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東方凶事裏 四。
〈〈side 歴 暦
「この辺りでその方々を見たと…?」
咲夜さんが言うには、人里の辺りで|純狐《じゅんこ》さんを見たようだ。
「ええ、この十六夜咲夜は信頼に値しない存在と?」
敵対してきた人を信頼するほど私は人懐っこいわけではないが、彼女の言葉は何故か信頼できるような、そんな重みがある気がする。
彼女はエコバッグらしきバックを片手に持ち上げ、紅魔館へと帰っていった。
「さっさっと行きましょ。時間の無駄だし」
霊夢さんにそう言われ、私達は人里の方に向かい始めた。
--- * ---
「で、私のもとに来たと」
咲夜さんの言う通りだった。
金髪で、ウェーブのかかった長髪が風のせいで靡かれた。
「私は今、そんな気分ではないが……遥々来てくれた客人。迎え入れなくてはならない」
すると彼女は渋々、一枚のスペルカードを取り出した。
「手短に終わらせたい。一発勝負でもしないか?」
「この弾幕を60秒間避けきれたらお前らの勝ちとしよう」
甘いルールだと思った。
それと同時に、私達はそんなに舐められているのか、なんて疑問が浮かんできた。
「ここは人里なのですが……」
里の外れの方で人は少ないとは言え、完全に居ないわけではない。
人を傷つけるのはあまり、というか好まないものだ。
「さぁ、手短に始めよう」
すると彼女は、もう一枚のスペルカードを取り出した。
「地上穢の純化」
「純符・純粋な弾幕地獄」
二つのスペルカード、それによって弾幕が重なり濃くなっていく。
一歩間違えたら、直ぐに被弾してしまいそうだ。
「歴符・歴史召喚!」
目の前に武将が現れた。織田信長だ。妖夢さんのように弾幕を切れる筈だ。
それに抵抗するように、純符・純粋な弾幕地獄の方は第四形態に入っていた。
たった一人でそんな数の弾幕を切り落とせるわけもなく、殆ど私たちの方に回ってきていた。
「霊符・夢想封印 散!」
赤の札と、色鮮やかな弾幕が相殺されていく。
--- * ---
「もう負けじゃない? 」
霊夢さんが弾幕を打つのをやめ、そう純狐さんに言葉をかけた。
「そうだな」
案外あっさり食い下がった。失礼だが、意外だと思ってしまった。
「少しばかり教えてやろう」
「詳しくは知らないが、彼女が起こした異変は彼女の目に映った者に対して不幸を与える異変だ」
心底、悪趣味な異変だと思った。
自分の欲のせいで不幸になる人間がいるというのに。そのせいであの子たちは寺子屋に顔を見せなくなったのに。
「はぁ?何のためにだよ」
妹紅さんもこの異変の主犯に、怒りを抱いているのだろう。
「そこまでは私も知らない。本人に聞け」
純狐さんは冷たく、私たちにそう言い放った。
「居場所はスキマ妖怪が知っている筈だ」
そう言葉を言い残した純狐さんは足早に何処かに消えていった。
「なんだったんだあいつ…」
妹紅さんがポケットに手を入れ、純狐さんが消えていった方向をまじまじと見つめていた。
「不思議なやつだけど、まぁ…嘘はつかないと思うの。まぁ、紫を探しに行きましょ」
霊夢さんが歩き始めた次の瞬間、私たちは奈落に落とされたみたいな感覚に襲われた。
そこは気色の悪く赤い瞳が広がっていた。