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食堂で本を読む
前を歩くメリンの、首元で跳ねる髪を、ソナタはなんとなしに見ている。一度途絶えた会話は再び始まる時を見逃し、気まずくはなくともやや違和感のある沈黙が落ちていた。
「…ん?お、メリン!ソナタ!」
不意に通路の曲がり角から人影が現れたと思ったら、ゴジグがこちらに手を振りかけていた。
ゴジグはソナタたち六人の中でも特に体格が良く、筋肉がつきにくいソナタは密かに憧れていた。ゴジグに教わった簡単なトレーニングを実践してみても、ソナタの身体はいやに生白く、奇妙にゴムのような感触を返してくるのだった。
「お前らも昼食か?一緒に食おうぜ」
「おう」
ゴジグが輪に加わったことでそれまでの空気が払拭され、ソナタは内心ほっと息を吐いた。ゴジグとメリンが先に歩き出すが、ソナタの分のスペースを空けておいてくれる。個人主義のコロニーの中では珍しい、彼らのささやかな気配りが身に沁みた。
食堂では既に、ユオたちが長机に席を取っていた。ユオたち、というのは、ユオ、スゼル、ミドリのことで、ソナタたち三人を含めたこの六人は、何かと行動を共にすることが多かった。
ユオとミドリは何か話していた様子で、楽しそうに笑いあっていたのが、ふとこちらを向いた。先に気づいたのはユオの方で、ミドリの肩を叩いて教えるのが遠目にも分かった。こちらに背を向ける形で座っていたミドリが振り向き、ひらひらと手を振る。ユオの正面で文庫本を読んでいたスゼルも顔を上げ、ソナタたちの姿を認めると本を閉じた。
三人の前にはトレーとそれに載った昼食があるが、手がつけられた様子はない。もしかして自分たちを待っていたのだろうか。
「ごめん、待たせた?」
ソナタが言うと、スゼルが「どうせなら皆で食べた方がいいと思っただけだ」と答える。スゼルはやや言葉が足りず無愛想に映るときもあるものの、芯は優しい男なのだと既にソナタたちは気づいている。
「そうそう、飯は皆で食うのが1番だぜ!」
気にすんな、と言わんばかりに顔じゅうで笑いながらユオが言う。ユオは人懐っこく朗らかな性格で、なんとなく雰囲気が重くなりがちなコロニーでもただ一人、太陽のように笑顔をふりまいていた。
「三人もトレー、取ってきな。今日は鯖だって」
ミドリがそっと促す。ミドリは少し引っ込み思案で自己主張の弱さが目立つが、ソナタにとっては一番話しやすいと思える相手だった。会話は弾むのだが、お互いにそこまで主張しないタイプであるので、二人が交わした言葉はいつも、ともすればほわほわとどこかへ漂っていきそうな軽さを伴っていた。
三人で並び、トレーを取る。職員のいない食堂にはいつも人数分の食事が用意されていて、ラップのかかった皿を各自取っていくのだった。
今日のメニューは鯖の塩焼き、白米、柿とキャベツのサラダ、であるらしい。
「柿のサラダは美味いよな」
サラダが盛られたミニボウルを取りながら、ゴジグがこちらに笑みを向ける。ボウルを彩る柿を見て、ソナタは曖昧に微笑んだ。柿自体は好きなのだが、熟してゼリー状になった部分がどうにも受け付けない。
なるべく熟した柿の少ないサラダを選び、机に戻る。つやつやと脂の乗った鯖を見ていたら、ぐぅと腹の虫が鳴いて皆に笑われた。
「いただきます」
誰ともなく声が飛び交い、ソナタは箸を持つ。
食堂の人の入りはこの時間にしてはまばらで、既に食べ終えて隣人と会話をしている者も、ソナタたち同様ついさっき食堂に入ってきた者もいる。