𝐈𝐟〈桃太郎〉3

出発しませんでした。 「僕には……。僕には！　やっぱり鬼退治なんて無理だよ！！」 「ど、どうしたんだい桃太郎。何かあったのか？」 「急に気が変わるなんて、桃太郎らしくないわよ。どうしたの？」 「だって、だって……！　鬼って、すごく強いんでしょ？　僕よりも何倍も大きくて、金棒持って、襲ってくるんでしょ？」 「……」 「……」 「だ、だから、怖くなっちゃったんだ。やっぱり、僕みたいなやつが、倒せるわけないじゃないか……！」 「そ、それは……ッ」 「桃太郎……」 桃太郎は小さく呟いた。 「みんなで、町に逃げようよ……」 ☆★☆ 桃太郎たちは、村全員を、町に避難させることにしました。 反対意見は強かったけれど、桃太郎の真摯な姿勢に心を動かされ、全員町に避難することができました。 それからしばらくは、平穏な日々が続いていきました。 しかし。 その数日後。 町で暮らしている桃太郎たちのもとに。 「村が滅びた」という知らせが入ってきました。 「……ッ！！」 「何てことだ……」 「そんな……！」 おじいさんとおばあさん、そして桃太郎は絶句しました。 「僕のせいだ……」 「……」 「そ、そんなことは……！」 「いや、僕のせいだ。僕が、僕がもっと……」 「……」 「……」 「僕がもっと強かったら、自信を持って鬼退治に行くことができたはずだ……！」 桃太郎は、後悔の念で押し潰されそうでした。 「それに、僕がみなさんの反対を押し切って、町に連れてきてしまったから。みなさんにとっての村の大切さも考えずに……！」 「……」 「……」 「そもそも、僕が『鬼退治に行く』と言っていたのに、急に意見を変えたから……。村長さんも、きっと困っただろう……」 他にも思うことはたくさんあった桃太郎ですが、言葉にするのは難しいほどたくさんの思いが、心を苦しくしました。 「みんな、僕のせいだ」 「……」 「……」 「ごめんなさいっ、ごめんなさいッ、ごめんなさい……ッ！！」 桃太郎の泣き声が、町中に虚しく響き渡りました。 おしまい。 ▶︎出発した ▷出発しなかった ……「出発した」を選択しました。…… 出発しました。 --- 「それでは、行ってまいります！」 「桃太郎、行ってらっしゃい！」 「がんばってくるんだよ！　必ず帰ってきてね！」 「うん！　おじいさんが作ってくれた旗と、おばあさんが作ってくれたきびだんごで、僕は強くなった気がする！　絶対に鬼を倒して帰ってくるよ！」 「行ってらっしゃい！」 「応援してるよ！」 「うん！　行ってきます！！」 力強く叫ぶと、桃太郎は鬼退治に出発しました。 ☆★☆ 桃太郎が歩いていると、犬が通りかかりました。 犬は桃太郎を見ると、いきなり喋り出しました。 「桃太郎さん桃太郎さん、お腰につけたきびだんご、1つぼくにくださいな！」 それを聞いた桃太郎は、犬にきびだんごを ▷渡した ▶︎渡さなかった ……「渡さなかった」を選択しました。…… 渡しませんでした。 「ごめんな、これは僕のものなんだ。鬼退治が終わったら、おばあさんにたくさん作ってもらうから、それまで待っててくれ……！」 「——そうですか。分かりました。じゃあ、約束ですよ……！」 「うん。必ず渡すから！」 そう言って、桃太郎は1人で鬼退治に向かいました。 ☆★☆ 「——ここが、鬼ヶ島か……」 桃太郎は、乗ってきた船から降りると、鬼ヶ島の入り口に立ちました。 大きな門があります。 「——鍵がかかっているな。どうやって入ろうか……？」 桃太郎は考えました。 「……そうだ。仲間の鬼のフリをして入ろう」 そう思った桃太郎は、大声で、 「おーい！　出かけていた桃鬼だ！　開けてくれ！」 返答はありません。 しかし、しばらくすると、門の奥が騒がしくなりました。 鬼たちの声が漏れ聞こえてきます。 「………んだ…」 「だ…だよ」 「…かけ………なんて……か？」 「俺…知ら………」 「……お前…………か？」 「…も………よ」 何だか言い争っているようでした。 桃太郎が辛抱強く待っていると、いきなり門の奥から大声が聞こえました。 「おい！　お前は誰なんだよ！」 「……ッ！　僕は桃鬼だ！」 「……」 「開けてく——」 「だから、誰なんだよそいつは！！」 「……！」 「俺の仲間に桃鬼なんてやつはいない。おまえは村のやつだろ！？」 「……！　ち、ちが——」 「分かってるんだよ！　おいお前ら、行くぞ！」 ｢｢｢おう！｣｣｣ と、突然、門が開き、鬼たちが一斉に襲ってきました。 「どりゃああああああ！」 「……ッ！　くそ……！」 「やっぱり人間だったぞ！」 「やっちまえ！」 それからしばらくは、激しい戦いが続きました。 たくさんの鬼たちと戦う桃太郎も、きびだんごを食べていたので、勝負はほぼ互角でした。 その戦いは、とてもとても長い間続きました——。 ☆★☆ 鬼ヶ島からは、音が消えました。 今は、誰も近づくことができません。 「近づいたら呪われる」という噂もありました。 そして。 桃太郎が、おじいさん、おばあさんの元に帰ることはなかったそうです。 おしまい。 ▶︎渡した ▷渡さなかった ……「渡した」を選択しました。…… ---