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Prologue_この舞台が崩れるまで
冬の寒さが、風と過ぎ去る頃だった。
その年の人類は、冬の別れと春の訪れを喜べるほどの状況ではない。
少なくとも、この日本はそうだった──。
「これじゃ世界が崩壊した、というより世界が自殺しただけじゃん」
「だから言ったでしょ、世界は壊れてないって」
「……いやほぼ死んでるようなものでしょ、砂の城より脆いって」
「あら、砂の城だって城らしい装飾を維持できるくらいの強度はあるのよ?」
「砂の城ガチ勢?」
「親から教わっただけよ」
「…その親、生きてそう?」
「思い出の中で生きてるけれど」
「何確定?」
「遺言書があるわ、家族全員で海にドライブですって」
「死体探しに行く?埋葬のためにもさ」
「…行きましょうか、後でね。今は足を動かしなさい」
「エレベーターが使えないから屋上まで階段とか罰ゲームだって〜!!」
元日本首都、中心部。
ビルは倒れ、電車は脱線し、爆発の痕や血がこびりついている。
そして中央には、異様な存在感を放つ『星』が、たしかにあった。
世界が壊れかけた証明のようなその地で、少女がふたり、倒れなかったビルの上に立っていた。
「世界、死に損なったね〜」
西暦20XX年。
日本においては残寒に震える人々に、唐突かつ理不尽な宣告が下った。
『人類は滅亡します』
そう言われた後の科学的証明は、少女ふたりのどちらも覚えていないという。
ただ少なくとも、世界にトドメを刺したのが外来的な何かではなく、人類自身であった。
お金を使い切る、なんて考えならまだ生ぬるい。
盗み、殺し、事故、爆発、自殺、カルト宗教の誕生に、乱れる人々。
無秩序。そんな言葉が優しく思えた。
そうやって迎えた世界の終わり。
結論から言えば、この世界は終わらなかった。
愚かな人類が勝手に死ぬと思い込んでいただけで。
何処までも空虚で、何処までも自分勝手で。
とっくに終わった世界で、自殺した世界で。
彼女らは謳う、この世界の終末を。
彼女らは嘆く、この世界の行く先を。
愚かでなかった人々が、人類が残した代価を支払うなんて。
人は何処までも人であると、神様が言った気がした。
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2025/11/15 設定の齟齬を改定。