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警備少女
ハイリスクレッド
闘強少女道璃夢 10
Home Security Girl
☆
丹波篠山の山並みを薄いピンクの雲のように映えさせる千六百年の歴史ある寺の境内の満開の桜の木々。
風はない、風はないのに花びらが舞う。
突きの気魄を吐く、ハッ。
打ちの気魄を吐く、ハッ。
蹴りの気魄を吐く、ハッ。
気魄の功に花びらが舞う。
受け流す、往なす、捌く、交わすの体捌き、足捌きの一挙手一投足の気魄の功に花びらが舞う。
気魄の功が花びらの舞いに合わせているのか、花びらの舞いが気魄の功に合わせているのか。
どちらともいえない。
動から静へと気を納め立たづむ少女を桜の花びらが取り巻いて真っ白な武術着を薄いピンクに映している。
16世紀、1532年天文元年に創始されたと云い伝えられる総合武術タケノウチ流柔術の陰となり直系血族伝承として伝えられた Traditional Martial arts。
龍水流柔術拳法(りゅうすいりゅうじゅうじゅつけんぽう)今、485年の陰より明け放たれる、21世紀、平成を終え、令和の現代へ。
龍水流柔術拳法とは、打撃、投げ、極めを流水の如く柔軟に受け流す、往なす、捌く、交わされると同時に攻勢を行う。
その攻勢は龍の逆鱗に触れた如くの衝撃を受けるという総合活殺体術で、ヤマト国古流柔術に大陸より琉球王国へ伝わった拳法を、流祖・水部 龍彦(すいぶ りゅうげん)により融合し編み出されたTraditional Martial artsである。
姓は、水部、名は、梨七(りな)年齢は17歳(高校二年生)物心ついた時より龍水流柔術拳法の直系血族七代目伝承者として鍛錬を課せられて育った。
鍛錬の場は板張りの道場のみでなくぬかるむ田の中、不揃いな石の河原、切り立つ岩場、森林深い山中でも真の実戦を追究し、生命を掛けて行なわれる。
梨七は丹波篠山の山間部で産まれ中学三年生まで育った。
そして、高校進学を機に神戸の山の手の青い屋根、白い壁、緑の芝生の御屋敷に下宿し暮らし始め、神戸の女子高へ通い始めて1年間が過ぎている。
神戸の山の手の青い屋根、白い壁、緑の芝生の御屋敷は母方の伯父の奥様の弟の御屋敷である。
そしてこの御屋敷での梨七の最重要任務は番犬ならぬ番・美少女である。
Home Security Girlとして御屋敷を Guardする事である。
☆
「ん…?」邪心者の気配。
真夏の熱帯夜に梨七は、ハッと目を覚ました。
ベッドの脇に置いてあるスマートフォンに手を伸ばし時刻を確かめた。
『 2 : 5 5 』の数字が見えた。
こんな時間に御屋敷にやって来るとは、やはり邪心者に間違いないと、梨七はベッドからスルリと滑り降りると私室の出窓の下へ行き片膝を立て出窓のガラス越しに庭を覗いた。
その時、御屋敷の囲みを乗り越えて侵入する黒ずくめの衣服に黒塗りの仮面を付けた三つの影を見とめた。
梨七は片膝を立てままベッドの脇の衣装箱に手を伸ばし静かに蓋を開け中味を取り出した。
まるでクマの着ぐるみの様なパジャマをスルリと脱ぎ捨て衣装箱から取り出した衣装を手早く身に着けた。
157センチの背丈に、72センチのバストを☑️マークのpink colorのラッシュガードブラで包み、82センチのヒップを包んだスポーツショーツ、の上に真夏にふさわしいショートのジーンズパンツを履き、ウエスト、57センチの身体に取り出した pink colorのベルトを締めた。
pink colorの☆マークのハイカットスニーカー履くと両手の拳にpink colorのオープンフィンガーグローブを装着した。
オープンフィンガーグローブを装着するのは自分の拳を守るだけでなく突きや打ちを受けた相手に致命傷を与えない為でもある。
邪心者三人は建物の裏手に回ろうと庭を横切っている。
梨七は、その動きから目を離さいないようにしながら窓を開け放ち私室の外へ御屋敷の庭へ飛び降りた。
pink colorのハイカットスニーカーは音も立てず着地する。
ちなみに梨七の私室は御屋敷の二階である。
人の気配に気付いた邪心者三人は足を止め振り向いた。そこには庭の芝生に自然体で立ち尽くす少女の姿があった。
月の光も無いのに白く輝く肌に、pink colorのラッシュガードブラ、stone wash のショートなジーンズパンツの姿が浮かび見え pink colorのベルトが煌めいている。
長い黒髪を後ろでひとつに束ねポニーテール、両手の拳にpink colorのオープンフィンガーグローブを装着したアメリカンコミックのヒーローの様な少女の姿であった。
邪心者三人は驚愕の表情で少女を見つめた。
