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永久にー。2
僕たちの絆。
それから少しするとまた競技会の日が迫ってきた。
「今年はスランにけがをさせないようにしよう」
と思い、スランを馬運車に乗せた。スランはキョロキョロしていたが少しすると落ち着いてきた。私は荷物置き場に行ってお茶を飲んだ。すると
「おはよう!鈴ちゃん!」
後ろのほうで声がしたので振り向くと、私の友達の菜々ちゃんがいた。私は
「おはよう!菜々ちゃん!」
と返した。菜々ちゃんは私の初めての友達だ。つい先月、同じ競技会に出場すると聞き清宮先生の横木レッスンを受けたのだ。菜々ちゃんは1つ上の学年で中3。モラネンシスという自馬に乗っている。「今日は頑張ろうね」
と言って笑い合う。私は菜々ちゃんと喋る時はとても幸せだった。競技が始まる直前まで私は菜々ちゃんと喋っていた。もうすぐスランの馬装をしようと思い、スランのもとへ行くとスランはいつものようには寄ってこなかった。私はどうして?と思いながらドアを開けて鞍を付け始めた。しかし、スランはじっとしてくれないし腹帯を締めようとすると、嚙みついていたりする。私はなぜスランがこんなことになっているのか理由を考えた。最近スランにニンジンをあげていないから、スランに会う時間が減っているから、スランに毎日会っていないからー。私は心当たりが多すぎる…。と思った。スランは私が
「スランごめんね…。」
と言って顔をこすりつけるとわずかにほほ笑んだ気がした。私はスランと会う時間が少なくなり、菜々ちゃんとばかり話しているからスランは悲しんでしまったのだ。私は自分の行いを反省しスランと顔を合わせた。そうしている間に、
「鈴!時間だよ!」
という清宮先生の一言で私は目が覚めた。手早くスランの馬装をする。鞍はあと腹帯だけだったからよかったけれど問題は頭絡だ。スランはハミがあまり好きじゃなくて、いつも頭を上げてしまう。私は一息ついてから頭絡に取り掛かった。するとースランは自分から頭を下げてすぐにハミをくわえてくれた。その時私は天空の方から声がして空を見上げた。
「鈴ちゃん!今回こそは僕も完走したいー。」
私はこの声はスランの声だと分かった。そうか、スランも去年のことを気にしてしっかり競技に参加したいと思ってるんだ、と思い手早く頭絡を付けた。そしてなんとか競技時間に間に合った。ーよかった。私はそう思いながらスランに体をこすりつけた。スランも目を閉じて私に顔を寄せてくる。やっぱり、スランといる時間もとても大切だな、と思った。私は以前より後ろに気をつけながらスランを運動させた。私の隣には真っ黒のモラネンシスと菜々ちゃんがいる。菜々ちゃんは私の2つ前の順番。私は38番。今は28番の選手が走行している。私はコースを確認しつつもスランを駈足させたりした。ーそしていよいよスランとの初競技会。私はスランに
「頑張ろう!」
と声をかけ馬場に入った。この前と同じ馬場なのにものすごく広く感じた。スランも少し興奮していたが私が首をさすってあげると落ち着いていつものスランになった。私は
「行くよ!」
と声をかけて礼をし、スランを駈足させた。1つ目の横木、スランはいつもどうり横木を跨いだ。続いて2つ目の横木は、視界から見えないところにあったけど私もスランも自然に体を横木のほうに向けた。そして、スランの間歩を合わせて横木を跨ぐ。全ての横木を跨ぎ終わり最後の直線、スランを駈足させる。この競技は横木競技で基準タイム。タイムは60秒。スランの駈足が早いと思った私はスランの歩度をつめて少し遅くした。そのまま最後までー。私とスランは初めての競技会を完走することが出来た。タイムは59.20。ベストタイムだった。私は夢だと思った。しかし、コースを走った感覚があった。私はスランをたくさん褒めて頭絡を外し鞍を外し、スランに
「ありがとう」
と囁いた。競技がすべて終わり私はー2位。わずか0.01秒の差で。でも、私は結果よりスランと心が通じ合えたことが何よりも嬉しかった。私はメダルをもらい、スランと写真を撮った。スランの目がいつもより輝き眩しかった。
私はいつもの乗馬クラブに戻り、スランを手入れしてから部屋に入れた。するとスランの部屋の隣に、ヴェロネーゼという馬が入っていた。ヴェロネーゼは、尾花栗毛の馬で清宮先生の自馬と書いてあった。ものすごくキリッとしていて立派な馬だな、と思った。ヴェロネーゼはルビー色の目をしている。私は目がルビー色の馬が本当にいるんだな、と思って驚きに満ち溢れていた。それからスランを見るとやっぱり美しい目だな、と思った。真反対の馬を比べてみるのが楽しくて、私はスランとヴェロネーゼの部屋の真ん中で1時間、立ち尽くしていた。次の日、私はスランを休ませるためにレッスンは無しにしてスランを綺麗に手入れしてあげる。すると
