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単独任務。3(終)
土埃が段々晴れていき、鬼と澪の姿が見えるようになってきた。
そして完全に晴れ、鬼と澪が見える。
─────形勢は、直前と真逆の状態になっていた。
澪は限界が来たのか、その場にドサッと座り込んでいる。
その顔は、下を向いていた。
肩は深く斬られ血が止まらなくなっており、空間を出る前に吹っ飛ばされた際に出来た傷痕に再度攻撃を食らってしまったのか、そこからも血が流れている。
幸い、腹付近に攻撃が無いのがいいことだろう。
対して、鬼は斬られた傷をゆっくり再生しながら澪に歩いて近づいて行っていた。
顔には青筋が浮かんでおり、相当怒りが限界に達しているのがわかった。
「可哀想ねぇ……ここまで来れたのに……ねぇ?」
ゆっくりと歩いて、澪の前に立ってからしゃがみ込む。
「貴女も他の子と同じ位、愚かな子……」
そう言って少し考え込んだ後、鬼は澪の頬を掴んで無理やり視線を合わせた。
……澪の表情は、正に絶望、以外表す言葉がないぐらい暗く沈んでいた。
その表情をゆっくり見ながら、鬼は口を開いた。
「あの方に鬼にしてもらいましょう!そうすれば貴女も私と共に一緒に過ごせるわ!どうかしら?」
目を輝かせながら澪を見る。
「……」
澪は何も言わずに、ただ鬼を見つめるだけだった。
「あら、何も言ってくれないの」
まぁいいわ、と言って澪から離れる。
そして澪から顔を背け少し考え始めた。
「__水の呼吸・壱ノ型……__」
「ねぇ、貴女…………」
"水面切り!!"
鬼が振り向いたと同時に、澪が立ち上がって鬼の首を斬り落とした。
鬼は、斬られたって気付かずに最初は目を見開いていた。
が、すぐさま自身が斬られたことに気づいて更に目を見開いていた。
「馬鹿が……てめぇは早く地獄に行け」
そう言って澪は恨みを込めた目で鬼のことを改めて見つめていた。
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「やっと死んでくれた……」
身体が怠い。
最初に来た時より遥かに身体が動かない、そして手足が軽く痺れているっていう感覚が襲ってくる。
多分、鬼に毒か何か盛られたんだろう。
そう考えることにした。
しんどくなって、その場に座り込む。
鬼は消えた。
これで任務は終わりだ。
「はぁぁぁ……」
ため息をついて、その場に座り込む。
多分村の中には気絶させられているだけの隊士や一般人も居るだろう。
隠が来る前にある程度探し出しておかないと……
でも如何せん身体があんまり動かない。
とりあえず鴉は飛ばしておこう……
「隠が近くにいると思う。だから呼んできて」
そういうと鴉は素直に隠がいるであろう方向に飛んで行った。
偉い子だ。
私も自分のやることをやらないと……
刀を杖代わりにして、何とか立ち上がる。
そして目を閉じ、人がいるかどうか気配を感じ取ろうと感覚を研ぎ澄ませた。
…………いるな、奥の方に。
「っ、いかないと……」
そう言ってゆっくりと歩き出した。
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「……、だいじょ、うぶで……すか……?」
倒れている隊士に拙い言葉で声をかける。
反応はない……けど、多分生きてはいると思うから家の中から引き摺りだす。
これで全員。
「……も、限界……」
流石にもうこれ以上は動けない。
殺傷能力はないが身体が痺れるとか倦怠感が出るとか、そういう簡単な方の毒であろうものが、多分もう体に行き渡りかけているんだろう。
早く隠の人達が来て欲しい。
早く。
そんなことを思っていると、遠くから少しだけ、本当に少しだけだけど人の気配がした。
多分、隠の人達だろう。
そう思うとふっと気が抜けてしまい、その場に倒れ込んだ。
何とか保っていた意識も一瞬途切れかける。
「……や、と……きてくれ……」
その言葉を最後に私も、限界だった意識を手放した。
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「ん、……あれ……」
ゆっくり目を開けると、そこはいつもお世話になっている蝶屋敷の天井だった。
そっか、私倒れて……
あの後ちゃんと、意識を失っていた人は助けて貰えたのだろうか。
一般人は居なかったことが幸いだったかもしれない、とか思いながらゆっくり身体を起こそうとする。
だけど身体に力が入らなくて、どう足掻いても立ち上がれない状況になっていた。
「……もしかしてまだ毒の効力残ってる……?」
まぁ、考えても仕方の無い事なのだろう。
ていうか、あの鬼に時間をかけすぎだな私は。
もっと負傷を少なくして動けたのではないか、そんな事ばかり考えてしまう。
よく周りからは治療のことだけを考えろ、とか言われるけど……
そんなことを考えていると、急に病室の扉がガラガラと開けられた。
