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裏切り
裏切り。というのは。
信頼が根底にあって使える言葉ですよね。
端から信じていないなら。
裏切りとは言えないでしょう?
裏切るという言葉を考えるなら、信頼という言葉を考えなければいけない。
信頼というのは何でしょうか。
心の底から信じる事でしょうか。頭で信じられれば良いのでしょうか。
時々漫画では裏切られてすら許せるのを信頼と呼びますが。
私にとって心というのは信用できないものです。
自分の心に対しても。俯瞰の自分が文句を垂れているので。
もしこれが。信頼できない。ということになってしまうならば。
自分は誰に裏切られても。自分が裏切られたとは発言できないことになってしまう。
全部信じていないなら。裏切られていいことになってしまう。
それは裏切りといえないから。
裏切られることよりも。知らず裏切る方が怖い。
知らず裏切ることよりも。信頼されているという事実が怖い。
私が信用できない自分を、信じている人間がいることが怖い。
裏切りとは何か考える私が。女嫌いの私が。女の裏切りのSSSを。
目次
・女は五歳で黒くなる
・好きの|対義語《反対》は憎悪
・信頼恐怖症
『女は五歳で黒くなる』
女に生まれて良かったことがある。
女の裏を知れたこと。
女に生まれて後悔したことがある。
女の本質を知ってしまったこと。
小説好きだった私は、昔からずっと図書室に入り浸っていた。
少女漫画や子供向けの小説から、読みつくしてミステリ畑に手を伸ばしていた。
美貌で男をだます毒婦は、小説のネタとして私の眼におもしろおかしく映った。
現実と切り離して読み物を読んでいた当時、現実とは重ならなかったのである。
いきなり状況が変わったのは小学校低学年。
私の世代的にはまだ携帯を持つ子は少なかった。
丁度学校や親が持たせるようになったのがそのころだった。
学校に持ってくる子は片手で収まったが、家ではみんな使っているようだった。
小説があれば他に興味のない私にとって苦痛は無かったものの、
話のかみ合わなさ、キャラの変化に気付いてはいた。
友達が欲しかったので、周囲に意識を向けてはいたからである。
その時仲のいい男子が居た。弟同士が仲が良かったので、良く家に遊びに来ていた。
その子が学年で人気の高い方だった。
さらにその時学年でいじめが横行していた。いじめられっこの依存先が私だった。
全学年で百人弱。それだけの人間が居て皆主犯か共犯だった。
菌扱いされているのが男女それぞれで一人いる状態だった。
自分は二人に特別嫌がりも仲良くもしなかった。
教師のお気に入りという特殊な立ち位置に居て。一人が好きだったから。
特別文句を言われたりもしなかった。
カーストトップの女子グループ。それのボス的存在に目をつけられるのは当然だった。
彼女の頭は良い方だった。運動神経も悪く無かった。ダンスが上手で大人の信頼も厚かった。
女として、小学生として、人間として、子供として。彼女の立ち回りは上手だった。
人の顔色を見るのも、周囲の行為を察するのも。彼女が一番得意とすることだった。
そんな彼女に敵認定されてしまったのは、私の生き方の為と思う。
既にミステリにはまっていた私は、ちっぽけな目の前の学校という世界を重視していなかった。
だからこそ、一時期ターゲットが自分に向いたけれど、害が無かった。
大人に媚びを売る、大人に嫌われないというのが前提で生きている彼女。
いじめと言っても大人に見つからない様に、本人が確実に苦しむやり方をする。
クラス全員が無視しても、持ち物を隠されても、菌扱いも。
私にとっては元からない関わりだったし。
三度文具が無くなってからは机に置くことは止めたくらいで。
私は多少めんどくさい、自然災害という様な受け止め方をしていたから。
全く本人が苦しんでいないことを知って彼女は、というか周囲が。馬鹿らしくなったようだった。
学年のいじめがぴたりと止んだ。
彼女が自分にやったことで二つ。特別印象に残っていることがある。
一つ目は恋人との関係を気付かれたこと。
告白してその日、OKを貰ったが。その直後に滅多に話さない彼女に話しかけられた。
あの日浮かれていて自慢したくなってしまったのが間違いだったのだろうか、
言いふらされたことは鮮明に記憶にある。
ただ私の立場が良かったのだろうか。特に害は無かった。
今思い返してみれば、本当に彼女が周囲に気を配っていた敏い人だと思うわけである。
近くに置きたくはないが。キャラクターとしては好きなタイプだ。
二つ目は修学旅行前の事。
自分が行く意味が無いのではないかと考えていた時だった。
この時も特別仲が良かったわけではない。偶々帰り道が同じ方向だった。
「来てくれたらうれしいな」
滅多に関わらない女子にそう言われれば、舞い上がってしまうものである。
修学旅行当日、一度も会話が無かった事で、信じる馬鹿らしさを感じたのだ。
信じてしまったがために裏切られたのだと。人生で初めてそう思ったのだ。
今思い返してみれば。言い方は悪いが娼婦性、彼女の男心を弄ぶ能力の高さが感ぜられる。
この要素も関わりたくはない理由だが。キャラクターとしては分かりやすくて好ましい。
この女とは小学一年から九年間の同級生だが。今どうしているだろうか。
およそ私の見立てでは、良いように男を使って大学生活を謳歌しているんだろう。
腹黒さというよりは生きる術。幼少期は女の方が頭が良いものである。
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『好きの|対義語《反対》は憎悪』
