公開中
〖夏の救世主〗
ユーザーページの方に全シリーズのキャラクター外見集を貼っておきました。
〖地獄労働ショッピング〗のキャラクターのネタバレ等を含みます。
癖のまま、書いた通りのものを再現したつもりですが、わりとイメージと違う!があるかもしれません。その時は、ご愛敬ということで。
ルーレットにて出す順位を軽く決めましたが、すぐにお出しすると面白くないのでタイトルから推測できるような感じにしています。
語り手:柳田善
午前3時に電話が鳴り、聞こえるのはマネージャーの罵声。
そして、吠えるマネージャー、吠える消費者、吠える従業員。
慣れてしまえば日常茶飯事。社畜になる日は近い...のかもしれない。
●柳田善
26歳、男性。バイトリーダー兼店長。
店の請求書等は全て彼に責任が来る。
お金は払うことはないが、その代わりマネージャーの叱咤が彼を待っている。
彼女はいない。彼氏はいない。労基も来ない。
---
「柳田君さぁ...なに、この紙?」
夕陽の射し込むオフィスの中、上原慶一が椅子に腰を下ろし足を組む姿が目の前にありました。
「...今日の、請求書です...」
柳田が恐る恐るそう言うと、上原慶一はため息をつき頬に手を当て、口を開きます。
「今日、ねぇ...君さ、多額の請求書、払ったことないよね」
「えっ、ええ、まぁ...」
「...一回、払ってみる?」
「.........」
「これ多分、空知君だよね?報告書に蜂の巣状になったら棚とか、倉庫の段ボールとか...。
そこらで4、50万はするんだよね。酷い話だよねぇ、自分で壊したのに責任問われないんだから。
...で、責任はぜ~んぶ、柳田君になるわけだけど...」
「...............」
「どうする?払ってあげようか?」
「......そう、ですね」
「...何が?」
あ~あ、こいつマジで嫌いだ。
柳田が上原から少し目をそらして、低い声を絞り出しお願いをしました。
「...今回、も払っていただけると、助かります...」
「うん、そうだね。《《今回も》》だ」
...マネージャー変わったりしないかなぁ...。
そんなこと思っても、変わりませんよ。柳田善さん。
---
「暑ーーーーーいっ!!!!!!!」
クーラーの効かない従業員専用通路で空知が叫ぶ。アヒルの着ぐるみは、当然着ていません。
え?崩壊した建物はどうなったかって?さぁ、治ったんじゃないですか?
はたまた、数日前経って治った的な...え、なんですか、コメディ小説ですよ?
その叫びに文句を言うように一護が応答します。
「うるっさ...んなこと言わないで下さいよ、皆暑いんですから」
「はぁ!?なに、一護君!暑くないの!」
「《《皆》》暑いって言いましたけど?」
「あらやだ、言ってたの?」
「言ってました!」
大声で抗議する一護を無視して、空知は従業員共有の冷蔵庫を探る。
そして、何かを見つけたのか、
「お...良い物、発見~!...一護君、一護君、これな~んだ?」
「は?...アイス、ですね。それ従業員分あるんですか?」
「あるよ。善さ...柳田さんが買ってきてくれた」
そう言って、赤いパッケージに黄金色の高級っぽいフォントのアイス(あれですね、パ◯ムです)を手渡す。そして、次々に休憩時間中の従業員がアイスに釣られて、わらわらと集まってきます。決して、空知がモテているわけではありません。皆、空知ではなくアイスを求めているのです。
一護はひとまず、そこを離れ比較的涼しいところへ足を進め、腰を下ろしました。
そして、全員に配り終わったのか空知も傍へ。
「...なんです、わざわざ...」
「良いじゃん?仲が良いってのは幸だよ」
「そうかもしれませんけど、あんまり近いと余計暑くないですか?」
「あ~...確かに、そうかもしれないね。ま、たまには良いでしょ」
「......そうですかね」
アイスをもう食べ終わったのか、棒を口から抜き空知が口を開く。
「大人数でさ、海...行きたくない?」
「業務放棄して?」
「いや、休みだって」
「嫌です」
「えぇ...?」
「だって、貴重な休日を平日みたいな人らと集まって過ごすんですよ?」
「あぁ...なるほどね」
アイスの棒を口で咥えて手を後ろで組むように寝転ぶ空知。一護も食べ終えたのか、いつの間にか傍で座っていた。それを確認して、瞳を閉じた。
開かれた窓から心地の良い風が通る。木々は葉を青々と染め、風に踊らされるようにして大きく揺れる。勤務中じゃなければ最高だった。そんなことを思っていると、不意に声がかけられた。
「なにしてるの?君ら、休憩中とはいえ勤務中でもあるんだよ?」
瞼を開けば、そこに柳田の顔があった。一護はどうなのかと横を見れば、ほんの数分で小さく寝息を立てたようだった。
「どうも、柳田さん。どうでした?上原マネージャーの話」
空知がそう聞いて、体を起こし柳田に腰を下ろすよう促す。
柳田はそれに応えるようにそのまま腰を下ろしました。
「散々だよ。翔が壊した棚とか色々な備品の請求について、しつこいぐらい責任に問われたよ」