「!?」
肩をビクッと跳ねさせて、誰が入ってくるだろうなんて思いながら見つめていると、しのぶさんが入ってくるのが見えた。
「しの、ぶさん……?」
私が声を上げると、目を覚ましていたことに気付いたらしく笑顔で歩いてきた。
「体調はどうですか?」
「えぇと、……身体に力が入りません……」
そういうと、少し考える風な姿を見せたあとにっこりと笑って
「澪さんは毒が回りやすい体質なので、解毒剤を打ってもまだ少し効力が残ってしまうんです。でも、それ以外は異常がないということなら大丈夫ですよ!一、二日休めば治っています!」
「……良かった……」
ほっと一息付いて、ゆっくりとするために身体から更に力を抜いて布団に潜り込んだ。
「すみません、毎回迷惑かけてしまって……」
ぽそっと呟くと、しのぶさんは少し私の頭を撫でたあと
「私は大丈夫ですよ。ですが〜……」
しのぶさんはちょっと後ろを向いて困ったような笑顔をしていた。
不思議に思ってちょっと身体を動かしてしのぶさんの横からチラッと見る。
「……え」
そこには少しだけ不機嫌そうな表情をした義勇さんが立っていた。
「冨岡さんがなんて言うかですかねぇ」
そう言ってふふっと笑う。
ちょっと待ってください笑い事じゃないです。
「えっちょっと、」
「では私は他の隊士達を見てきますので、後はお二人でゆっくりどうぞ〜」
しのぶさんはにっこり笑った後、病室を出ていってしまった。
病室に残ったのは、扉付近に寄りかかっていた義勇さんと私だけ。
「えっ、と……」
本当に何とか無理をして体を起こし、義勇さんの方を恐る恐る見る。
でも何も言ってこなくて、それが逆に怖い。
「……義勇、さ……?」
何も言わずに、ゆっくりと私の方に歩いてくる。
お、怒ってる……!?とか思って目をギュッと閉じる。
聞こえてくるのは、ゆっくり歩いてくる足音だけっていうのが怖すぎる。
「っ……」
足音が止まって、私の目の前まで来た事がわかった。
見えないよう掛け布団の中で手をギュッと握りしめる。
「はぁ……お前また無茶したな?」
ため息混じりにそう聞かれた。
「無茶はしましたけど……別に生きて帰って来てるからいいじゃないですか……」
私は下を向いたまま、小さい声で反論した。
実際そうだ。
別に私が死んでも誰も困らないし、鬼狩りで一般人を守って死ねば少しはいいだろう。
「それにっ、私が死んでも別に……!!」
思わず、バッと顔を上げて一番言いたくない事を言ってしまった。
それも……私が一番大好きな人に。
「…………は?」
義勇さん本人はというと、目を見開いてただ何も言わずに私のことを見つめてくるだけ。
有り得ない、とでも言いたいかのように。
「あっ、……今のは……聞かなかったことにし……むぐっ……!?」
全てを言う前に、手で口をグッと塞がれた。
まるでそれ以上言うな、とでも言わんばかりに。
口を塞いできた義勇さんはというと、すごく真面目な表情でこっちを見てくるだけだった。
そして少しため息をついた後、口を開いた。
「二度と俺の前でそんな事を言うな。俺がお前のことをどれだけ大事にしているか分かるか?」
そのまま少し苦しそうな表情になって、ため息をついた。
いつもとは違う義勇さんの様子に、心が痛む。
こんな事を言うつもりはなかったのに。
「俺は……これ以上、大事な人を失いたくないんだ……」
弱々しく、それだけ言われてしまった。
私の口を塞いでいた手はゆっくりと離れていって、そのまま私の右腕をキュッと、軽く掴んできた。
それだけだった。
それ以上、何も言わなくなってしまった。
「……ごめんなさい……」
何とか左腕を動かして、右腕を掴んでいる手の上に自分の手を重ねた。
そして、何も言えないまま俯いて少しだけ目に涙を浮かべた。
こんなに義勇さんが私のことを思っていてくれたなんて考えてもいなかったから。
……申し訳ない事をしたな……
ふと、腕を掴んでいた手がスルスルと下に下がっていったのがわかった。
何だろう?とか思っていると、急に手首を引っ張られ、そのまま抱き締められた。
「!?」
驚いて声も出ないでいると、耳元で義勇さんが
「……少しだけ、こうさせてくれ」
って言ってきて急に耳が真っ赤になるのがわかった。
よくよく考えれば唐突に好きな人から抱きしめられているわけだ。
なんなら、少し告白の様なものをされた後。
「えっあ……わかりました……」
肩に顔まで埋めてきて、耳に義勇さんの髪が当たって少しくすぐったい。
私は、こんな大好きな人に心配させてしまっていたんだなって事に気づいた。
「……義勇さん、」
少し、甘えた声で名前を呼ぶ。
「………どうした」
「もう少しだけ、そうしてください」
「……あぁ」
いいな、ずっとこうしていたい。
そんなことを思いながら、私は軽く義勇さんを抱きしめた。
しのぶさんの口調がよく分からない。
また切り時を見失ったから長くなった
妄想でしかない話過ぎて😳