小学校高学年の時。体験学習の様なイベントがあった。
一泊二日。土日を利用して何かしらのテーマに沿って遊んだり学習できるものだった。
私は人見知りだった。イベントのチラシを見ては誰か一緒に行けないものかと考えるのだ。
友達もあまりいなかった。本の中の世界を優先していたから当然だけれど。
そんな時誘ってくれたのが彼女だった。
一度言ってからは楽しくなって。毎週のように通いだした。
彼女の方が先に通っていたらしく、友人が欲しかったのだとか。
彼女は転校生だった。その年は二人転校してきたのだ。
転校生というのはやはり注目されるものだ。
皆に囲まれて嬉しそうな困ったような対応をしていたのを覚えている。
二人いると比べられるもので。もう一人がきつい性格だったから優しそうな印象になっていた。
彼女が会話に入らなくなったのが一年ほど経ってからである。
私は一人でいたので周囲のグループを見ていただけだが。
いじめと違うハブられ方を警戒すべきだったのかもしれない。
人に嫌われる人というのは何かしら問題を持っている場合があるのだから。
友達が欲しかった、イベントの話ができる相手が欲しかった。
私にとっては絶好のタイミングだった。
数か月も通い続けて、職員やほかの参加者とも顔見知りになって。
彼女よりほかの人達と仲良くなってしまった。
元より面倒くさがりなだけで人とコミュニケーションは取れる性質である。
急激に彼女の態度が変わっていった。
恐らく、自分が面倒を見てあげているという状況が好きだったのだろう。
私が独り立ちした瞬間に、扱いが雑になった。
彼女が事件を起こしたのはそんな折である。
そのイベントは、図書館から児童書を借りてきて紙芝居を作るというものだった。
その図書館から借りてきた本が、私の選んだものが一冊、失くなったのだ。
と言っても数時間後に隣の部屋から見つかったが。
失くしたと騒いだ彼女のせいで大ごとになったのだ。
というより、そっちに置いたのが彼女なんだから。
しかしこれを職員が証言したのが悪かった。
彼女の精神に効いたらしい。その日私はまた友達を失った。
別に私が文句を言ったわけではなく、相手から離れていったのである。
あれだけ気に入ってくれていたのは、見下せる相手だったから。
ずっと気にかけてくれたのは、そうすることで自分の株が上がるから。
私と彼女の立場が変われば、貶める相手に早変わりというのが現実だった。
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『信頼恐怖症』
人を心から信じたことが無かった。
人の信頼を心から信じたことが無かった。
ヒトとしてこの世を生きていながら、
そのすべてを画面越しに見ているような、俯瞰視点が抜けなかった。
親子の関係も、そういう茶番だと思っていた。
親は親の役を、子供は子供の役を、教師、先輩後輩、上司や部下。
皆々が各々の立ち回りを意識して、役を役としてこなす。
そういったものだと思っていた。
自分が演じていたのは、親に対しての子供の役、孫、姪、親戚の子供の役。
それから、生徒の役、同級生の役、友達の役、恋人の役、etc...
自分の感覚がこんなだったから、人の事を信じられなかった。
相手も自分を信じているシナリオだと思っていたから。
相手が本当に自分の言動を信じていたと知った時、衝撃だった。
人の心を知ってから。人の心が本物と知ってから。
人と関わるのが急に恐ろしくなった。
プラスチックだと思って平気で遊んでいたものが、ガラス製と知って触れなくなるような。
人の心は一人ずつが動かしているものだから。勝手に棚に飾ることも出来なかった。
独り急にぎこちなくなったところで。周りは気付いてくれやしない。
良く言えば、演技力に長けていた。悪く言えば、人間味に欠けていた。
与えられた玩具で遊ぼうという時。借り物だと緊張するものである。
ガラス製の心はまさにそれだった。
怖くて怖くて、でも逃げる術を持たなくて。
自分が選んだ選択肢は、自分を誤魔化すことだった。
”この玩具はプラスチックだ”と。”これは自分のものなんだ”と。
挙句の果てには自身に騙された自分だけが残る。
”相手は自分の醜さを、解った上で茶番に乗ってくれているのだ”と。
それを信じておかなければ、自分の生き方が崩れると。
出会ったのは優しくて真面目な子
遊んだのは気が合う面白い子
悪戯したのは落ち着いた照れ屋な子
好きと囁いたのは素直で可愛い子
籍を入れたのは___
今まで重ねてきた毒女たちとの記憶が。
騙された後、関係が壊れた後の自分の心情が。
まざまざと蘇って心を刺す。
騙されない為にと思ってきた信頼への壁が、今更になって。
相手を傷つける刃物と化していたことに気付く。
最高の毒婦はじぶんだったのだった。
娼婦を真似た人生柄、恨みを買うのは致し方ない。
しかし。こんな人間に真から心を寄せてくれた善い人たちを。
只の自分勝手で傷つけるとは情けない。
______攻撃は最大の防御というが。
全身全霊の防御は攻撃に成り代わるというのだろうか。
己が身を守ろうとしただけであるのに______。
最も信じてはいけない過大評価に縋ったのだ。
自分の都合のいい真実を信じたのだ。
昔感じた裏切りまでが信頼とワンセットな感覚を思い出す。
やはり我が身を落としたのは……信頼に違いなかった。
裏切りのSS、如何でしたでしょうか。
書き上がってから見返しますと内容の薄さに辟易といたしますが、
共感して下さる方や新しい視点と感じて下さる方がいて欲しいと存じます。
またの機会に。