「へぇ、大変ですねぇ......」
「君のせいでも、あるんだけどね?」
「やだなぁ、柳田さんもパワハラですか?困っちゃうなぁ」
「あのマネージャーよりは良いでしょ」
その言葉に「そうかも」と言葉を洩らして一護の肩に手をやり、優しく起こそうとする空知を見ながら柳田は遠くを見た。
何故か、銀髪の腰までの長髪をハーフアップにし、長年の間、紫外線を浴びていないのかと思うほど白い肌をした白のロングドレスを着こなしビーチサンダルを履いた女性が店内へ入るのが見えた。
この時の柳田は、ただ何の能力もない消費者の一人が来店しただけだと思ったことを、後に後悔する。
---
時刻は正午ぴったり。お腹が空いてくる頃ですね。私は正午と聞くと焼酎が思い浮かびます。
理屈が分からないですか、そうですか。私にも分かりません。
さて、場面は移り変わります。まるで春から夏に変わるように。
人がせわしなく動く店内に例の女性がひたひたと歩く。足跡には水が滴り、口から、腹から、膝から、足先から伝って床へついたことが口元から分かります。
おもむろにその女性は“日村”とネーム札の華奢でどこかの令嬢を彷彿とされる惣菜担当を睨むと、その女性へ話しかけた。
「ねぇ、あなた」
その声かけに女性が顔をあげる。そして、声をかけられた女性の横を水が掠めた。
「.........」
双方、静寂が流れる。先に静寂を破ったのは水を飛ばした女性のようで、次に
「なんで避けたのよ!避けて良い気にならないで!!」
それなりに、理不尽な文句を垂れた。
そして、深く息を吸い込み、口から洪水とも言える量の水を放出した。
---
ジリリリリと警報音が鳴る。反射的に、
「うるせぇ!緊急だってのは分かってんだよ!」
「空知先輩!手を動かして下さい!」
警報音に空知と一護の会話が被る。ある一室にいる二人の膝下は水があり、それが部屋全体に満たされていました。
その水を必死で掻き出すように掃除用道具入れにあったバケツで人が通れない小さな窓へ水を捨てる二人のみのリレーをしますが、もちろん密室では意味がありません。扉の隙間から水が入ってきています。
ちなみにですが、水が扉から入って来ると言うことは、水で施設全域が満たされているので扉は水の圧力によって開きません。詰みです。
「詰みです、じゃないわ!お前、今ここで僕らを殺す気か!」
空知翔 2xxx-2xxx 没。それなりに良い人でした。
「勝手に殺すな!ピンピンしてるわ!」
そう空知が叫んでいると、急に扉から斧の刃がにょっきりと生えてきました。いえ、正確には刺さっていました。そして、その刃が抜かれた時、柳田の顔がひょっこりはんしました。
某ホラー映画のワンシーンみたいに。分からない人に説明すると、シャ◯ニングです。シャイ◯ング。
「店長の登場~!」
「遊ばないで、そのまま斧で壊して下さい」
一護君はシャイニ◯グが分かるのでしょうか。有名な「ジョニーの登場」の台詞です。その台詞は男優のアドリブだった、なんて話があります。まぁ、それは良いとして、斧を大きく振りかぶって、ばこんと嫌な音がしたと思うと、扉の中に大きく人が通れるくらいの穴が開かれました。
これは柳田の株があがりますね、株があがったところで何もないですが。
危うく溺死するところだった二人が部屋の中の水と一緒に出ていく。そして、水に満たされた床に足をつけた。
「なんですか、これ?洪水ですか?」
「いや、警報が鳴ったから消費者だろうね。一面水浸しなんて、厄介だね」
「呑気ですね...商品は無事なんですか?」
「無事だと思う?」
「...いえ」
ご想像の通り、店内は水浸しですから全て水に浸っています。なんなら、銃器などの火器の武器はあんまり使えません。火薬が水に濡れて、上手く着火しなかったり、飛距離が縮んだりします。しかし、現代のリボルバー式は使えるようですね。作中のは昔ながらのリボルバーのものが多いので不可能ですけれど。
「それで、バイトリーダー。今回のは?」
「さぁ?」
「...さぁ?さぁってなんですか?」
「え?分かんないってこと。解析の人にもどっかの水道管が破裂したか、消費者だろうって」
「でも、さっき消費者だろうねって...」
「あくまで憶測だよ。広い店内が水浸しになる水なんて、水道管が一個や二個、破裂しただけでなると思う?」
「ない、ですね...そう考えると水関連の能力なんでしょうか」
「んー...答え合わせは片付けながらでも良いんじゃない?ほら、こんなに暑い夏だから...」
「海に行かずとも、水遊びができる!!」
それまで黙っていた空知が目を輝かせて、キラキラと発光しました。横にいた柳田がすぐさま、サングラスを取り出して装着します。
「...空知先輩、さっき死にかけたのを忘れたんですか?」
「あれはあれ!これはこれ!つまり...」
「働きながら、楽しもうってことだね」
「呑気ですね...」
和気あいあいとする先輩二人を横目に廊下の先を一護は見た。
びしょ濡れになった銀髪と金色の女性を見た。
そして、水面に揺れる全員の姿を見た。