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キミの名前を描きたい。10
大好きにさせてくれてありがとう。
「だけど、小鳥遊には、小鳥遊だけには本当の俺を知ってもらいたい。知っていて、ほしい。」
「……。」
「君が、好きだ。」
最後の言葉を噛み締めた途端、初めて純粋な涙が俺の頬を伝った。
泣いたのは、何年ぶりだろうか。きっと、あの事件の後は一度も泣いたことが無かったと思う。
人前で泣いたのは、多分これが初めて。
そんなことを考えると、なんだか急に恥ずかしくなってきて、小鳥遊から目をそらした。
「海勢頭君。」
しばらくの沈黙の後、まっすぐな小鳥遊の声が音の無くなった世界に響いた。
俺はまっすぐに小鳥遊の瞳を見つめる。
目が合った瞬間、何か見えない糸のようなものが俺と小鳥遊を繋いだような気がした。
「私、知らなかった。ありのままの海勢頭君を。」
涙が滲んで視界がぼやけているけれど、小鳥遊がはっきり俺の目を見てくれているということだけは、しっかりと分かった。
「教えてくれて、ありがとう。海勢頭君のほんとの気持ち、知れて、嬉しかった。本当に、ありがとう。」
「……っ!」
俺はそこで初めて、小鳥遊の笑顔を間近で見た。
俺がずっと憧れてた、あの眩しい笑顔が目の前にある。それは俺にとっての大きな夢で、今、この瞬間に、夢が叶った。そして、甘く、優しい声でこう言ったのだ。
「え、どうしたの?そんな驚いた顔して。」
「え、あ……いや、その。」
小鳥遊が俺を心配してくれている⁉幸せすぎて、現実を受け止められない。
「初めて笑ってくれたな、って。」
「当たり前でしょ?」
「え」
小鳥遊が世界一可愛い笑顔を俺に向けながら言う。
「海勢頭君の事、全く知らなかったし、むしろちょっと怖かったしね。」
「あぁ、ごめん……。」
やっぱり。怖かったんだ、俺。小鳥遊に怖い思いさせる男なんか最低だった。
「でも」
小鳥遊がまっすぐ芯のある声を発しながら再び俺の目を見つめる。
「私は、逆に尊敬してた。今までの性格が本当の性格だったならね。」
「尊敬……。」
小鳥遊の言葉を繰り返す。
「うん。思ったこと、素直に言えるのすごいなって思って。今だって、こうやってちゃんと思いを伝えてくれた。それが、本当にすごいと思う。」
「……。」
初めて、褒められた。
嬉しい。心の底からそう思えた。
人にすごいと認めてもらえること、それがこんなにも嬉しいことなんだって、幸せなことなんだって、初めて気づけた。
それは全部小鳥遊のおかげ。
「だから、ありがとう。海勢頭君。」
「こっちこそ、俺を変えてくれて、ありがとう。」
「ふふっ」
「な、なに。」
「大袈裟だなぁ、って思って。」
「大袈裟なんかじゃっ!」
こんな会話ができているのも、君が笑ってくれてるのも、君に出会えたことも、全部が奇跡だ。
「うん。何回も言うけど、ありがとう、海勢頭君。」
「変えてくれてありがとう。それと……」
もう一度、言っておこう。俺の気持ちを。
俺の、初恋を。
「それ、と?」
小鳥遊が俺から目を離さずに聞いてくる。
そんな可愛い顔で見られたら俺、死ぬって。
「それと―」
―キーンコーンカーンコーン
授業の始まりのチャイムが学校中に鳴り響く。
タイミング悪っ!
「うわっ!やば、授業遅れるー!」
「行こ。」
俺はとっさに小鳥遊の細い手首を掴んで走り出す。
「えぇっ!ちょ、海勢頭君!」
「いいから!」
二人そろって階段をのぼる。
俺はただ無心で小鳥遊の腕を引きながら猛スピードで走っていた。
ようやく自分たちの教室がある階まで上がってきたとき、俺の引いている小鳥遊の手に力が入った。
「ちょっと!」
「え、なに?」
俺たちは階段の途中で立ち止まっていた。
「あの!さっきの……続き、ほしいんです、けど……。」
えぇっ!なにそれ、可愛すぎでしょ⁉
「あぁ、それは……。」
「……」
俺より下の段にいる小鳥遊が真剣に俺のことを見ている。
俺もまっすぐ小鳥遊を見つめ返し、まっすぐな言葉を発した。
「それと、大好きにさせてくれて、ありがとう。」
「えっ」
「さっ、行こ。遅れる。てか、遅れてる。」
俺は再び歩き出す。
真っ赤になっている自分の顔を隠したいのと、これ以上小鳥遊の顔を見ているとマジで倒れるかもしれないから。
「あ、あのっ!」
振り向くと、そこには顔を桜色に染めながら目を涙でいっぱいにしている小鳥遊がいた。
「私に、一生分の勇気をくれて、ありがとう。」
キミの名前を描きたい。10を読んでくださりありがとうございます!
これからも、頑張って書いていくのでよろしくお願いします!