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Lの娘達
ハイリスクレッド
ショート・ショートストーリー✍ 17
Rehearsal
☆
「よし、行くよ」
小さく、それでも聞き取れる様に呟く。
視線を合わせあい頷く。
黒いワンボックスカーのスライドドアをスッー、と静かに開け駆け出す。
西日本の都会でも田舎でもない○○県○○市の○○銀行○○支店
○○月○○日
14時50分
地元大手企業と公務員賞与支給日前日。
黒い靴、ゆったりめのズボン、ゆったりめのジャンパー、手袋に覆面、全てが黒尽くめの4つの人影が○○銀行○○支店の店内に順に飛び込んだ。
先頭の1人目・Mars が手にしていた爆竹に火を着け宙に投げ、破裂させる。
突然の爆竹の破裂音にその場にいた人々の動きが止まる。
「ミンナ、ウゴクナ、テヲアゲロ。ホールドアップ!」
右手に持つ黒光りするピストルを掲げ Mars が大声をあげる。
2人目・Mercury が右手に持つ黒光りするピストルを突き付けながら来店客達を制圧する。
3番目・Jupiter と
4番目・Venus が従業員エリアへと飛び込み黒光りするピストルを突き付け従業員達を制圧する。
Venus は右手に黒光りするピストル、左手に黒く大きなボストンバッグを持っている。
黒く大きなボストンバッグを一度床に置くと、手近にいた女子従業員の一人に黒光りするピストルを突き付け肩を掴み引き寄せ声を出す。
「入口のシャッターを降ろすんだ」
低く押し潰し凄みを効かせた声で命令する。
Jupiter が支店長を始めとする他の従業員達を立ち上がらせ壁際へ立たせ並べる。
店内入口のシャッターが降りた事を確認し、黒く大きなボストンバッグを拾い女子従業員を連れ Venus が金庫室へと入って行く。
「金を入れろ、札だけでいい」
女子従業員に命令する。
女子従業員は、オロオロとしながら黒く大きなボストンバッグに札束を詰めていく。
100万円の束が10束に帯封された固まりを、1つ、2つ、と詰めていき10個の固まりが黒く大きなボストンバッグへと詰め込まれる。
それを確認し、Venus は黒く大きなボストンバッグを肩に掛けると女子従業員を連れ金庫室から出る。
入れ替わりに、Jupiter が支店長を始めとする従業員全員達を金庫室へ入る様に命令する。
男性従業員のひとりが渋りあがらうが黒光りするピストルのグリップでこめかみを殴りつけられ金庫室へ投げ込まれた。
続けて Mercuryが、来店客者達を金庫室へ誘導する。
従業員達と来店客者達を金庫室内へ押し入れると Mercury は金庫室の扉を閉じはめる。
それに気づいた支店長は慌てて声を出した。
「や、止めてくれ、窒息してしまう」
Mercury は無言のまま首を左右に振り、完全に扉を閉じた。
完全に閉じられた金庫室の扉がロックされた事を知らせるランプが緑色から赤色に変わる。
そのまま Mercury は裏口通用口へと向かう様に仲間に合図する。
Mars、Jupiter、Venus、女子従業員、Mercuryの順に裏口通用口に立つ。
女子従業員に裏口通用口の扉のセィフティロックを解除させる。
扉を開けMars、Jupiter、Venus が屋外へ出る。
Mercury が女子従業員の耳元で囁く。
「30秒だ」
そう言うと、ポン、と女子従業員の肩を軽く叩き屋外へ出た。
女子従業員はその場に膝から崩れ座り込んでしまった。
4人は駆け出し、ワンボックスカーへ素早く乗り込む。
運転席には、黒い無地のベースボールキャップに黒いサングラスを掛けた5人目・Kronos が座っている。
運転席に座る Kronos へ Mars が声を掛ける。
「いつも通り、安全運転で頼む」
「了解」
と、答える声に合わせワンボックスカーが静かに発進する。
☆
裏口通用口に座り込んでいた女子従業員が我に返りフラリと立ち上がり歩き出す。
金庫室の前に立ち扉を見つめる。
「30秒だ」の言い残された言葉が頭の中に蘇る。
扉の中央には大きなハンドルが有り、その右側と左側に暗証番号を打ち込むテンキーが有る。
左右それぞれのテンキーの上に赤く光っているランプがついている。
女子従業員は自分に向って右側のテンキーへ右手を伸ばし人差し指で触れようとする。
しかし、指先が震え狙いが定まらない。
力無く右手をだらりと下げ大きく一度深呼吸をする。
言い残された言葉、30秒。
それは、30秒を過ぎてしまえば中にいる人間は窒息死する、ということだ。
女子従業員も金庫内外での作業注意事項として教育を受けており承知している。
再び、右手を伸ばし人差し指をテンキーに向ける。
指先は、まだ震えている。
女子従業員は震える自分の右手首を左手で握り支えた。
それでようやく指先はテンキーに触れた。
4桁の暗証番号を打ち込む。