「鈴ちゃんおめでと~!」
と言って菜々ちゃんが走ってきた。
「ありがとう」
私はそう答えて
「また後でゆっくり話そうね」
と言ってスランを手入れする。菜々ちゃんもモラネンシスを手入れし始めていた。互いに微笑み合うと私はスランのシャンプーに取り掛かった。体はもちろん鬣や尻尾も洗って、次に蹄を洗う。スランの蹄真っ白で雪のように白いので、手入れするとき私はその蹄がもっと白くなっていくのが好きだった。蹄を洗い終えると乾いた場所へ連れて行って体を拭いたり肢を拭いたりして、最後にブラシをかける。スランは雪のおように鈴蘭のように水晶のように白く、まばゆい輝きを放っていた。私は最後に
「スラン、ありがとう」
と伝えてからスランを部屋に戻した。それから、私は1頭1頭にニンジンをあげていった。ハミルトニーの部屋の華が1番手前の部屋なので1番奥の部屋のスランから行くと最後は華。私は華のことも愛していたからじっくりと華を見たり、アメシストの目が綺麗でスミレのような透き通る目がいつも綺麗だな、と思った。しかし今日は華の目がスランがけがをした時のように曇っていた。
「—。」
私は頭では動かないといけないと思っているのに体が動かない。数分してから私は手をぎゅっと握りしめて華の厩舎に入った。私はスランの時と同じように
「華、どこが苦しい?」
と問いかけるようにして華に近づいた。華は私に助けを求めるように足を引きずりながらこちらに寄ってきた。私は
「華…」
と言いながら泣きそうになった。私は左後肢を引きずっている華を優しくさすってあげてから、左後肢が熱くなっているのですぐに冷たいタオルを持ってきて冷やし前足もひょこひょこと痛そうだったので見てみるとー。私はその時、自分で見ても何もわからなかった。私は清宮先生を呼んで見てもらうとー。数分後、華も私も先生も涙を流していた。ー華は骨折してしまった。私は棒のように立ち尽くしていた。これは夢だと思った。しかし、現実は乗り越えられない。私は手をぎゅっと握りしめ、華のオーナー様に現状を知らせた。華のオーナー様は乗馬クラブから家が近いのですぐに駆けつけてきた。
「ー華…」
オーナー様も信じられないような真っ青な顔をして、気が付くと涙を流していた。華はもしかしたら悲しい運命をたどることになるかもしれない。しかし、私もできるだけ華のケアを続けて様子を見るようにしようと思った。治る可能性は100%ではないけど0%なわけでもないからきっとー。華のアメシストが光り続けるように。私はそう願いながら華に
「さよなら、華。」
と言ってもう一度スランに会ってから、夕暮れが綺麗な空を見ながら明日への1歩を踏み出した。
次の日、レッスンはないのでスランをブラシするために厩舎へ向かった。今日は、いつもの景色とは―違う景色だった。1番手前の厩舎には藤の花がたくさん飾られていた。私はその意味は分かったけどただ立ち尽くすしかなかった。ー何もできない自分が悔しくて悲しくて。気が付くと暖かくほんわりとした水が頬をつたって、藤の花にぽつりと落ちた。すると地面から紫色の雲が立ち上り、私の周りを包み込んだ。そしてその雲がおさまると、私は1つの手紙を握りしめていた。私は手紙を広げてみてみるとそれは華からの手紙だった。
―鈴ちゃん、お兄ちゃんを大事にしてくれてありがとう。私も鈴ちゃんに会えてよかった。だってお兄ちゃんが―って言ってたから。私、鈴ちゃんのこと大好きだったよ。一緒にいてくれてありがとう。 華
私は読み終えると涙をこぼして、温かい水の粒が手紙を包み込むと手紙はハラハラと消えて、華の目の色と全く同じアメシストがころりと手のひらで揺れてきらりと光った。私はアメシストをよく見て顔を近づけると、アメシストからうっすらと華の心の声が聞こえるような気がした。私はアメシストをぎゅっと握ってから、柔らかい布に包んで大切にポケットにしまった。華はハミルトニーにそっくりだった。だから華の言うお兄ちゃんはハミルトニーということが分かった。ハミルトニーと華を失った私は毎日、華のアメシストを握ってから1日の1歩を進むようにしていた。私はハミルトニーと華にたくさんのことを教えてもらった。この恩を忘れず、ハミルトニーたちのことを思いながら1日がかけがえなく終われたら、アメシストに向かって「ありがとう」と言うようにしていた。
華がいなくなってから1週間、私はハミルトニーや華と同じ思いをさせないようにスランの手入れは時間をかけて丁寧に行った。私が数々の悲しみを見てきたから、自分の馬も乗馬クラブの馬もほかの人の馬もすべて毎日見て回り、元気がないときは担当の先生にした。100%私の行いではないけど毎日見回っていると次第に、元気がない馬はほぼ0になっていた。
永久にー。を読んでいただき、ありがとうございます!