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第3話:嫉妬のオーラは核兵器級
翌朝、学校の廊下は異様な熱気に包まれていた。
「聞いたか? 大塚のやつ、週末にガチの警察官に囲まれたらしいぜ……」
「やっぱりあいつ、本職のスカウト受けてるんじゃねーの?」
尾ひれが十枚くらいついた噂が飛び交う中、当の大雅は、地獄の番人のような顔で窓の外を睨んでいた。
(……職質された時の俺、情けなかったな。琥珀の前で警察に怯えるなんて……)
本人は反省会をしているだけなのだが、その深く沈んだオーラが、クラスメイトたちを震え上がらせていた。
「おい、大雅」
親友の晴翔が、いつもの調子で肩を叩く。
「お前の『職質デビュー』、もう全校生徒が知ってるぞ。おかげで廊下の渋滞が解消されて助かるわ」
「……黙れ、晴翔。俺はただ、市民の義務を果たしただけだ」
そこへ、少し困ったような顔で琥珀がやってきた。
「大雅くん、おはよ……うわ、今日一段とオーラが黒いよ?」
「琥珀……」
大雅の目が一瞬で潤む(サングラスで見えないが)。「ごめんな、昨日あんな目に遭わせて」と言いたいのだが、口から出たのは別の言葉だった。
「……さっき、あっちの廊下で他クラスの奴とお喋りしていただろ」
「えっ? ああ、隣のクラスの田中くんに、昨日の職質の真相を聞かれちゃって」
その瞬間、教室の空気がパキィィィィンと凍りついた。
大雅の背後から、黒い炎のような嫉妬心が立ち上る。
「……田中。……田中だと? どこのどいつだ、そいつは」
「えっ、大雅くん? 顔が、顔が怖いよ!」
「琥珀。……俺以外の男と、何秒話した。……なぜ笑った。……そいつ、そんなに面白いのか。……俺より、そいつの方がいいのか……っ!」
大雅の脳内では、すでに「田中」という見知らぬ男子が琥珀にプロポーズしている映像まで妄想が飛躍していた。
彼は嫉妬すると、無意識に殺気を放ちながらジリジリと距離を詰めるという、最高にタチの悪い癖がある。
「ヒィィッ! 大塚がキレたぞ! 誰か警察呼んで――あ、警察呼んだらまた職質になっちゃう!」
逃げ惑うクラスメイトたち。大雅は完全に「若頭モード」に入り、琥珀を壁際に追い詰めようとする。
「俺だけを……。俺だけを見ていればいいんだ、琥珀……」
低い、地の底を這うような独占欲の塊。
「…………。」
琥珀は一つ、大きくため息をついた。
そして、騒がしい教室の中で、凛とした、けれどどこか温かい声を響かせる。
「たぁ〜い〜がぁ〜。」
ドォォォォォン。
大雅の脳内に、衝撃が走る。
「……ッ!」
一瞬で殺気が消えた。大雅はまるで電池が切れたロボットのように動きを止め、その場に棒立ちになる。
「また嫉妬して暴走してる。田中くんはただのクラス委員だし、私は大雅くんが一番かっこいいって言ったでしょ?」
「……っ。……は、言った。……確かに、昨日言われた」
「じゃあ、嫉妬禁止。わかった?」
「……はい」
173cmの「若頭」が、155cmの彼女の前で借りてきた猫のように大人しくなる。
その光景を見ていた晴翔が、お腹を抱えて笑い出した。
「ハハハ! 記録更新だな! 今日は3秒で鎮圧かよ。お前、マジで琥珀ちゃんがいなかったら今頃独房だぞ」
「うるさい、晴翔! ……琥珀、さっきの『一番かっこいい』、もう一回言ってくれ」
「えっ、今!? 恥ずかしいよ……」
真っ赤になって照れる琥珀と、それをサングラス越しに必死で凝視する大雅。
恐怖の噂が広まる一方で、二人の世界だけは相変わらず平和で、どこまでも初々しい甘さに満ちていた。
🔚