「まぁいろいろあってだな。あれなんだ?」
トリカはヘリクに貼り紙の事を尋ねる。
「あー知ってるだろ?副団長の噂。あれって8割位本当だったって話だ。誰かさんが向こうに掛け合って調査したらポロポロ証拠がでてきたとか」
「そうだったのか。で?オレに何の用だ?」
「飯食いに行かね?って思ったんだけどネリネっちといるし。お友達?のそこのお嬢さんも一緒に、どうだ?」
「さんせーい!いろいろあって疲れたんだよね。ご飯行こ!」
突然ながら食事に行くことになった。向かう先はどうやらハレスト騎士団行きつけの店らしい。困惑しながらもアリフェは3人に着いていくのに精一杯だった。
「えーと、私がいても大丈夫なのでしょうか。あとルーフも」
ルーフはワフッとひと鳴きすると尻尾をブンブン振った。きっと『ご飯』に反応したのだろう。期待の眼差しでアリフェを見ている。
「大丈夫だろ多分。あそこの店主イヌ好きだからな」
目的地は大きな食堂だった。夜になりつつある時間帯だからか人が多く大賑わいのようだ。各自メニューから自分の好きなものを頼み、外にあるテーブル席に座ることにした。
「自己紹介がまだだったよね。俺はヘリク・レーモン。トリカっちと同じく魔法騎士隊所属。そうそう、お嬢さんって森の中でヴィザードウルフと全力疾走してたでしょ。けっこう騒ぎになってたよー」
「そうだったんですか! 私はアリフェ・モカメリア、魔術師をしてます。で、隣で大人しく尻尾を振っているのがルーフです」
ルーフは尻尾をブンブン振っている。ヘリクのことは嫌いではないらしく触られても何も言わなかった。
「ヘリクってこんなやつだからか話の輪の中に溶け込んじゃう。噂話とかそんなのをすぐ集めてくるから騎士隊での|情報収集家《リサーチャー》なんだよね」
「ネリネっちそれ褒めてんの?」
「うん。褒めてる、褒めてる」
と談笑をしていると出来上がった料理たちが運び込まれ並び始めた。ルーフには店主のご厚意により湯がいた肉と温野菜が与えられた。待ってましたと言わんばかりに食い付いている。
それぞれ食事を終え、お茶菓子をつまみながらお茶を飲んでいる時だった。
「オレ、騎士隊辞めようと思うんだ」
トリカによる衝撃の告白だった。ネリネは椅子を吹き飛ばさんとする勢いで立ち上がり、アリフェは驚いて動きを止めトリカを見ている。
「前々から知ってた。それで話聞こうと思って食事誘ったし」
「そうか。怪我をしてからなぜか何をしても魔術が使えなくなってな。この前、近衛騎士の方にお声がけを貰っちゃいたが辞退したんだ」
魔法騎士隊には魔術が使えることが大前提。しかし近衛騎士ともなれば仮に魔術が使えなくとも相当な実力者でなければ選出されない。
「そうなんですか?」
「何そこでしんみりしてんのよアンタたち!アタシ聞いてないわよ。一体いつから!」
「オマエには言ってないからな。いつからって結構最近だったし。警護より魔物狩ってる方が性に合うんだよ」
「トリカ、アンタ副隊長でしょ。後任とかどうすんのよ。今騎士団ドタバタしてんじゃないの?」
「来週審議会があるだろ? その時に申し出るつもりだ」
ネリネとトリカが言い争いに発展しかけているところにアリフェが口を挟んだ。
「でしたらその後、一緒に来ませんか?私たち旅をしてるんです」
「……考えておかないこともない。これでこの話は終わりだ。あまり遅くなるといけない。ここで解散にしよう」
賑やかだった食事会は不穏な空気を残して幕を下ろした。
ヘリク・レーモン
ハレスト騎士団 魔法騎士小隊所属
陽気な性格と巧みな話術で魔物の目撃情報から噂話までなんでも聞き出す|情報収集家《リサーチャー》。