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するがホラー
「クラス会?」
「そう!るがーも参加するよね?」
朝のホームルーム前、ではなく昼休みに日傘が
話しかけてきた。最近は扇くんと喋りながら登校しているせいか、予鈴ギリギリに着席していた
からだ。日傘は、最近遅いけど大丈夫?なんて
心配していたけれど、なんだか申し訳なくなる。
本当はただ喋って遅くなっているだけだから。
クラス会に話を戻すとしよう。日傘が意気揚々と話した内容によると、深夜の学校で肝試しをする
らしい。深夜と言っても日没後だが。とにかく
暗い学校を歩き回るものらしい。確か何名かが
驚かしたりするんだとか。私の想像するクラス会って、焼肉とかカラオケとかでわいわいするものなんだが…。私の認識が間違っていたの
だろうか?
「いえ、その認識は間違っていないと思います。僕も駿河先輩から聞いた内容にちょっとびっくりしちゃいましたもん。クラス会で肝試しって」
下校時、何故か平然と横で走っている扇くんに
クラス会について話す。やはり扇くんも疑問に
思っていたらしい。
「しかし阿良々木先輩や戦場ヶ原先輩は、確か
クラス会か何かで肝試しをしていたよな…。
そうなると一概におかしいとは言えないのか」
「というかその肝試しって一人で歩き回るんですよね?駿河先輩大丈夫ですか?本当のおばけが、うらめしやーって出てきちゃったら」
扇くんはおどけた風に言う。流石にこれは馬鹿に
しないでほしい。そもそも沼地と対戦した時
だって、立派な心霊現象の一つだし、その前にも散々怪異は見てきたというのに。私自身、腕に
怪異を宿していた時だって長かった。
「いえいえ、駿河先輩が怪異に接触しまくって
いる事とは関係無く。純粋に、そういうびっくりしちゃうの、耐えれないんじゃないですか?」
あぁ、まぁ確かに。何名かが驚かしにくる、
なんて少し前に扇くんにも話した内容だ。記憶がちょっと飛んでいる気がする、大丈夫かな。
「怪異と人は違いますし。暗い中だと聴覚にも
結構影響します。余計に音を聞こうとしちゃうんですよ。僕が駿河先輩を驚かすなら、普通に背後からおっきな音立てます。それでびっくり
しちゃう人ですから。あなたは」
ふざけんな。普通にディスっているだろ、今の
発言。取り消せよ、今の言葉。
「返事はやなこった、です」
ほんとこいつなめ腐ってやがる。
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「ほんとに暗いなぁ…」
現在私はクラス会というなの肝試しに参加して
いる。暗く明かりがない学校という背景が、暗さとマッチしていてとても雰囲気が出ている。
渡された一本の懐中電灯で前を照らしながら
コースを歩く。私が歩いているコースは最長距離を歩くコースだ。(ちなみにコースの途中に張り紙があるのでそれを回収しなければならない。途中で別コースに移行しない為のルールだそうだ)
「るがーならこのくらいいけるでしょ!」
と日傘が勝手に決定した。まぁ別に長さが変わっただけだからあまり怖くもなかろう、と私も特に言わなかったのだが。
「……思ったより…怖いなこれ」
扇くんが言っていた通り、無駄に音を聞こうと
してしまう。水道から水が滴り落ちる音。私自身が立てる足音。衣擦れの音。全てが耳に入って、
私の精神を蝕んでいるような気がする。この際
はっきり言おう。怖い。はちゃめちゃに怖い。
扇くんには結構虚栄心で見栄を張っていた
けれど、怖い。先程2回、驚かし要員が出てきたが、ちょっとビクッとしたし。あともう一回
あったか、なかったか…ひー、怖い怖い。さっさと張り紙を回収しようと、教室のドアに手を
かけた時。ふと気がついた。
「………ここ教室とかあったっけ…?」
最悪だ、ほんとの心霊現象にぶち当たって
しまった。今一番気付きたくなかった。入らずに次のところへ行こうかな…いやでももしかしたら私が覚えてなかっただけでここには教室があって中に張り紙があるかもしれない…。
意を決して手を横に引く。そこには普通の教室が広がっていた。どちらかと言うと空き教室の
ような感じだったけれど。ほっとして中に入り、
後ろ手でドアを閉じる。懐中電灯をぐるぐると
回して辺りを照らす。特におかしなものは
無さそうだ。教室の後方で積み木のように
積まれた机の山以外は。なんだあれ。異質過ぎるだろう。この教室自体もなんだか妙な雰囲気で
息が詰まる感覚なのに、あんな物もあるとか
どうなってるんだここ。
「取り敢えずここに張り紙は無いし出るか……」
