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【 化け物: 怪奇の屋敷 】 第一章
** 登場人物 **
・|宮先《みやさき》 |氿《いずみ》
(14歳)
・|五十嵐《いがらし》 |翠《すい》
(14歳)
・|赤松《あかまつ》 |唄音《うたね》
(14歳)
・赤松 |昌人《まさと》
(36歳)
・|白木《しらき》 |碧《あお》
(14歳)
・|奥沢《おくざわ》 |蓮也《れんや》
(14歳)
--- ※ ---
車のエンジン音だけが、車内を埋め尽くしている。
片道約四時間、眠らず運転し続けた同級生の父──赤松 昌人はまだ疲れていないようだ。
車外を眺めるが、一面は緑。この車は一時間半前からずっと山道を走っている。
左横に座る五十嵐 翠たちは眠っているらしく、穏やかな寝息が聞こえてくる。
「皆、もうすぐ着くよ」
ふと顔を上げて、赤松 唄音の父は言った。
この日、こんな町外れの山奥にまで来たことには理由がある。
奥沢 蓮也という同級生の車が壊れてしまったという。なので迎えに行っている、という。
原因は些細な ──ガレージ以外には被害が及ばないほどの── 崖崩れらしい。まあこんな山奥なものだし、仕方のないことだろう。
三十分後ほどに車が止まり、宮先 氿は顔を上げる。
「着いたんですか?」
その問いに振り返り、昌人は言う。
「おう、起きたのか」
「疲れた、もう無理。」
「当分車はいいかな」
口々に同級生たちが愚痴を吐く。 どうやら奥沢の家に着いたようだ。 辺り一面木々が生い茂り、山奥特有の不便そうな雰囲気を漂わせている。
昌人が駐車したのは目の前に続く坂の一番下で、この坂を進めば奥沢宅があると言っていた。
「それにしても、自然豊かで良いところよね」
五十嵐が周囲を見渡す。 彼女は都会生まれで、こういった自然を体感するのが物珍しいのか。
右の崖から見えるのは、二十年ほど前に作られたというダム───名称は〝|京仙《きょうせん》ダム〟。
今は降雨量が少なく水位が低いらしいのだが、氿は「結構深い」と思った。
「おーい」
ふとこちらを呼ぶような声が前方から投げられる。人影と声からして奥沢だ。
「蓮也、お前もうちょっと都会に暮らせよな、じじくせぇ」
「うるせぇよ、お前やって田舎生まれやろ」
気が付くともうすぐそばまで走ったのだろう奥沢は、白木と肩を押し合って煽り合いをしていた。
「宮先は良いよな、都会生まれで」
奥沢は宮先を見やる。
「いやね、僕は田舎の方が全然格好良いと思うから」
「何だよ、ちぇ、こいつが一番じじくさいわ」
「ささ、行こうか」
「わざわざこんな山道を…、昌人さん、ありがとうございます」
車内に入り助手席を勧める昌人に対し、奥沢は丁寧に頭を下げる。
そんな社交的な奥沢の行動に、白木は小声で「大人ぶりやがって」と舌打ちした。
再び走り出す車に、流れ出す曲。この曲は赤松と五十嵐が好きなジャンルだったか。
「蓮也さ」
「何や」
「宮先ってどう思う」
囁き声で言う白木。「いじめごっこやめてよね」と氿は笑う。
「嘘だって」
「びっくりした、こいついじめ側なんかと思った、絶交の機会やて逃したわ」
「ガチっぽいのやめろよな」
そんな会話を傍目に、五十嵐と赤松は黙り込んでいる。
「そういや、心霊スポットってここら辺だっけ」
しばらく沈黙が流れるのかと思いきや、白木がふと口に出す。
「心霊スポット?」と氿。奥沢は「へ?」と疑いの目を向ける。
「〝化け物〟が出るって聞いたことがある」
「これ冗談やったら今度こそ絶交やで」
「黙れよ」
「その心霊スポットの屋敷に踏み入ると、死ぬっていう」
「そんな安直な話おもんないて」
その時。
「あれっ」
車が少し鳴り、やがて動かなくなる。ガソリン切れだ。
車内は一通りの沈黙で埋められる。
こうして、不運な運命──いや、〝何者か〟に仕向けられたのか、氿たちはあの屋敷へと立ち入ることになったのだ。