ピッ、という音と供にランプが緑色に変わる。
続けて向って左側のテンキーに向けて右手を伸ばし人差し指で触れていく。
ピッ、という音と供にランプが緑色に変わる。
中央の大きなハンドルを両手で少しだけ力を入れ時計回りに動かす。
プッ、シュッ、という空気音がして扉がゆっくりと開き始める。
金庫室の中にいた従業員達と来店客者達が新し空気を求める様に忙しない呼吸音をさせながら出てくる。
最後に支店長が現われ自席へ向ってフラフラと歩いてゆく。
力無く椅子へ腰を下ろし呻く様に支店長は声を出した。
「くっそ、やられた」
両手で頭を抱え、うつむき、顔を上げられないでいる。
そんな支店長へ男性従業員のひとりがそろりそろりと近づき遠慮がちに声を掛けた。
「あの、支店長、通報ボタンは押しますか?」
その言葉に、ハッ、と支店長が顔を上げる。
「しまった、今更遅い」
支店長の頭が激しく左右に振られる。
「しかし、このままと言うわけには」
まだ遠慮がちに言う男性従業員を睨みつけながら支店長は自席の電話の受話器を掴み上げ本店への短縮番号を押した。
☆
Kronos の運転するワンボックスカーは主要道路をさけ区画道路を躊躇なく進んでゆく。
抜け道、脇道を苦もなく進んでゆき閑静な住宅街へと入り込みワンボックスカーを止める。
Kronos は素早く運転席から車外へ出ると前へ後ろへと素早く動き、素早く乗り込んできた。
手にしていた物を助手席へ投げる。
それは、偽装ナンバープレートだった。
黒いベースボールキャップから濃紺のベースボールキャップへと変える。
有名なMBLチームのロゴマーク付きである。
黒いサングラスもロイド型の眼鏡に変わっている。
ワンボックスカーがまた静かに走りだす。
脇道、抜け道を走り、コンビニの有る道さえも通らない。
15分くらいが経ちワンボックスカーが静かに停められる。
その場所は○○県○○市の最大の JR駅の裏側にあたり、通称、駅西口から数百メートルの場所だった。
「ここまでだ」
Kronos はワンボックスカーを止めると後ろへ振り向き声を出した。
4人の人影が頷きながらスライドドアを開け車外へと出る。
4人の人影はそれぞれ好みのブランド服姿である。
そのブランド服にTPOされたバックを、大きく膨れたバックを手にしている。
4人の人影はそれぞれに片手を上げ笑顔で互いに合図すると思い思いの方向へ歩き出した。
4人の人影を見送った Kronos はその場所から程近いレンタカー店へワンボックスカーを返しに向かった。
☆
翌日。
○○銀行本店、大会議室に各支店の支店長が揃い正面の壇上に向かい静かに座っている。
正面の壇上の向って右側には○○県警本部の幹部達が難しい顔で座っている。
正面の壇上の向って左側には○○銀行の幹部、取締役達が困惑顔で座っている。
正面の壇上には、○○銀行最高取締役が立っている。
最高取締役は県警本部幹部達に向って一礼して支店長達に向き直りおもむろに声を出す。
「もぅ皆さんご承知と思うが、昨日、ある○○支店が強盗団に襲撃され、現金を強奪されました」
もちろん、皮肉を込めた内容の言葉である。
ある○○支店の支店長が顔を伏せ奥歯を噛み締めている。
「しかし、ある意味、現金強奪よりも重大な問題が生じました」
ある○○支店の支店長は固く目を閉じている。
「皆さんも承知のように、仮に現金が強奪されても保険で補えます」
ある○○支店の支店長の身体が小刻みに震え始める。
「防犯マニュアルにある措置はおろか、警察への通報、警備会社の警報も行われる事無く強盗団は逃走し、手掛かりも無く、まことにお粗末至極です」
ある○○支店の支店長の固く閉じていた目から涙が溢れ出している。
最高取締役は自分の足元から黒く大きなボストンバッグを掴み上げ、ジッパーを開ける。
100万円が10束に帯封された固まりを取り出し始める。
1つ、2つ、と取り出さし10個の固まりを並び終える。
「以上が今回の、防犯訓練の結果でありました」
そう言い切って最高取締役は言葉を終えた。
続いて人事部より、今回の抜き打ち防犯訓練に対応出来なかった怠慢、失態から該当○○支店の支店長は降格され、一般従業員として、へき地勤務を言い渡れた。
☆
宙組(Team・COSMOS)と名付けたメンバー達。
Mars・火美子(ひみこ)
Mercury・水美(みなみ)
Jupiter・木の美(このみ)
Venus・金美(かなみ)
Kronos・美土里(みどり)
Arsene 女子学院大学
犯罪ストーリー探究サークル
犯罪を題材にした小説、映画、ドラマ等をディスカッションし合う。
犯罪を題材にしたオリジナルストーリーを創りだし、それを実践、実行し結果検証する。
☆
5人の女子達は視線を見合わせ、ニャリと dark に微笑みあった。
『Rehearsal 通りにね。次は、本番、実行よ!』
終り。