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1・夢
アントロ
アントロです。アルファポリスに投稿予定の物を書いていきます。
「梨花...駄目な親でごめんねぇ...?」
「お母さんっ! お母さぁん!」
畳の部屋の布団には、私の母親が横たわっていた。
私の妹が、母の手を握って泣きじゃくる。
「ユイー、|梨花《お姉ちゃん》の言う事聞くのよ?」
「お母さん! 嫌だ! 行かないでよおお」
少し後ろで体育座りしている私を、霞んだ瞳で見つめる母。
今更、何のつもりだろう。
「梨花...ごめんね...ごめんね」
「ユイにも...酷い事したね...ごめんね」
数年前は茶髪に染めていた髪も、傷んで、黒くて、弱々しい。
母はそうやってずっと、私達に謝罪の言葉を連ねた。
そして、何も話さなくなった。
「おがあざぁぁぁぁん! 嫌あああ」
母は、3年ほど前に病気を患い、寝たきりになった。
最初こそショックで何も話さなかった母だが、駄目な母を必死に介護する私達を見て、著しく欠落していた謝罪の心を持ち、謝るようになった。
どんどん母は衰弱していった。
そして今日、午前11時、他界した。
高校で授業を受けていた。急に先生から家に帰れと言われ、帰ってくると介護の為高校を休んだ妹が大泣きしていた。
悲しみは無かった。
母は、出来のいい妹に勉強を押し付けた。出来の悪い私には、虐待を繰り返した。
私達が成長するに連れて、母はホストに狂った。
金をつぎ込んだ。
私の高校の費用はほとんど払わなかった。
深夜までバイトをして、何とか高校にしがみついていた私に向かって、みすぼらしいと何度も投げかけた。
食事は、母と妹の2人の分だけだった。
高校の費用も、妹だけに与えた。
愛情も、妹だけだった。
その愛情も、ただ勉強をさせて自分に満足感を与える為だったのだろうけど。
幼少期も、夫婦喧嘩ばっかりで、姉妹2人で怯えて暮らす日々だった。
やっと離婚したと思えば、妹の優遇が始まって。
散々だった。
何もしていなかった母親。
自己中心的で、自分しか愛せない欠陥品。
そんなものに人生の最後に謝られても、何も感じないだろう。
母に張り付いて泣き続ける妹に、駆け付けた高校の先生が寄りそう。
「駄目な母親だったけど...私にとっては大切な母で...!」
「そうよね。辛いわよね...」
涙を拭う妹。
《《流石は演劇部だ》》。
そう。
妹は全く悲しんでいない。
全て演技だ。多分大人達に同情を買って今後の学校生活を楽な物にしたのだろう。
妹は出来がいい。
その後、妹、ユイは『今日は家族だけでいたいんです...』と一言言って、駆け付けた大人達を帰らせた。
この場にいるのは私達姉妹と、母の死体。
ユイは口を開いた。
「はぁ~...だるっ」
「お疲れ様」
「でもこれでやっと解放されるよ~」
ショートヘアをクルクルと手で弄びながらため息をつくユイ。
「...ユイは」
「ん?」
「ユイはこれから何したい?」
母という束縛がなくなり、好きに生きる事が出来る今、私の妹は何を思うのか少し気になった。
「...芸能界に入りたいな」
「芸能?」
「そう! お母さん顔は良かったからさ、その遺伝子受け継いだ私ならいけるでしょ!」
「まぁ、ユイは可愛いし愛想もあるもんね」
得意げにユイは笑う。
「芸能の大学に行きたいから...勉強頑張らないと。お母さんの言うままに勉強してきて良かったかもね~。あ、お姉ちゃんは? 何かある?」
「私...」
愛想は妹ほどはないが、根暗な私にも何度か告白してくる男がいた程度には顔立ちはいいと思う。
根暗で希望も何もなかった私の、唯一の救いは、動画や配信だった。
いつだって希望をくれた。
私の好きな配信者はまだ無名で、コメントもたくさん拾ってくれた。
欲を言えば、
なりたい者は、
「配信者...」
「配信者か~いいねっ!」
「...ほんと?」
「うん! 私お姉ちゃんには嘘つかないでしょ」
「...そっか」
ジャージ姿の根暗陰キャでも、変われるのかな。
学力だってない、出来損ないでも。
身よりのない、独りぼっちでも。
努力を、してみようかな?