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カフェ・グラデーションの騒がしい客人
道枝駿佑が店員として働くそのカフェに、大吾が通い始めて三日が経った。
カウンターの端、いつもの特等席でカフェオレを|啜っている《すすっている》と、背後から聞き覚えのある、いや、聞きたくないほど大きな声が響いた。
「おーおー、やってるなぁ大吾! 鼻の下伸びすぎて床についてんで!」
「丈くん、声デカいって! ……あ、プリンありますかぁ!?」
振り返らなくてもわかる。**藤原丈一郎**と**大橋和也**だ。
最悪のタイミングで、地元の腐れ縁コンビが登場してしまった。
「……なんでここおんねん」
大吾が眉をひそめて小声で毒づくが、二人はお構いなしに隣の席を陣取った。
「ええやんか、大吾が『運命(サダメ)に出会った』とか言うから見に来たんやで?」
丈一郎がニヤニヤしながら、メニューを広げる。
「これってもしかして、恋ってやつかな? ってか、アイツやろ? あのイケメン店員さん」
「ちょ、丈くん! シーッ!」
慌てて口を塞ごうとする大吾だったが、時すでに遅し。
カウンターの奥から、道枝が不思議そうな顔をしてやってきた。
「いらっしゃいませ。……あ、西畑さんのお友達ですか?」
道枝がニコッと微笑んだ瞬間、大橋が「うわぁ、本物や! 眩しすぎる!」と目を細めて拝み始めた。
「僕、大橋和也です! プリンと、あとこの子(大吾)に一番甘い飲み物ください!」
「はっすん、余計なこと言わんといて!」
顔を真っ赤にする大吾を横目に、丈一郎が追い打ちをかける。
「道枝くんやったっけ? こいつ、家でもずっと道枝くんの話ばっかりしてんねんで。『初心(うぶ)な僕のこと笑わないで』って顔してさぁ」
「丈くん! もう帰れや!」
大吾が叫ぶと、道枝は一瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐにクスクスと肩を揺らして笑い出した。
「……嬉しいです。僕のこと、そんなに話してくれてたんですね」
道枝は大吾の目をまっすぐ見つめると、少しだけ身を乗り出して、二人だけに聞こえる声で囁いた。
「……ねえ、僕も。西畑さんが来るの、ずっと待ってたんですよ」
「「……ヒュ〜〜〜!!!」」
丈一郎と大橋の野次が店内に響き渡る。
「磁石みたいに惹きつけられとるやないか!」とはやし立てる二人を無視して、大吾は熱くなった顔を両手で覆った。
カフェオレのグラデーションが混ざり合うように、二人の距離が、丈橋の手によって強制的に、でも確実に縮まっていく。
「……明日も、絶対一人で来るからな」
大吾の小さな決意に、道枝はこれまでで一番、楽しそうに笑っていた。