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Chapter 7:あの子は誰
先ほど腹に響くような大声で叫び倒していた少女は、ローリエカラーの艶やかなボブに長めのメッシュ、軍服ロリータを着用した幽霊のような顔色の子だった。
僕より何歳か年下だろう。
あんなに小柄な体で、2mはあるハルバードを自由自在に操り、サティロスを蹴散らしていく。
「大丈夫!?怪我はない!?」
こちらに駆け寄ってきたのは、落ち着いた深い緑の長髪を乱れさせているライオンのような目をした美人だ。
「私、安藤花。大丈夫、サティロスはあの子が倒してくれるわ。」
安藤花──安藤さんは、私の足首を見るとウエストポーチから包帯を取り出して巻き、キンキンに冷えたペットボトルを僕の足に当てる。
星羅「僕は、いいので。あっちに、頭を怪我した車椅子ユーザーの女の人が…」
はっ、はっ、と息が上がり、心臓が暴れ馬の如く動いている。
落ち着いて話したいと思っているのに、話せない。
花「大丈夫。もう救護に向かってるから。落ち着いて。」
背中をさすってくれる安藤さんに安心感を抱きながらも、この状況に危機感を覚える。
花「よし、もう落ち着いた?立てる?」
星羅「はい…」
安藤さんに支えられながら路地裏へ急ぐ。
彼女のウエストポーチから着信音と思しきものがなっている。
だが、話しかける暇もなく路地裏についた。
星羅「安藤さん、電話…」
花「え?着信音、これじゃないけど……!もしかして!」
かざがさとウエストポーチを探ると、透明な宝石が嵌め込まれた腕時計が出てくる。
その腕時計が、ピーッとけたたましい音を立てていた。
花「貴方、ちょっと腕貸してもらえる?」
星羅「わか、りましたー…」
通常運転に戻ってきた語尾に安心しつつも、腕を出すと安藤さんがそれを巻き付ける。
すると、その腕時計がぼんやりと赤色に光った。
花「赤…、か。」
星羅「え?」
何かをボソリと呟いた安藤さんに何事かと聞き返すと、ライオンの様な綺麗な目がこちらを向いた。
花「こんなところでいうのもなんだけど、貴方は魔法少女の特性がある。」
星羅「……は?」
いやいやいや、思わずガチトーンで返してしまったがこれはどういうこと?
花「魔法少女は知ってる?」
星羅「まぁ、それなりには。」
花「それになれる。」
星羅「は?」
ドヤ顔で告げられても、何言っているかがわからない。
魔法少女=魔法を使ってサティロスを倒す少女=僕、とはならんでしょー!
ドガシャーン、と音がする。
路地裏から覗くと、先ほど助けてくれた少女の周りを大量のサティロスが囲っていた。
優勢に見えた彼女も息が上がり変な音を立てている。限界だ。
なんとか、助けに行けないかな。
命の恩人だし、捨てようとした命だけど。
足りない頭を捻っていると、ふと妙案が降りてきた。
星羅「安藤さん!その腕時計貸して!」
花「え!?ど、どうぞ…」
星羅「どうやって変身すんの!」
もらったはいいものの、変身の仕方がわからない。
そう、僕が思いついた妙案とは魔法少女になることだ。
少なくとも、この場は潜り抜けられるはず。
花「腕時計に手をかざして、イマジネーションって唱えて!ほら!言ってみて!」
星羅「腕時計に手をかざして、イマジネーションって唱えて!」
花「『イマジネーション』以外いらんわぁ!」
この緊急時にギャグ漫画の様な展開が続いているが、気を取り直し腕時計に手を当てる。
星羅『イマジネーション!!!!!』
体の芯から、燃えるような感覚がした。