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終焉の鐘 第十話
この世界は、嘘で成り立っている──
誰もが嘘を並べ
誰もが嘘を信じ
誰もが嘘を愛す
この世界は、嘘で成り立っている──
誰もが嘘を並べ
誰もが嘘を信じ
誰もが嘘を愛す
中国裏社会の帝王
【闇雲】
彼の率いる|組織犯罪集団《マフィア》
【|终焉的钟《終焉の鐘》】
彼らもまた、
嘘を信じ
嘘を愛し
そして
闇を愛すものだった
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第十話 ~病気~
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「俺が──幹部?」
黒雪の呆然とした気の抜けた声に紫雲はふっと笑って頷いた。
「断っても良い。ただ、俺はお前を推薦する」
紫雲のその言葉に、黒雪はゆっくりと立ち上がり、Lastの方を見る。
「試験を受けて、良いですか?」
Lastは静かに頷くと黒雪に微笑んだ。
「全力でやってこい」
「はい‼︎」
黒雪は嬉しそうにそう言うと、紫雲に向き直る。
「紫雲様、必ず、勝ちます」
黒雪の力強い言葉に、孌朱は楽しそうにそれを眺めた。紫雲は一瞬、自分の心臓を触ってから銃を取り出す。紫雲のその動きは、黒雪から見たら謎だらけだった。ただ、そんなちっぽけなことをやる気が入った黒雪がきにするわけがない。
「Code name【黒雪】──真っ黒に染め尽くす」
黒雪の目に鋭さが増す。刃のように冷たく光るその目に、紫雲は数歩後退る。黒雪が得意とするのは近距離からの攻撃。それを回避するための行動だった。
「地獄────自虐────自殺────」
紫雲はボソボソとそう呟きながら黒雪の動きを捉える。その途端、黒雪の攻撃が紫雲に届く寸前で綺麗に空振った。体が変だ──黒雪はそう感じる。正しくは体じゃない。脳が変だ。そう感じた。前にいる紫雲が突然にぐにゃりと曲がったような感覚だった。
「自傷────」
「────────っ⁉︎」
突然飛んでくる紫雲の攻撃をスレスレで避けながら、黒雪は歪む目の前を見つめている。
「今の避けれるんだ──流石だよ黒雪」
(見えた)
黒雪はそう感じる。紫雲の動きが少し鈍い。
「黒雪っ────止まれ‼︎」
突然飛んでくる闇雲の声に、黒雪はハッと前を見る。黒雪は何もやっていない。攻撃は掠ってもいない。それなのに、目の前に紫雲は倒れている。
「紫──雲──様──?」
紫雲からの返事はない。目の前で倒れている紫雲は、苦しそうに呼吸をしていた。
「Last、僕の屋敷に戻って倉庫から203の薬を準備しておいてくれ。氷夜はレモンと一緒に自分の屋敷に戻れ。七篠も氷夜についていけ。孌朱、君はこっちを手伝え。黒雪はLastの屋敷から107の薬をもってこい」
手早く指示を出す闇雲に、全員が言われた通りの行動をした。Lastの屋敷に戻り、薬を探している時に、黒雪はふと思い出す。
「107って──────」
黒雪は手にした薬を見て息を呑んだ。これは薬というよりかは毒だった。飲んだら死ぬ──そうLastには教えられてた薬だ。黒雪は少し戸惑いながらもその薬を懐にしまい、元々いた場所に戻って行った。
「闇雲──ここまで来るとかなりキツイですよ?普通に死ぬ気ですか?」
闇雲の隣にいた男に、黒雪は目を見開く。
「地獄偶人──」
偶人は闇雲の隣で孌朱と闇雲と一緒に何かを調合していた。
「黒雪──遅い」
孌朱にそう言われた黒雪はハッとしたように薬を渡す。闇雲は、Lastが持ってきた薬と、闇雲達が調合していた薬を躊躇なく自分の口に流し込む。そして──黒雪が持ってきた薬という名の毒も口に流し込んだ。
「⁉︎」
