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〚 メランコリーキッチン1 〛
『.....美味しい。』
『ほんまに!?』
良かった、と彼は|安堵《あんど》するような顔をした。
『お前は食わないの、?』
『あー...後で、食べるよ。』
きっとこいつは|暫《しばら》く何も食ってない。顔が少し|窶《やつ》れている。
人が目の前で苦しむのを見るのには、もう|飽《あ》き|飽《あ》きなんだ――。
俺は皿の上のカレーライスを一口|掬《すく》って彼の口に押し付けた。
『うぉっ。』
『お前も食え。』
彼は少し|躊躇《ためら》った後、仕方が無さそうにカレーライスを口に|含《ふく》んだ。
『.....俺、料理の腕上がったなぁ。』
『将来|嫁《とつ》げるよ。』
あははっと笑い合う。
.....こんな日々は、当たり前だと思っていたのに――。
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目が覚める。
いつものようにカーテンを開け、あいつを起こしに行こうとした。
――いない。
買い物?散歩?学校?――あいつは不登校だし、いつも起きるのは昼頃だ。外にすら|滅多《めった》に出ない。
電話をかけてみようと思ったが、あいつのスマホは部屋にあった。
スマホも持たずに|何処《どこ》行ったんだあいつ。
そうこう考えている内に手に汗が|滲《にじ》んできた。
俺のこと嫌になった?面倒だった?不快だった?
どうしようどうしようどうしよう―――。
頭痛がしてきた。吐き気もある。――とりあえず薬を飲もう。
そう思い、キッチンへ足を運ぶと一枚の紙の切れ端があった。
(手紙?それにしてもかなり雑だ....。)
【|直耶《なおや》へ
急にごめん。ほんとにごめん。親から電話来て、仕事とか色々聞かれて、大学もあんま行ってないこととかもバレちゃって....。とりあえず実家来いって言われた。だからしばらくいなくなると思う。いつ帰れるかわかんない。ほんとにごめんね。
|真琴《まこと》より】
緊急だったのだろう、字がかなり適当だ。
あいつがいないだけで、たった六畳のリビングルームも広く感じる。
いないのか、あいつ―――。
そう思うと気が楽だ。人に気を遣わなくても良いんだ。自由に過ごせる。
なのに。
「なんで.....。」
何故か頬には水滴が垂れていた。
あいつとの日々は、俺にとって大切な物だったらしい。
かなり長編になりそう。三話くらいには収めます。
読者が増えれば嬉しいです。
メランコリーキッチンを聴いたことがある人も、無い人も、楽しんでくれれば幸いです。
宜しくお願い致します。