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もしもし母さん
「あ、もしもし。オレだけどさ」
知らない番号。知らない声。女性はだれかしらと、首を傾げながら話を続けた。
「なんでしょう」
「あのさ、母さん。ちょっと事故っちゃって」
「翔くん?」
「…うん」
「もう、心配したのよ、本当に。ずっとどこで何してたのアンタ。アンタがいない間母さんがどれだけ…」
男は電話先の女の声が震えていることに気がついて戸惑った。
「あぁ、ごめん」
「ごめんじゃないでしょ。はよ家帰ってきなさい。何年経ったと思ってるの。4年よ、バカじゃないの」
「…ごめん」
女性は涙を拭いながら震える手でスマホを握り締める。怒りなのか安堵なのかは分からない。
「なに、事故?まあなんでもいいけどね。振り込んだるから、番号教えなさい」
男は番号を教え、しっかり振り込まれているのを見て薄く微笑んだ。ありがとうと言って電話を切れば完璧だと、心の中で繰り返す。しかし、言いかけた時に女は遮るように話し始めた。
「とにかく、アンタ詐欺なんて辞めなさいね。母ってのはね、ほんとに貴方達の事を宝物だと思ってるのよ。」
そんなわけがない、と男は言いかけた。男の母はギャンブルやらタバコやらそんなものに大金を注ぎ込んで男の面倒など見た試しがなかった。そんな母だったからか、自分は愛されないんだと、そう心から思っていた。そんな家を出ても、現実は厳しいもので、就活は上手くいかず、路頭に迷い道を踏み外した。何が正しいのか教えてくれる人なんていない。自分を気にかけてくれる人なんかいない。
男は、焼けた畳の上にポタっと音がした事で初めて泣いていることに気がついた。
「…すみません、お金、無くて。どうしても。ごめんなさい。」
女性は暫くの間無言だった。男には、鼻を啜る音だけ聞こえていた。
「アンタ素直でいい人なのね。いいのよ。困ってるなら使いなさい。久しぶりに息子と話せたみたいで嬉しかったの。私の息子にもこうしてあげれたら変わってたかも」
女性は棚に飾ってある写真の額縁を優しく撫でた。そこには、まだ少し若い頃の女性と幸せそうに肩を組んで笑う少年が写っていた。