梨七は邪心者三人に向かい「どなたですか、ご用件を承りますが」と声を発した。
邪心者三人は梨七の自然体の姿と柔らかな物言いに呆気に取られたが、直ぐに我に返ったように、にゃにゃと顔を歪めて喋り始めた。
「やれやれ防犯装置も番犬もいないと思ったら、小娘がお出ましかよ」
「で、お譲ちゃん頭悪いのか」
「こちとら遊んでんじゃないんだケガするぜ」
その言葉を聞き流しながら梨七は漆黒の瞳で邪心者三人を気魄を込めて睨みつけ言葉を出した。
「生憎ですが、御屋敷にお入り頂くことも、この場からお帰り頂く事も出来ません」
邪心者三人の一人が一歩前に出て「っうか、何様だよお譲ちゃんは?」と問う。
「私はこの御屋敷のホームセキュリティガールです」と梨七は言い放った。
邪心者三人は不可解、理解不能の表情をしたが直ぐに思い直したように梨七を取り囲んだ。
しかし、梨七は相変わらずの自然体のままで三人を見回した。
邪心者三人は体型と声から男性とわかっていたが梨七は怯みはしていなかった。
敢えてわかりやすく表せば、丸い体、小さな体、細い体、デブ男チビ男ガリ男の三人組である。
ガリ男が一歩前に出ると、ボクシング風の構えをし微妙に身体を揺らしながら梨七の顔へ向け、左のジャブを出し、右のストレートを伸ばしてきた。
梨七は左足を僅かに左斜め後ろへずらすと左のジャブを見切り、右のストレートに自分の右腕を軽く添え往なすと同時に腰の捻りを効かせた左拳の下突をガリ男の右脇腹の第十二肋骨へ突き刺す。
もし、オープンフィンガーグローブ無しの拳なら完全に骨折し折れた骨は内臓に刺さっていたかもしれない。
さらに梨七は軽く添えていた自分の右手でガリ男の右手首を掴み身体をかがめて背負投の如く投げつけ庭の芝生に脳天から叩きつけた。
ガリ男はそのまま失神した。
叩きつけられた場所がコンクリートや岩場なら脳天はかち割れ命はなかっただろう。
投げを決め身体をかがめた態勢の梨七にデブ男が両手を振りかざして背後から襲い掛かってきた。
梨七は素早く振り向くと右肘を立てデブ男の懐へ飛び込み鳩尾へ肘を突き込んだ、デブ男は己の勢いと体重が仇となり必要以上のダメージを受けその場に無防備に立ち尽くす。
梨七はそのままの態勢から左腕を大きく振り子のように振り左の裏拳を股間へ撃ちつける。
グニャリとした感触と同時にデブ男は泡を吹き、そのまま後ろへ倒れ失神した。
オープンフィンガーグローブ無しの拳ならデブ男の股間にある物は完全に潰れていたであろう。
チビ男は息を呑み失神した仲間二人を見ながら
「くっそ、小娘、容赦はしねぇぜ」
と呟くと腰のベルトに取り付けてあったサックからサバイバルナイフを取り出し右手に握り自分の身体の前に構えた。
梨七は静かに立ち上がり、スッーとひと息吸うと右足をチビ男へ向け一足擦り出し右手刀を僅かに前に出し身構えた。
チビ男は構えたサバイバルナイフを小刻みに突き出しながら梨七との間合いを詰めてくると、思いっ切りっといった感じでサバイバルナイフを大きく突き出した。
梨七は右足を支点にし左足を右へ躱し自分の体を半身にする。
チビ男は目標を失いたたらを踏みながら梨七の脇を通りす抜ける。
同じ動作を二度三度と繰り返すが梨七を捉えられない。
チビ男は開き直ったのか途端にサバイバルナイフをやたらめったらに振り回し始めた。
しかし、梨七はなんの危機感も感じ無いまま冷めた視線でその動作を眺めていた。
ふっと、我に返ったチビ男はサバイバルナイフを大きく振り上げ一旦静止するとそのまま袈裟がけに梨七に切りかかってくる。
梨七はやや大きめにバックステップし軌道を躱す。
チビ男は空振りとなったサバイバルナイフを持つ右腕を燕返しの様に振り戻した。
梨七は素早く元の位置に戻ると、振り戻されたチビ男の右腕の肘を自分の左掌底で受け止めた。
チビ男の動きが一瞬止まる。
刹那、梨七は自分の右手でチビ男の右手首を掴み左手を添え、右足を軸にそのまま大きく自分の身体の左側へ振る捻る左足を後ろへ引く、小手返しが決まる。
チビ男の身体は軽々と宙を舞い一回転し顔面から芝生へ叩きつけられた、同時にゴリッという鈍い音がし右腕の肩関節が外れた。
通常ならば激痛で絶叫するところだが顔面から芝生に叩きつけられた衝撃で既に失神していたチビ男の絶叫は聞こえなかった。
失神した邪心者三人、デブ男、チビ男、ガリ男を梨七が一箇所に引き摺り集めた時、御屋敷の門の前に制服姿の警察官が二人、汗を拭き拭き駆けつけてきた。
梨七が束ねていたポニーテールの長い黒髪を解くと真夏の熱帯夜とは思えない爽やかな一陣の風がフワリと吹き抜けた。
名は、梨七(りな)、歳は、17歳(高校二年生)、11月1日生まれ、乙女座、B型。
龍水流柔術拳法直系血族の伝承者。
皆様の御屋敷にも彼女の様なホームセキュリティガールをいかがでしょうか。
終。