無駄足だったな、と思いながらドアに近づく。
あと二歩でドアに手が届く、というぐらいの
タイミングで、ドアが動いた。私以外にもここに来た人がいるのか?いや、いるわけがない。
一コースに二人一緒、なんてならないように
一コース一人までになっていたはずだ。それなら今開けようとしている人は誰だ?まずい、本当の本当に心霊現象に遭ったのかもしれない。
だらだらと冷や汗が背筋を伝う。後ろ側のドアは机の山に塞がれていて出られない。袋の中の鼠
状態だ。どう打破すべきか考えているうちにドアが音をたてて開く。
くっ、最早ここまでかっ…!無念
「何がくっ、無念…!ですか」
呆れた声でそう言うのは、なんと扇くんだった。
いつもよりも暗いせいか視認しづらかったが、
間違いない。下手なホラーより緊張した気が
する。先程まで流れていた冷や汗が気持ち悪い。
扇くんは普通に教室に入って教卓に座る。行儀
悪いといいたいけれど、その前に驚きを隠せないままでいた。
「なんでここにいるんですか……いや驚かないでくださいよ、僕の方が吃驚してますからね?」
「…扇くん、なんでここに居るんだよ?」
緊張と恐怖が一気に消えて、純粋に質問をする。
このとっくに下校時間を過ぎている時間帯にいていいのは、クラス会参加者と保護監督の為にいる先生だけなはずだ。扇くんはいていい筈がない。
「そんねお堅いこと言わないで下さいよ。僕
だって、駿河先輩を驚かしてから寝ようと歩き
回ってたんですよ?いないなー、あれれ、もう
帰ったかなーなんて思いながら歩いてたら何故か
この教室にいるし。本当、なんでこの場所に
いるんですか。僕が今この学校にいていい存在
じゃないなら、駿河先輩は今この教室にいていい存在じゃないんです。弁えてくださいよ?自分の立ち位置を」
「はい……?」
「大体あなたは軽率過ぎます。見知らぬ教室が
あるな、入ってみよう。とはならないでしょ。
普通なら、え、怖、入らずスルーしよ。って
なります。神原するーがになって下さいよ」
神原するーがってまた懐かしいものを……
「とにかく、今日は僕もう駿河先輩にちょっかいかける気も、煽る気も無いですから。明日また
遊んであげますから、ほら行った行った」
と半ば強引にも教室から追い出された。
結局扇くんが何故いたのかについてはさっぱり
わからなかったが、まぁそれは後で。
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「るがーおっつかれ〜!随分早かったじゃん、
まさか走ったんじゃないよね?」
日傘がふふと笑いながら聞いてくる。
走った。めちゃめちゃ走った。もう自分でも
びっくりするぐらいに。廊下を駆けて、階段を
ジャンプした。言い訳をしよう。教室から追い
出された後、制限時間があった事に気がついた。
やばい、間に合わないかもしれないなんて思って走り抜けたら普通に余裕でゴールしていたのが
オチだ。ヤマも無いけど。
「走ったか走ってないかはともかくとして。
るがー、この後二次会あるけど行く?」
同窓会並みのスケジュールだな、なんて思い
ながら日傘の質問に答える。
「いや、今日は遠慮しておく」
「え?どうして?るがーは、行く行く!ぜひ
行かせてくれ!って言いそうなものなのに」
日傘の中の私のイメージがひどい。そんな
行きたいと思われてたのか?私。イベントに参加しまくるタイプだと思われてるのかな…。しかもなんだ二次会に行きたいと言いまくるって。
酒飲みじゃあるまいし私そこまで言わないよ?
「んー、まぁちょっと用事があるんだよ」
「ふーん?あ、まさか"これ"ですかな?」
日傘が手でハートマークをつくる。そこは、小指立てるものじゃないのか?普通に可愛らしいだけだろそれは。
「違うから。私にまず出来ると思うか?」
「そう言われたらそうだね、るがーに出来るとは思えないもん!じゃあ用事があるだけかぁ。幹事に言っておくねー」
日傘は手で作ったハートをぱきっと割って、手を振りながら幹事(らしき人)の元へ去って行った。日傘はさらっとああやって鉄のナイフで刺して
くるから油断ならない。月火ちゃんよりかは
可愛げがあるからまだマシか。
携帯を取り出して、メールを送信する。
誰にって、聞いてしまうとお仕舞いだろう。
リドルストーリーなのだ。正答を用意しない。
「ほほう手抜きですか、駿河先輩。語り手としては落第ですよ?」
なんて扇くんは言いそうなものだが。本編の
阿良々木先輩だってそうだったのだから許して
ほしい。この話にオチなんてないし、ヤマなんてもっとないんだから。