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EP5 ビックバードのオムライス 〜赤ワイン仕立て〜
キャラクターのメニュー表です
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白い霧と黒い雲で包まれた午後の日。
金髪で紅い瞳を持つ女性は、働いているワイナリーで普段と同じように赤ワインの栓を開けた。
ワインのコルクが軽やかな音を立てて弾ける。それとほとんど同時に後ろから声がかけられた。
「お前はクビだ。」
瓶の口からアルコールの蒸気と共にふわりとフルーティーな香りが立ち昇る。胸が焼けるような不快感、ドクドクと流れる血流の音。
唐突に放たれたその重たい言葉は、彼女を酔わせたかのように目眩を起こさせた。
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降り頻る雨は天井からコルクが打ち出されているかのように、凄まじい威力で彼女に打ち付けてきた。あの店で働いていた時に大量に開けたワインの栓の亡霊のようだった。
立ちこめた霧は黒々とした闇を生み出し、彼女の姿を誰の目からも隠してしまうかのようだ。
彼女は冷たい水のたまった道に、膝から崩れ落ちる。
地面についたズボンは暗いシミを作り出し、彼女の心を蝕むように徐々に広がっていった。
「はぁ...いつかはそうなるって、わかってたけどさぁ。でも...早すぎるよ...」
長い金髪は水を吸い上げてだんだんと頭を引っ張っていく。額が水溜りに浸かりかけたその時だった。
「如何しましたか?」
見上げるとそこにいたのは、傘も差さずに土砂降りの中を歩く、|可笑《おか》しな男だった。
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我に帰った時には、見知らぬレストランの中にいた。
右手にはよく磨かれた銀色のスプーンを握っている。そしてその上には黄色くてふんわりとしたものが乗っかっていた。
寒さからか、緊張からか、微かに震えるスプーンを彼女は目線の高さまで掲げた。
アルコールの香りのしない蒸気を見るのは何日ぶりだろう。あの子達はお腹を空かせていないだろうか。これからどうやって生きていこうか。取り留めの無いことをぐるぐると考える。
再び顔が曇っていく。
「お食べにならないのですか?ご安心ください、こちらは当店のサービスとなっております。」
謎の男のその言葉を聞いて、ふと我に帰る。そしてスプーンの上に乗った黄色い輝きから、どこか懐かしい香りがしていることにやっと気がついた。
思い切って口に運ぶ。
「...!」
彼女は久々の温かい食事に思わずその紅い瞳を揺らした。
再びスプーンを黄色いふんわりとした卵の表面に差し込み切り開くと、白い湯気がブワッと立ち昇る。中から現れたケチャップライスは甘い香りを放ち、艶々としたライスの粒がシャンデリアの光を受けてきらりと輝いた。
彼女は脇目も振らずに、一心にその黄色い料理をかきこんだ。
「良い食べっぷりですね。」
男はにこやかに見守っていた。
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「あの、本当にありがとうございますっ!あなたは命の恩人です!!」
女性、腰ほどの金髪に赤いリボンカチューシャをつけて優しげな紅い瞳をしている、は頭がぶっ飛びそうなほどの勢いで頭を下げて感謝する。それを見た男、このレストランのオーナーであるジョン・リドゥルが彼女に向かって事情を尋ねる。
「あの、私はクレア・ホワイトと言います!実は...働いていたワイナリーで解雇されてしまいまして...とはいっても毎日真面目にやっていましたよ?たまーにワインボトルを落として割っちゃったり、たまーにお客様にワインをぶちまけたりすることはありましたが...」
「なるほど、それはさぞかし心苦しかったことでしょう。...ちなみにおいくつでしょうか?」
ジョンの問いにクレアは胸を張って堂々と答えた。
「17歳です!」
ジョンの眉は微かにピクリと動く。そしてこう言った。
「貴方、未成年でございますか。お酒も飲めないのにワインソムリエをなさっていたとは...解雇されるのも納得という物ですよ。」
「え?17歳って成人じゃないの?お酒飲めるんじゃないの?」
クレアは拍子抜けしたように目をぱちくりと瞬かせた。
おそらく業務の中ですでに飲んだりしているのだろう。
「ふむ...未成年のワインソムリエ、ですか。当店は丁度ワインソムリエがおりませんので、近いうちに探そうかと思っていたのです。ちょうどいいですね。」
ジョンが小さく呟きながら考え込むと、クレアは大きな声で必死に訴えた。
「どうか恩返しをさせてください!どうかどうか!」
ジョンは不気味なほどに微笑むと、とある契約書を差し出した。
「ではこちらにサインしていただけますでしょうか?」
「...!はいっ喜んで!」
クレアは恩返しのこと以外は何も考えずに、サラサラと契約書にサインしてしまった。
「はい、ありがとうございます。」
ジョンは笑みを崩さず、契約書を小さく縮めてポケットに仕舞い込んだ。
クレアは満面の笑みを浮かべる。
「これからよろしくお願い...」
その時だった。
「オイオイオィィィ、ダメに決まってんだろーがァァ!?」
厨房の方から赤髪黒マスクの従業員とクリーム髪濁り目の従業員が小走りでやってきた。
何やら焦っている様子だ。
「あのさァ未成年だと分かった上でワインソムリエやらせるとか、頭イカれてんのか!?」
「あ...あの、流石に良くないと、思うのですが...」
赤髪の店長カレシスプと新入りコックのルータにそう詰められたジョンは、多少驚いた顔をしてこう答えた。
「ご心配ありがとうございます。しかし既にサインをいただいてしまったのでどうにもなりません。」
「はぁ!?」
ジョンはポケットにしまった契約書を取り出して開き、二人に向かって広げてみせる。
そこにはつらつらとワインソムリエに関する雇用内容が書いていて、その最後にこのような文言が続いていた。
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【被雇用者が未成年の場合】
被雇用者が未成年の場合は、業務中に年齢の前借りを行うことによ
り、酒類の提供や飲酒することが認められます。
業務中のみ年齢の前借りを行うことを許可しますか ✔︎ 許可します
※この契約は契約者双方の合意がないと解除することはできません。
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「年齢の前借りなんて、魔法でチョチョイのチョイですよ。」
「...はぁ?」
「...ご都合主義、ですね。」
カレシスプとルータが呆れていると、ジョンはニコリと微笑み、再び契約書を大事そうにポケットにしまった。
「それではお二人とも、クレアさんに業務の説明をよろしくお願いいたします。」
そうしてスタコラと歩いていき、レストランの最奥部にある自分の部屋に閉じこもってしまった。
カレシスプは頭を抱えて、ピカピカに磨かれた机の上に突っ伏した。
ルータはクレアを見て苦笑いを浮かべた。
クレアはやる気満々な様子で、気合の入った腕まくりをしていた。
そして元気な声を店内に響かせた。
「これからよろしくお願いしますっ!」
<キャラ原案>
クレア・ホワイト(ワインソムリエ)_酒の肴さん
ありがとうございました!