薬の複錠、それに毒を自分に流し込めば、普通に死ぬ。自殺行為だ。闇雲のそれを止めようとした黒雪を、偶人は軽く抑える。
「大丈夫だ──闇雲は死なない。紫雲は闇雲にとって、数少ない生きる希望だから──今は見守っておいてやれ」
偶人はそう言うと黒雪に微笑む。
「|闇雲《あいつ》の心の闇を、これ以上増やさないで上げてくれ」
すがるようなその偶人の言葉に、黒雪は動きを止める。そして呆然と闇雲を見つめていた。
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「黒雪」
Lastの屋敷でぼーっとしている黒雪に、Lastは声をかける。
「紫雲様が、お前を呼んでる。闇雲様の屋敷ではなく、紫雲様の屋敷に行くように」
Lastはそう言うと、黒雪に一枚の地図を渡す。その地図を見た時、黒雪は固まった。
「これ──今はもうない共和国じゃ──────」
Lastは静かに頷いた。
「今まで紫雲様だけの屋敷が秘密裏にされていたのは、共和国にあったかららしい。俺も行ったことがない。遠いかもしれないが、なるべく急いで行け」
黒雪は大切に地図を握りしめて外に出る。1時間黒雪は止まることなく走り続けた。そして、ボロボロに崩れている都市に入る。
【レストラ共和国】
平和で発展していた国だった。戦争に巻き込まれるまでは1番の先進国とされており、観光客も多かった。
その国が今では、ただの廃都市になっている。黒雪が共和国に足を踏み入れた時、ふと人を見つける。綺麗な黒髪で、紫の目をしていた。
その容姿は、黒雪でもよく知っている──
「【地獄人形】────?」
荒れ果てた地のとある墓場の上で、青年は立っていた。昔、小学生の殺し屋として知れ渡っていた青年──そんな地獄人形の容姿は裏社会では誰もがよく知っている。かつて、共和国を戦争に巻き込んだ国を全て、地獄傀儡とたった2人で滅ぼした存在だ。
「あぁ、黒雪──来てたのか」
突然声をかけられて、目の前の地獄人形を黒雪は呆然と見つめた。
「ようこそ──突然呼んでしまって申し訳ないね」
「紫雲様──?」
地獄人形こと紫雲は、冷たい雰囲気など微塵もない優しそうな笑顔で黒雪を少し離れた屋敷に招き入れる。屋敷に入った瞬間、黒雪は様々な光景が目に入る。
黒く塗り潰された幼い頃の紫雲の家族との写真──
床に散らばっている地獄傀儡だと思われる人からの大量の手紙──
飾られている幼い頃のトロフィーや賞状──
沢山の戦争中の写真──
そして、とある物を見た黒雪は固まる。
そこにはレストラ共和国の王族のみが持っているはずの共和国の紋章だった。
紫雲の痛々しい過去が脳に流れてくるような感覚になる。
「驚いた──?僕は、自分の本当の名前を知らない──」
ボソッと呟いた紫雲は、黒雪に席に座るように促し、お茶を出す。
「昨日、あの後目が覚めた時、闇雲様と話し合って決めたことだけど、君は明日からLastの代わりとして幹部になる。Lastはてこが率いていた方の幹部になってもらうことにしたから、これからも頑張ってね」
胸ポケットから小さい紙を取り出して黒雪に渡す。終焉の鐘のマークが入った小さな紙。幹部になった印のものだった。
「本当は闇雲様の方から渡すべきなんだけど──昨日毒を飲んだせいで今は少し体調が優れないんだ」
紫雲はそう言うと、静かに話し出す。
「僕はさ、元々病気を持っているんだ。心臓の病気。発作が起きた時は、とある薬という名の毒を飲まないと行けない──しかもそれは、倒れてからだと自分の口で飲めないから毎回闇雲様がああやって自分の体を犠牲にして口移しで無理矢理飲ませてくれてる──」
紫雲は目を細めて黒雪を見つめた。
「黒雪だから──僕は君をここに招待した。君には、僕のことを知って欲しかった。地獄人形という過去を、僕が求めているものを、全て──────君に教えたい」