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#1 わたしは特別
「おはよ、アヤ!」
「おはよう、ミホ」
そう元気に挨拶してきてくれたのは、|佐野彩花《さのあやか》。周りからは、「アヤ」「アヤカ」と呼ばれている。
今日はちゃんと遅刻せずにいけた。
セピア色のセーラー服とスカートは、この学校に行きたいと思った理由のひとつ。白いリボンも相まって、なかなかおしゃれ。夏服でも冬服でも可愛いのは、かなりポイントが高い。
それにしても、暑い。髪がじっとり蒸れているのがわかる。
ハンディファン、持ってくればよかった。
なら。
わたしは、
(登校直前、家の前にもどれ!)
と念じて、両手に力を入れた。
するとちょっと意識が遠のき__
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「いってらっしゃい」
そうお母さんが言ってくる。
「あ、ちょっと待って。扇風機!」
そう言って、玄関のハンディファンを手に取る。そして、また歩き直す。
「おはよ、アヤ!」
「おはよう、ミホ」
わたしは特別な人間だ。
両手に力を込めて、戻りたい、やり直したいときを念じれば、自然に行ける。
そんなのを使って、わたしは無双していた。
いい成績をとった。
喧嘩直前に戻って、何度も何度もやり直した。
そんなわたしは、校内カースト1位。
そんなのも相まって、わたしは特別な人間だとつくづく思う。
そう言って、わたしとアヤは教室に着いた。
「あ、ミホ、おはよー」
レナがそう言ってくる。
ちなみに彼女の本名は|小野玲奈《おのれいな》。いちいち伸ばすのが面倒なので、みんな「レナ」と言っている。
「うん、おはよ!あ、そうだ、アンの件…」
|竹崎杏梨《たけさきあんり》。
最近、なぜか学校に来ていない。もうそろそろ夏休みだし、このまま会えないまま、夏休みに突入しちゃうのかな。
「そうだよね…家近いミホだって会ってないんでしょ?」
アンとは家が近い。それはわたしと家が近い、アヤも同じ。
「アヤカにも聞いてみた?」
「ううん」
首を横に振る。
アヤにも聞いてみたけど、「会ってない」の一点張り。
インターホンを鳴らして、「1年3組、|飯田美浦《いいだみほ》です」って言っても、お母さんに
「ごめんね、」
と言われて帰らされてしまう。
やり直したけど、結果は同じ。
「うわ、最悪!次、ヤマじゃん!」
と、暗い雰囲気をなんとか打ち破ろうと、レナが大げさに言う。
ヤマ、とは国語の|山崎《やまさき》先生のことだ。あたりがキツくて嫌われている。
「うわー、マジかー」
「ま、黙っとけばいいって♪」
そう言って、わたしは席についた。